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162話─ローグの秘密とソサエティの過去

「オラッ! オラッ! 反省しなさい、このクソガキィ!」


「ぐうううう、こうなったら……一時てったーい! 覚えてろ、このクソアマー!」


 たっぷり五分ほど、アンネローゼに尻を叩かれ続けたテルフェ。これ以上はプライドが砕け散るため、奥歯に仕込んでいた転移石(テレポストーン)を使い逃げ出した。


「チッ、逃げたわね。まあいいわ、どうせあの性格じゃ、リベンジを果たすまではイゼルヴィアに帰らないだろうし。見つけ出してぶっ殺す」


「過激なもんだなぁ、あんた。本当にヒーローなのかよ?」


「ああいうクソ外道は、幼女だろうが老人だろうが関係なく潰す。それだけよ、生かしといてもロクなことしないでしょ、ああいう手合いは」


 録画を終えたローグは、降りてきたアンネローゼにそう問いかける。それに対し、フンと鼻を鳴らしながら乙女は答えた。


 実際、テルフェを野放しにしていたら騎士たちだけでなく、バテノンの住民たちも皆殺しにされていただろう。


「まあ、確かにな。……しかし、驚いたぜ。まさかまだ『欲望のライセンス』を発行してやがるんだな、ソサエティは」


「あ、そうよ! アンタ、ここに来る前ソサエティの幹部だった、とか言ってたじゃない! 一体どういうことなのよ、それ!」


「あー、わあったわぁった。基地に帰ったら教えるよ、とりあえず帰るぞ」


 仕留め損ないはしたものの、両手の指を全て失ったテルフェがすぐに動くとは考えにくい。ひとまず基地に帰り、仲間に報告することにしたアンネローゼ。


 ついでに、ローグが漏らした爆弾発言について言及するが……こちらははぐらかされてしまった。とはいえ、帰ったら話すとのことらしいが。


「ただいま! フィルくん、博士、帰ったわよ」


「おかえりなさい、アンネ様にローグ。敵は倒せましたか?」


「んー、実はね……」


 長距離テレポートを使って基地に帰り、フィルやギアーズに一部始終を話して聞かせるアンネローゼ。そこに、イレーナたちが帰ってきた。


「ただいまっす、はかせー。こっちは収穫ゼロだったっすよー」


「それがしもダメだった。雲を掴むようなものだ……一から御子の情報を集めねばならぬのがこんなに大変だとは」


「あ、みんなおかえりなさい。大丈夫ですよ、御子の情報は手に入れてきましたから!」


 収穫の無かったイレーナたちに、フィルはフォルネシア機構で得た情報を話す。手がかりを得られたことに、みな喜んでいた。


「そうか、それはよかった。しかし、随分と回りくどいやり方をする必要があるのだな」


「でも、新月の夜ならもうすぐ来るしぃ~、タイミングばっちり~。みたいな?」


「そうね、これで情報得たのが新月の次の日とかだったらげんなり……で、ローグ。みんな帰ってきたんだしそろそろ教えなさいよ。アンタがソサエティの幹部だったって話」


 ジェディンやレジェが話をしている中、アンネローゼはもう一度ローグを追求する。彼が元七栄冠だったことを知らないイレーナたちは、目を丸くして驚く。


「え!? そうだったんすか!? ってことはつまり……ローグはもともと女で、性転換し」


「アホか! ソサエティに所属してる魔術の使い手はな、性別によらず『魔女』って呼ばれる決まりになってんだよ!」


「あ、なんだ。ビックリしたー、わざわざ手術したのかと思ったっす」


「んなわけねぇだろ……まあいい、そろそろ話してやるよ。今から三百年ほど前の話だ。俺ぁある目的のためにソサエティに入ったのさ」


 談話室に移動し、ローグは自身の過去について話し出す。いつの間にか酒瓶とグラスを拝借しており、一杯やりながらそう語る。


「三百年? お前はそんなに生きているのか?」


「おうよ。ソサエティの魔女は、階級が上がると褒美に不老長寿の魔法をかけてもらえるのさ。七栄冠ともなりゃ、千年くらいは余裕で生きるぜ」


「ってことは、さっき戦ったクソガキって……見た目より長生き?」


「だろうな。俺が現役だった頃には見なかったから、まあここ数十年で七栄冠入りしたんだろうな。……ま、それはどうでもいい。俺がソサエティに入ったのは、組織改革のためだ」


