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163話─封印の御子、来る

 これからコンタクトを取ろう……とした矢先、まさかの先方からの来訪に驚きを隠せないフィルたち。そんな彼らがおかしかったのか、クルヴァは笑う。


「ふふ、そんなに驚いて。でも、立場が逆ならぼくもそうなるかな?」


「いや、まさかそっちから来るなんて……ていうか、何でこの基地とか私たちのこと知ってるわけ?」


「私とクルヴァ様は、ずっと見ていましたから。あなたたちとヴァルツァイト・テック・カンパニーの戦いを」


 アンネローゼの問いに、クルヴァの従者リーファが答える。魔法で作り出したふかふかの座布団を主に差し出し、そこに座らせた。


 そして、これまた魔法で呼び寄せた風呂敷包みをギアーズのところに持って行く。手土産に手作りまんじゅうを持ってきた、らしい。


「どうぞ、皆様でご賞味ください。つまらないものですが……」


「ああ、これはどうもご丁寧に。……しかし、何故そちらからわしらのところに?」


「簡単に言えば、『時が満ちた』から……だね。カンパニーの脅威が去り、イゼルヴィアの動きが活発になってきた今こそ……ぼくの『計画』を始める時が来たと感じたんだ」


「計画、ですか? 一体どんな……」


 ギアーズとフィルの質問を受け、クルヴァは少年を見つめる。どこか憂いを帯びた眼差しに、フィルはドキッとしてしまう。


「……どちらかの大地を滅ぼすことなく、ミカボシだけを討ち滅ぼす作戦さ。ぼくは、どちらの大地も平和を謳歌してほしいと思ってる。そのために、あなたたちの力が必要なんだ」


「なるほど……どういう作戦なのか、詳しく聞かせていただけますか?」


「もちろん。ぼくとリーファは、そのために来たのだから」


 そう言った後、クルヴァはコホンと咳払いをする。そして、手をかざして魔法で一切の分厚いノートを呼び出した。


「このノートは、ぼくの代々のご先祖様が長い時間をかけて作り出した魔道具。計画の要石となる、重要なものなんだ」


「わー、凄い分厚いっすね。王都の本屋さんで見た国語辞典より厚みがあるっす!」


「クルヴァ様がお持ちになられているノートには、特別な魔法がかけてあります。まず、ミカボシを滅するために……()()()()()()を複製し、このノートに封印します」


 凄まじい厚さのあるノートを見て、イレーナが感心する。そんな彼女やフィルたちに向かって、リーファがとんでもないことを話した。


「えっ!? 大地ってつまり……このカルゥ=オルセナを!?」


「そうなるね。ミカボシは、封印されている状態では手も足も出せない。向こうからも、こちらからも。だから、アレを滅ぼすためには一旦目覚めさせないといけないんだ」


「ですが、ただ目覚めさせただけでは罪の無い多くの命が奴に食われてしまいます。そうならないようにするための、保護装置とでも言いましょうか」


「待ってくれ、一体そのノートで何をするつもりなんだ?」


 ジェディンに問われ、クルヴァは言う。ノートの中に『かりそめのカルゥ=オルセナ』を作り出し、そこに全ての生物……大地の民から獣、草花に至るまで全てを一旦封印するのだと。


 ノートの中の世界で、これまで通り生きてもらっている間に、外に残った精鋭がミカボシを目覚めさせ、討ち滅ぼす。これが、クルヴァの計画だ。


「ほえー、そーだい過ぎてうち、まるでわかんなーい」


「大丈夫よレジェ、私もちょっとついていけてないもん」


「まあ、仕方がありません。普通はこんなことを言われても、即座に理解するなど無理ですから」


「……いえ、なんとなくですが分かりますよ。その計画の利点。クルヴァさんの計画を実行すれば……イゼルヴィアに関わることなく、こちらだけで事が済む。そうでしょう?」


 レジェやアンネローゼはちんぷんかんぷんなようだったが、フィルは理解していた。クルヴァの行おうとしている作戦の利点を。


「そう。双子大地に迷惑をかけず、全てぼくたちだけで決着をつけられる。それに、もう一つメリットがあるんだ」


「ミカボシは二つの大地に横たわるように存在しています。かの者が完全なる力を発揮するには、オルセナとイゼルヴィア双方で封印が解かれる必要があります」


「なるほど、片方の大地で封印を保ったままにしておけば……真の力を出せぬミカボシを容易く葬れるというわけだ。ふむ、これは……良き案だ」


 クルヴァとリーファの説明を受け、オボロも理解する。彼らの方法なら、すぐにでもミカボシを滅ぼすことが出来ると。


 フィルたちも乗り気になるが……その時、沈黙を保っていたローグが異を唱えた。作戦自体は賛成だが、その前にやることがあると。


「そいつが最適解ってのは分かるぜ。だが、今の状況でやるべきじゃあない。少なくとも、ルナ・ソサエティを滅ぼしてからにするべきだ」


「あー、確かに。アイツら、こっちを侵略したくてたまらないんだっけ? 一部の過激派が」


「ああ。イゼルヴィア側の封印の御子までもが、侵略に乗り気なのかは知らん。だが、その下にいる魔女どもを放っておくのはやめとけ。まずは奴らを駆除するところからやらないとダメだ」


