184話─双子大地の娯楽を求めて
好奇心を刺激され、ゲームセンターに足を踏み入れたアンネローゼとフィル。パチンコ店ほどではないものの、こちらも音楽が常に鳴っている。
入り口のすぐ側の壁に、フロアガイドが貼ってあったためとりあえず二人は目を通す。イゼルヴィアの娯楽がどんなものなのか、否応なしに期待が高まる。
「えーと、なになに……一階がクレーンゲームとプリクラ、二階がリズムゲームで三階が格闘ゲーム……と」
「どれもこれも聞き慣れないわね……あそこにあるのがクレーンゲームってやつかしら?」
田舎から上京してきたお上りさんのような状態になりつつ、二人は目に付いたクレーンゲームの方へ歩いていく。
ガラスの中には、犬のぬいぐるみがいくつか入れられている。クレーンは、オーソドックスな三本爪で掴むタイプだ。
「きゃー、可愛いぬいぐるみ! フィルくん、ちょっとこれやっていきましょ」
「いいですよ、遊び方は……ふむふむ、コインを入れた後にこのレバーとボタンを使えばいいんですね、なるほど」
愛らしい瞳が特徴的なぬいぐるみに、すっかりメロメロになったアンネローゼ。彼女におねだりされ、早速フィルがチャレンジすることに。
「銅貨を一枚入れてっと。さ、やりますよ!」
「頑張って、フィルくん! 失敗しちゃったら私が仇を討つからね!」
「そんな、戦うわけじゃないんですから……あ、掴めましたよ!」
「持ち上がったわ! そのままゴールまで……あ、落ちちゃった」
初めてのクレーンゲームでも、フィルはすぐにコツを掴みはじめていた。一回目でぬいぐるみをアームで持ち上げるところまではいけたが、途中で落としてしまう。
自分もやりたくてウズウズしていたアンネローゼと交代し、次はフィルが見守る番になる。アンネローゼは銅貨を一気に五枚投入し、ニヤリと笑う。
「これで六回は遊べるわ。さ、宣言通りフィルくんの仇を討ってやる!」
「いや、僕がやられたわけではないので……」
楽しそうな話をしながら、アンネローゼはレバーを操作する。慎重にレバーを倒し、先ほど落としたぬいぐるみの真上に持って行く。
ここだとばかりに、ボタンを押してアームを降下させる。爪がガッチリぬいぐるみの頭を掴み、上に持ち上げていった。
「いけ、いけ! そのままゴールの穴まで持って……あー、また落ちたー!」
「でも、さっきより距離は縮まりましたよ! これなら、残りのプレイ回数が尽きるまでに取れるかもしれません」
「そうね、頑張ろう! 次はフィルくんの番ね、順番にやりましょ」
わいわい盛り上がりながら、二人はクレーンゲームを堪能する。結果として、六回目の挑戦でぬいぐるみをゲットすることが出来た。
「ふっふーん、二人の力で大勝利! ね。はー、可愛いわーこの子」
「よかったですね、アンネ様。そのぬいぐるみ、僕が待ちましょうか?」
「ううん、大丈夫よ。叔母様から貰ったこのカバン、どんな大きさのものでも好きなだけ入れられるマジックバッグなの。ほら、入っちゃったでしょ?」
「わ、ホントだ。この大地、かなり技術レベルが高いですね……今更ながら」
欲しかったぬいぐるみを手に入れて、アンネローゼは大喜びしていた。肩掛けカバンの中に戦利品を入れて、ほくほく顔をしている。
「さ、次よ次! 上の階にも遊べるところはたくさんあるみたいだし、片っ端から遊び尽くすわよ!」
「はい! 二階と三階、どっちから行きます? そうねぇ、じゃ二階から行きましょ!」
好奇心を満たすべく、二人は目に付いたゲームを片っ端から遊んで回る。一通り遊んだ後、一階に戻り休憩スペースにて身体を休める。
「ふー、たくさん遊んで疲れたわね。あの格闘ゲーム……バトリングウォーだっけ? あれ気に入ったわ、持って帰りたいくらいよ」
「外から見てましたけど、凄い動き回ってましたもんねアンネ様。後で僕もやろうかなぁ」
