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178話─激突! 『獣奏』の魔女ペルローナ!

「……たった一人で私を倒すつもりなの? 愚かね、私にはまだまだしもべたちがいる。お前なんて一捻りしてやるわ! ウィッチクラフト……キメラクリエイション!」


 ペルローナは小さな魔法陣を生み出し、両手をそこに差し込む。ブレスレットのように手首に装備された魔法陣が回転し、獣たちが召喚される。


 呼び出されたのは、ライオンとヤギ、タカに蛇。四体の獣を見つめ、ペルローナは両腕を交差させる。すると、獣たちが互いに引き寄せられていき……。


「ひええっ!? ゆ、融合しちゃったっす!」


「あれがペルローナの切り札……ウィッチクラフトよ。気を付けてジェディン、そのキメラはこれまで倒した獣たちより強いはずよ!」


 獅子の胴の背中にタカの翼が生え、尾は蛇になっている。頭のあるべき場所には、ライオンとヤギ、タカの頭部が横並びに生えていた。


「ギャシャァァァァァァ!!!!」


「……さあ、行きなさいキメラよ! その不届き者を叩き潰すのよ!」


「やってみろ……俺の、いや……俺たちの怒りを思い知らせてやる! レクイエムコール!」


 キメラの突進を避け、ジェディンはベルを鳴らす。すると、これまで現れていたぬいぐるみたちが消え、新たなぬいぐるみが現れる。


 魔女の象徴である、黒い三角帽子を身に着けたぬいぐるみたちは一見愛らしいように見える。だが、総勢十体のぬいぐるみは敵意を剥き出しにした目でペルローナを睨んでいた。


『許さない……許さない!』


『生きながら獣に貪り食われるのは、地獄の苦しみだったわ。この恨み、必ず晴らしてやる!』


「!? そ、その声は……オリビアにジャイナ!? ど、どうしてぬいぐるみから二人の声が!?」


 驚くシゼルに、イレーナが説明を行う。ジェディンが操るぬいぐるみとベルには、死者の想念を宿らせる力があるのだと。


 その力を使い、ペルローナの使役する獣たちに食われて死んでいった魔女たちの想いを、無念を。元凶に叩き付けんとしているのだと。


「そう、そうなのね。あのぬいぐるみたちに……みんなの想いが……」


「いけー! みんな頑張れー! あのクソキメラを、魔女をやっつけろー!」


 サラが涙ぐむ中、ジュディはキメラと戦うぬいぐるみたちにエールを送る。それが気に食わなかったのか、ペルローナはガイアリザードを跳躍させた。


 ジェディンたちを飛び越え、キメラと共に敵を挟み撃ちにするようなポジションにつく。これでもう、シゼルたちに退路はない。


「……呑気に応援なんてしてる暇あるの? まだ私とガイアリザードがいること、忘れてるんじゃない?」


「ふん、ならお前の相手はアタイたちがやってやるっすよ。さあどっちからでもかかってくるといいっす!」


「……そう、なら遠慮しないわ。ガイアリザード、奴らを消し炭にしなさい!」


「グラァァァァ!!」


 イレーナを含む四人は、ペルローナが操るガイアリザードに立ち向かっていく。一方、ジェディンとキメラの戦いはすでに決着がつこうとしていた。


「グル、ガフ、ガァァッ!!」


「ムダだ、首が三つあっても出来ることなどたかが知れている。お前の負けだ、キメラよ!」


『仕留めるのは任せて。この牙で、あいつの首を全部食い千切ってやるわ』


「ガルッ……グギャアアアア!!」


 オリビアの思念が宿るぬいぐるみは、口を開け乱雑に生えた鋭い牙を敵に見せ付ける。恐怖を覚えたキメラは、三つの頭から炎のブレスを放つ。


 ジェディンはぬいぐるみたちのうち、八体を後方に回しイレーナたちにブレスが届かないようシャットアウトする。


 残る二体のうち、オリビアぐるみの背に飛び乗って炎をかわすジェディン。そのまま、ジャイナぐるみと共にキメラへ迫る。


『ジェディン、蛇の方は私に任せて。オリビアと一緒に前の首を!』


「分かった、頼んだぞ! オリビア、俺は翼をへし折って奴が逃げられないようにする。トドメを頼むぞ」


『ええ、やってやるわ。この恨み、必ず晴らす!』


 まず、ジャイナぐるみがキメラの後ろに回り込む。酸のブレスを吐く蛇の頭に向かって爪を振り下ろし、その命を刈り取った。


 蛇の頭は死に際にブレスを放つも、ジャイナぐるみは動じない。ぬいぐるみは痛みなど感じない。どれだけ傷付いても、ジェディンが健在ならすぐに元通りになるのだ。