 ジェディンの質問に答えた後、ローグは一気に酒をあおる。自分だけ飲むのもアレだからと、魔法でグラスを作り出し全員に配る。


 もっとも、フィルとアンネローゼ、イレーナが飲むのは酒ではなくジュースだが。魔法で呼び寄せた飲み物を注ぎつつ、ローグは続きを話す。


「当時、イゼルヴィアはそりゃあ酷い有様だった。なにしろ、魔女がやりたい放題してやがったんでな」


「ふむ……具体的には?」


「むしゃくしゃするからって、鬱憤晴らすのに一般人を拷問死させても咎められねぇってレベルで特権がヤバかったのさ。罪もねぇのに、魔女に殺された奴らは数十万にも及んだんだ、当時は」


「酷い話ですね。そんな世界、ただの地獄じゃないですか」


 オボロの問いに、ローグは当時を思い出しながら答える。凄惨極まる、無法地帯としかいいようのない世界だったらしい。


 あまりの惨さに、フィルは不快感をあらわにしながら呟く。口には出さなかったが、みな同じ思いを抱いていた。


「あんまりにもひでぇ有様だったから、俺は決意したわけよ。こりゃ、内側からソサエティを変えねえといけないってな」


「で、そのために行動を起こしたってわけ? やるじゃ~ん、ローちん」


「ろ、ローちん? ……まあいいや。で、ここは面白くねえ部分だから省くが、いろいろあって俺は七栄冠のポストについた。んで、マーヤ……今の魔女長と一緒に改革を進めた」


「あ、知ってますその人。僕と最初に会った、魔女のおばあちゃんですよね?」


「……ああ、あいつは手違いで長寿の魔法しかかけてもらえなかったからな。あいつが残ってりゃ、もっとマシになってると思ってたんだが……」


「一つ疑問なんじゃが……何故おぬしは七栄冠でい続けなかったのじゃ? その方がいいと思うのじゃが」


「いやな、改革を進めるうちに……内部から膿を出すだけじゃダメだってなったわけよ。外からもぶった斬って、風穴空けないと変わらねえって痛感したんだ。汚職ってのは、内輪だともみ消されるからよ」


 当時から七栄冠のツートップを張っていたマーヤと協議した結果、彼女は内からの改革を、ローグは外からスキャンダルを暴くことで組織の浄化をしよう、と決めたらしい。


「そのために俺は顔を変え、名前も捨てて怪盗ローグを名乗るようになった。で、腐った金持ちどもにお仕置きしつつ、ソサエティを変えるために外から暗躍してたってわけよ」


「なるほどね。でも、さほど効果がなかったってことでしょ? アンタの嘆きっぷりを見る限り」


「まあ、な。まさか、まだ三百年前の負の遺産が現役バリバリだとは思わなかった。どうやら、マーヤの権勢も衰えてるようだ。過激派が牛耳ってると見たね、今のソサエティは」


 ローグが改革を成さんと決意した、元凶たるシステム。欲望のライセンスは、いまだ現在まで存続していた。


 歴代の過激派たちが、自分たちにとって『古き良き』魔女の特権の象徴たるシステムを強引に守り抜いたのだろうと、ローグは推察する。


「俺がソサエティを離れてから、何が起きてるのか……ま、今となっちゃどうでもいい。悪しき風習が残ってるなら、野望と一緒に潰すだけだ」


「そうですね、僕も手伝いますよ。でも、まずは御子との接触を優先し」


「あなた方から会いに来る必要はありません。こちらから会いに来ましたから。はじめまして、シュヴァルカイザーとそのお仲間の皆さん」


 ローグの言葉に頷くフィル。やる気を出した、次の瞬間。談話室のドアが、まるまる鏡へと変化する。そして、その中から一人の少年が現れた。


 神主のような服装をし、お供の女性を引き連れた少年はフィルたちに頭を下げる。優雅な仕草をする度に、シャリンシャリンと鈴の音が響く。


「えっと、あなたは一体……どちら様でしょう?」


「これは失礼、まだ名乗っていませんでしたね。ぼくはクルヴァ。このカルゥ=オルセナをミカボシの脅威から守護する、百十七代目の封印の御子です」


「そして、私はリーファ。クルヴァ様をお守りし、血を後世に繋ぐための巫女です。皆様、お見知りおきを」


 どこか安心感を覚えさせる、柔らかな声で名を名乗る二人。思いもよらぬ形で、フィルたちは当初の目的……封印の御子との邂逅を果たしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだよお仕置きを5分で逃げるとは根性無しだな(ʘᗩʘ’) この場にマリアベルが居たら絶対逃さなかったぞ(↼_↼) マリアベル、お仕置き開始から5分で逃走を許すとはまだまだですね(◡ω◡)…
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