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183話─双子大地で、君とデートを

 翌日、葬儀を終えたレジスタンスは丸三日間の休息期間を設けた。次なる作戦に備え、みな思い思いに休みを満喫する。


 元からカルゥ=イゼルヴィアでデートをする予定だったフィルとアンネローゼは、それぞれ貸してもらった客室で準備をする。


「さってと、久々のデートだからおめかししなきゃね! そういえば、イレーナたちはどんな予定立ててるのかしら?」


 着替えをする中、ふとアンネローゼはそんなことが気になり始めた。すると、まるで謀ったかのようなタイミングで部屋の扉がノックされた。


「はーい、どちら……あら、イレーナ。噂をすればなんとやらってやつね」


「おはようっす、姐御! アタイ、これからジュディちゃんと一緒に街で遊んでくるっす!」


「それでさ、もしよかったら一緒にと思って誘いに来たんだけど。アンネローゼさん、一緒に行く?」


 共に死線を潜り抜けたイレーナとジュディの間に、友情が芽生えたようだ。二人だけというのもなんだからと、アンネローゼも誘いに来たらしい。


「あー、嬉しいお誘いなんだけど……ごめんね、私先約があるからさ」


「そーそー、姐御はシショーとデートするんすもんね! アッツアツっすね、このこのー」


「えー! アンネローゼさん彼氏いるんだ! あ、もしかして一緒にいた男の子? いーなー、あんな可愛い子が彼氏だなんて!」


「ふふ、そういうわけで一緒には行けないの。でも、街でバッタリ会うかも……あ、そういえば。ジェディンとローグはどうしてるのかしら」


 アンネローゼに彼氏がいると知り、ジュディはキャーキャー黄色い声をあげる。なんだかんだ、彼女はお年頃の女の子なのである。


 自慢気に胸を張っていたアンネローゼは、残り二人の同行者がどうしているのか気になり、イレーナにそれとなく聞いてみた。


「ジェディンは総裁さんとお茶してるっす。サラちゃんも一緒っすね、むふふ」


「? なーんかやらしい笑みね。ま、仲良くしてるならいいことじゃない。ローグの方は?」


「えーっと、『怪盗に休みなんてねぇ』って言った後どっかの金持ちんとこに盗みに入るって出て行ったっす」


「そう……大変ね、アイツも」


 ジェディンの方は、以前からいい雰囲気になりつつあるメイナードや、ちょこちょこくっついてくるサラと交流しているようだ。


 一方のローグは、これまで魔魂転写体に任せっぱなしだった怪盗稼業に復帰したらしい。昨夜のうちに下調べを終え、早速盗みに向かったとのことだった。


「ま、みんな思い思いの休日を満喫してるんならいいことね」


「あ、そうだ。はい、これ姐御に渡しとくっす。ジャイドラン地区にある街のガイドマップっすよ」


「あら、ありがとう。これがあれば迷子にはならなさそうね」


「気を付けてね、ここは他の地区と違って治安はだいぶいい方だけど……たまーにガラの悪い輩が出没したりするから」


「心配無用よ、ジュディ。私もフィルくんも強いから返り討ちにしてやれるわ」


 イレーナからガイドマップを受け取った後、アンネローゼは注意をしてくれたジュディにウィンクしながらそう返す。


 目的を果たしたイレーナたちは、デートの準備の邪魔をしては悪いとその場を後にした。彼女らが去った後、アンネローゼは着替えの続きを行う。


「これでよし! ふふ、フィルくん何て言うかしら。今から楽しみね」


 数分後、アンネローゼは白いワンピース姿になっていた。部屋に置いてあった麦わら帽子を被り、たまにはと赤いハイヒールを履く。


 レジスタンスのメンバーから貰った赤い肩掛けカバンを手に、意気揚々とフィルがいる部屋へ向かう。


「フィルくーん、準備出来てるー?」


「はーい、僕は大丈夫ですよ。今開けま……」


 アンネローゼが部屋の扉をノックすると、パタパタ走ってくる音が聞こえてくる。少しして、扉が開きフィルが顔を出す。


「どうどう? たまにはこういう格好もいいんじゃないかなって思って着てみたんだけど……あれ? フィルくん?」


「あっ! ご、ごめんなさい。物凄く似合ってて、その……見惚れてました」


 いつもと違う印象のアンネローゼに、フィルはドギマギしてしまっているようだ。顔を赤くした恋人を見て、アンネローゼも照れてしまう。


 少しの間、二人の間に沈黙が流れ……意を決して、アンネローゼがフィルの手を掴む。


「さ、さあさあ行きましょ! これから楽しいデートなんだから、いつまでも固まってるって訳にいかないわ! ね、そうよね?」