「く、駆除って……元は仲間なんでしょ? いくらなんでも、そんな言い方は酷いんじゃないっすか?」


「ハン、お前はあいつらの悪辣さを見てねぇからそんなヌルイことが言えるんだよ。一度行ってみるといいぜ、イゼルヴィアに。いかに腐った世界かよーく分かるからよ」


 アンネローゼに撃退されたとはいえ、すでに過激派筆頭格の一人であるテルフェがオルセナに入り込んでしまっている。


 彼女だけでなく、カルゥ=イゼルヴィアに潜む他の過激派の魔女……ひいてはソサエティそのものを滅ぼさなければならない。


 少なくとも、ローグはそう考えていた。確かに、彼の言う通りソサエティを放置していれば、確実に横やりを入れてくるだろう。


「でも……流石に、組織そのものを滅ぼすのはやりすぎなんじゃないですか? 過激派じゃない魔女だって、大勢いるんでしょう?」


「いいかフィル、過激派に与してないってことと腐敗してないってことはイコールにならねぇんだ。今のソサエティはもう立ち直れねぇ。だから、奴らを潰してレジスタンスを新しいソサエティにすればいんだよ」


「ああ、なるほど。そっくり組織をすげ替えてしまうということですか」


「そうだ。俺とマーヤがどうやっても改善出来なかったクソ組織なんて、存続してても百害あって一利なしだ。だったら、奴らに抵抗してるレジスタンスを後釜にしちまった方がマシだろ?」


 ミカボシの討伐は、二つの大地の未来に関わる重要な事案だ。それを確実に成功させるためには、障害を徹底的に消し去る他はない。


 現在のソサエティがその邪魔となるのなら、排除しなければならない。それが、ローグのスタンスだった。


「御子さんよ、あんたの計画を始めるのはもうちょっと待ってくれねぇかい。少なくとも、七栄冠を抹殺してソサエティを機能不全にしとかないと足下掬われるぜ?」


「……ぼくたちは、イゼルヴィアのことを何も知らない。向こうから来たあなたがそう言うのなら、それが正しいのだと思う。……心が痛むけれど」


「ハッ、少なくとも過激派の魔女どもにゃ同情する必要はないぜ。……とりあえず、シゼルにこのことを伝えねえとな」


「そうね、叔母様は今向こうに戻ってるから……あ、でもあのテルフェとかいうクソガキも仕留めないといけないし……」


「なら、チーム分けしましょう。片方がイゼルヴィアに行って、レジスタンスと接触。もう片方が、逃亡中の魔女の追跡と抹殺をすればいいんですよ」


 どちらを優先するべきか悩むアンネローゼに、フィルがストレートな解決方法を提示する。シンプルイズベストな方法に、彼女は頷く。


「あ、そうね。そうすれば解決じゃない!……で、誰をどのチームに振り分けるの?」


「当然、俺は向こうに戻る。じゃねえと話にならないだろ? レジスタンスには顔が利くんでな、問題はないぜ」


「はいはーい! アタイついてくっす! イゼルヴィアがどんなとこなのか、一回見てみたいっす!」


「俺も行こう。敵地の視察をしておけば、来る決戦で有利を取れるからな」


「なら、ローグたちにお任せします。こちらのことは、僕たちがやりますから」


 ローグが名乗りをあげると、続いてイレーナとジェディンが挙手する。あまり多く向かっても、ソサエティに察知されてしまうだろう。


 レジスタンスの件はこの三人に任せ、残るメンバーでテルフェの討伐を行うことが決まった。クルヴァは頷き、立ち上がる。


「では、ぼくとリーファは鏡の中に戻るね。ぼくが死ねば、即座にミカボシの封印が解けてしまう。それだけは、あってはならないことだから」


「任せときなさい、私たちが全部やっとくから! アンタは出番が来るまで、のんびり昼寝でもしとけばいいのよ」


 双子大地の未来のため、フィルたちは新たな戦いへと身を投じていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作戦が大体出来上がって来たけど(ʘᗩʘ’) 只でさえヤバイ腐った魔女達の一斉摘発なら人事の問題だけどミカボシ・クラスの相手ならジェム装備のリオ達魔神の案件ではないのか?(ب_ب)
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