「ギャアアアア!!」


「まずは一つ……」


「グルッ、ラアッ!」


「飛んで逃げるつもりか? 残念だが、そうはさせんぞ! ビッグベル・クラッシュ!」


 形勢不利と見たキメラは、上空に逃げて態勢を立て直そうとする。だが、それを許すほどジェディンは甘くない。


 オリビアぐるみの背を蹴って跳躍し、キメラの上へ向かう。もう一つベルを呼び出し、空いていた手で持ち手を握る。


 ベルを翼に叩き付け、もう二度と空を飛べぬようにへし折り、叩き潰す。苦悶の声を漏らしながら、キメラは地に落ちた。


「今だ! やれ、オリビア!」


『まずはヤギの首から食い千切ってやる! 覚悟しなさい!』


 落下してくるキメラに向けて、オリビアぐるみが殺意の籠もった視線を向ける。まず、獅子の頭の右隣にあるヤギの頭部を食い千切る。


 痛みにのたうち回るキメラをジャイナぐるみが押さえつけ、動きを封じる。続いて、タカの頭が食い千切られ鮮血がほとばしった。


「ガルッグゥアアァァァ!!」


『うるさい獣ね、耳……はないけど耳障りだわ。オリビア、早く仕留めちゃって』


『分かったわ。さようなら、醜い獣よ』


 そんなやり取りを交わした後、オリビアぐるみは最後に残った獅子の頭を食い千切ってトドメを刺した。そこに、ジェディンが降ってる。


「こっちは終わったな」


『ええ、次は向こうよ。ペルローナ……私たちの痛みを思い知りなさい!』


「よし、行くぞ! 死者の無念、共に思い知らせてやろう!」


 スクラムを組んで壁役をしていたぬいぐるみたちを招集し、ジェディンはイレーナたちの元へ向かう。こちらはまだ、戦闘の真っ最中だった。


「このっ、しぶといトカゲめ! いい加減に死になさい! サンダーバンカー!」


「ダメ、鱗に攻撃が通らない! このままだと魔力が持たないわ……」


「大丈夫っす、二人とも! 今ジェディンがこっちに来てるっすから! アタイがあいつの相手をするっす、二人は下がって休んで!」


 サラとジュディは、様々な魔法をガイアリザード、そしてその上に鎮座するペルローナに叩き込んでいた。


 しかし、ペルローナは結界を張って攻撃から自身を守っていた。いくら彼女を狙っても、攻撃はまるで意味を成していない。


 ならばガイアリザードを集中攻撃すれば……と彼女らは行動に移ったが、こちらも上手くいかなかった。ペルローナの力で強化された鱗には、攻撃がまるで通じなかったのだ。


「悪い、イレーナ! 隊長と一緒に頑張ってくれ!」


「……退かせるとでも? 行きなさい、ロッキー。その握力で、奴らの顔を握り潰しておやり!」


「ウキャアッ!」


 疲れた身体を休め、魔力を回復しようとする二人。しかし、そこにペルローナの右腕たる猿が襲いかかっていく。


 猿やチンパンジーは、一見か弱そうに見える。が、彼らは樹上で生活するが故に凄まじく握力が強い。それこそ、人の肉を千切れるほどに。


「ウッキィィィィィ!!!」


「ヤバい、アレに掴まれたら無事じゃ済まないよ絶対!」


「くっ、こうなったら私がジュディの盾に!」


 ロッキーが標的に選んだのは、少しだけ自分に近いジュディの方だった。サラは親友を守ろうと、彼女の前に立つが……。


「その必要はない、サラ。これ以上、仲間を失うのはたくさんだ! 行け、ぬいぐるみよ!」


『悪い猿なんて食べてやる! いただきまーす!』


「ウキッ!? ウキャアアアアア!!!」


 そこに、ジェディンの放ったぬいぐるみが割り込んでくる。大口を開けて、ロッキーを丸呑みにしてみせた。


 何度も咀嚼し、鋭い牙でロッキーの息の根を確実に止める。少しして、かつて猿だったものが吐き出された。


「ロッキー! お前、よくも私の友達を!」


「それはお互い様だろう、ペルローナ。お前は魔女たちの命を奪った……なら、やり返されても文句は言えない。いや、俺が言わせないぞ!」


 ロッキーを殺され、ペルローナは激昂する。そんな彼女に、ジェディンはそう言い返した。獣を操る魔女との戦いは、クライマックスを迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] この戦いも傍から見ると獰猛な動物軍団から融合召喚キメラVSファンシーかつ怨念漏れ漏れのヌイグルミ軍団(ʘᗩʘ’) 良い子には見せられない戦場だな(٥↼_↼)
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