「そ、そうですね! それじゃあ張り切っていきましょう!」


 どこか空回りしつつも、二人は廊下を歩いていく。ちなみに、デートということでフィルの方も普段とは違う格好をしていた。


 青色のオーバーオールを身に着け、足には黒いスニーカーを履いている。シャツはパンダの絵がプリントされた、可愛らしいものだ。


 その上からベージュのパーカーを羽織り、顔を赤くしながらアンネローゼの少し後ろを着いてきていた。


(いつもと違う格好してるってだけで、なんか妙にドキドキしてくるわね……。いけないいけない、私が年上なんだからちゃんとリードしなきゃ!)


(アンネ様、いつにも増して綺麗だなぁ……。ハッ! 見惚れてばっかりじゃダメだ、彼氏の僕がちゃんとしなくちゃ!)


 お互いにそんなことを思いつつ、二人はアジトの入り口へ向かう。目的地は、アジトから一番近い街であるオルムという繁華街だ。


 事前に教えられた、専用のワープポータルのある部屋に向かい二人は街へ移動する。ようやく、カルゥ=イゼルヴィアでのデートの始まりだ。


「来ましたね、ここがオルムの街ですか」


「私から離れないでね、フィルくん。ほら、この街とても広いから迷子になったら大変よ」


「本当だ、じゃあ……て、手を繋ぎましょうか」


 ポータルが設置してある、街外れの空き家に転送されたフィルたち。アンネローゼの持つガイドマップを見ながら、どこに何があるのか確認する。


 そんな彼女に、フィルは恥ずかしそうにしながらそう提案する。何度デートを重ねても、未だに手を繋ぐのは恥ずかしいようだ。


「ええ、もちろん。こ、こっちこそよろしくね」


「わ、分かりました。じゃあ……どこから見て回りますか?」


 空き家にて十分ほど話し合った結果、まずは街の北西にある商店街を見て回ることに決まった。はぐれてしまわないよう、二人は手を繋ぎ外に出る。


「うーん、改めて見ると凄いわね。この街を見てるだけで、文明のレベルが違うってのが分かるわ」


「ええ、昨夜シゼルさんに教えてもらったんですけど、この大地の建物は『コンクリート』なる素材で作られてるそうですよ?」


「へえー、石とか木なんかと何が違うのかしら?」


 街並みを眺めながら、二人はそんな会話を行う。オルセナとは違い、街中は車道と歩道がキッチリとフェンスやガードレールで分けられている。


 二人のすぐ隣、フェンスを隔てた車道を四輪や二輪の鉄で出来た物体が猛スピードで通り過ぎていく。のちに、二人やはそれが『車』や『バイク』だと知るのだが、それは今は置いておく。


「あら? ねえフィルくん、このお店なんなのかしら? 中から凄い音量の音楽が聞こえてくるけど」


「なんだか、みんな変な箱の前に座って操作してますね。何でしょう、入ってみます?」


「そうね、せっかくイゼルヴィアに来たんだもん。いろんなことにチャレンジしましょ! 叔母様からいっぱいお金貰ってるから、なんでも遊びたい放題よ!」


 歩道を歩いていると、二人は気になるお店を見つけた。彼らが興味を持ったのは、いわゆるパチンコ店であった。


 自動ドアの向こうでパチンコをしている人たちに興味を持ち、二人は入ってみることに。床の掃除をしていた店員を捕まえて、遊び方を聞く……が。


「未成年はダメなんだって。残念ね、フィルくん」


「そうですね、でもまあ……一種のギャンブルみたいですし、逆にやらなくてよかったかもしれません。もしハマッちゃったら、オルセナに帰ってからが大変ですし」


 二人がイゼルヴィア基準で未成年だということが分かると、店員に退店を促されてしまった。まだまだ、二人に『オトナ』の世界は早いようだ。


 気を取り直して、二人は街を歩く。すると、今度は『ゲームセンタードントコ』と書かれた看板を下げた店を見つける。


「あ、こっちも面白そうですよ。アンネ様、入ってみませんか?」


「そうね、こっちには子どもも入ってるから追い出されることはなさそうだし。よーし、レッツゴー!」


 好奇心の赴くまま、二人はゲームセンターに足を踏み入れる。そこで二人を待っているのは、果たして……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 平和な日常のデート回なんだろうけど(ʘᗩʘ’) どうにもゲームセンターは前作であの爽やかな草原をギンギラギンの成金都市に変わったのを思い出して良い思い出ないぞ(٥↼_↼) ど〜せ、あのゲ…
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