アンネローゼが遊んでいたのは、体感型格闘ゲーム『バトリングウォー』だ。魔法によって作られた仮想空間にて、自身とキャラを同期させ実際に動いて遊ぶタイプのゲームなのだ。
元々身体を動かすのが好きなアンネローゼはすぐにどハマリしてしまった。一時間近くに渡って筐体を一つ占拠してしまったほどだ。
「楽しいわよ、あれ。フィルくんみたいな男の子キャラもいるし、ハマると思うわ」
「そうですね、じゃあ……」
「そちらのカップルさん、ちょっとこちらへ。今だけのお得なサービスがありますよ!」
休憩がてら話していると、プリクラのあるコーナーから従業員らしき女が声をかけてくる。二人がそちらに移動すると、女は頭を下げた。
「先日はどうも、葬儀に来てくださりありがとうございます。ジェディンさんたちのお仲間だと、話は伺っていますよ」
「えっ、もしかしてあなたレジスタンスのメンバーなの!?」
「ええ、私みたいな下っ端は情報収集も兼ねて副業をしてるんですよ。とまあ、それは置いといて。どうです? 今ならカップルさん割引でお安くプリクラ出来ますよ」
まさかの邂逅を果たし驚く二人に、従業員の女はそう口にする。直後、フィルたちがプリクラというものが何か理解していないことを雰囲気で悟った。
そんな二人に、プリクラがどういうものなのかを説明する従業員。彼女の予想した通り、アンネローゼがガッツリ食い付いてくる。
「へー、いいじゃないそれ! フィルくん、早速プリクラ撮るわよ。三十枚くらい撮ってアルバムに入れるわ!」
「二人にはいろいろ恩があるし、今回は特別料金でやらせてあげる。たくさん遊んでいらっしゃい」
「ありがとうございま……ちょ、アンネ様袖を引っ張らないで!」
そんなこんなで、二人は人生初のプリクラを体験することになった。近くにあった筐体の中に入り、銅貨を入れて写真の作成を始める。
従業員の言った通り、通常なら写真三十枚で銅貨十五枚かかるところが十枚になっていた。二人は気遣いに感謝しつつ、フレームを選ぶ。
「こんな感じでいいかしらね? あ、こっちに相合い傘描いとこっと」
「凄いですね……へぇ、顔の修正機能なんてのもあるんですか。まあ、こんなの使わなくてもアンネ様は綺麗で……わっ!」
「このー、褒めたってチューしか出ないわよ!」
存分にイチャイチャしつつ、二人はプリクラを楽しむ。最後に写真を撮る、という段階になりポーズを決めることになった。
フィルが悩む中、アンネローゼが少年をぎゅっと抱き寄せる。お互いのほっぺたをくっつけ、カメラに向かって笑顔でピースをする。
「わっわっ! ち、近すぎますよアンネ様!」
「いいのいいの、それにこれくらい近付かないと入りきらないかもだしね。ほら、フィルくんもピースしてピース!」
「わ、分かりました。こう……ですか?」
「うん、おっけおっけ。じゃ、撮るわよ。それっ!」
二人仲良くピースをしながら、フラッシュを浴びるフィルとアンネローゼ。楽しそうにしている恋人たちを、従業員の女が外から見守っていた。
数分後、プリクラを堪能した二人は従業員にお礼を言ってゲームセンターを後にする。次は予定通り、街の北西にて買い物をするのだ。
「楽しかったわね、フィルくん。ソサエティやミカボシを倒して平和になったら、時々こっちに遊びに来るのも悪くないと思うわ」
「そうですね、また来ましょう。その時は、博士やオボロたちも一緒に」
仲良く手を繋ぎながら、二人は街を歩く。恋人たちのデートは、まだまだ始まったばかり。一方、イレーナたちはというと……。
「っしゃあ! ストライク! これで点差が縮まったぞイレーナ!」
「むむむ、玉を扱う者として負けてられないっす! 見てるっすよ、今度もストライクを決めてやるっすからね! おりゃー! ……ってあー!?」
「ざーんねん、ガーダーでしたー。よしよし、このまま逆転するぞ!」
大型アミューズメント施設にあるボウリング場で、二人仲良くボウリングを楽しんでいた。




