149話─顕現! キカイ王ヴァルツァイト・ボーグ!
両者が対峙する中、先に動いたのはヴァルツァイトだった。妨害防止用の結界を張りつつ、オルタナティブドライバーを起動させる。
「さあ、今こそ顕現すル時! オルタナティブドライバー、プットオン。ルインブリンガー、オン・エア」
「くっ……!? 禍々しい魔力が、溢れてくる……!」
ヴァルツァイトの身体を漆黒の魔力が包み込み、姿を変化させていく。シュヴァルカイザーと同じ形状をした毒々しい紫色のボディアーマーとフェイスシールドを纏い、王は笑う。
「どうダ、美しいだろウ? 破滅をもたらす者……名も姿もとてモよい」
「いきなり自画自賛してんじゃないわよ! ぶっ殺してやるわ、X:ストラ」
「させんヨ。心眼一閃撃ち!」
アンネローゼが攻撃しようとした、その瞬間。結界を解いたヴァルツァイトは、左腕を銃身に変化させ……イレーナの必殺技を放った。
予想外の攻撃に不意を突かれたアンネローゼたが、本能が身体を突き動かす。咄嗟に横に飛んだことで、直撃を免れることが出来た。
「ウソ、なんでアンタがイレーナの技を!?」
「ククク、このオルタナティブドライバーにはオ前たちのデータが全てインプットされてイる。単体でも、複合デも……お前たちノ能力を好きに使えるのだ。こんナ風に!」
そう叫ぶと、ヴァルツァイトは背中から四本の鎖を出現させアンネローゼを攻撃する。そこに銃撃も加えた波状攻撃を放ち、一気に劣勢に追い込む。
「くっ、アンタ……よくも人の能力パクッてくれたわね! プライドとかないわけ!?」
「勝つためナらば何でもヤる。それに、敵の能力のラーニングは基本だロう? 自分の技を受けテ散れ! エアーリッパー!」
「まずい、避けきれ……」
鎖と弾丸だけでも避けるのに手一杯なのに、そこへ風の刃も飛来する。一つに被弾すれば、怯んだ隙に残りも全て食らってしまうだろう。
そうなれば、即座にトドメを刺される。死を覚悟で突撃し、イチかバチかの反撃に出ようとしたアンネローゼ。だったが……。
「そうはさせない! 青い薔薇よ、アンネ様を守って! ウォーターウォール!」
「ナニッ!? 貴様……生きてイたのか!」
「フィルくん! よかった、目が覚めたのね!」
そこに、救世主が現れる。バルキリースーツを身に纏い、ローズガーディアンを掲げたフィルがアンネローゼを助けに来たのだ。
「お待たせしてごめんなさい、アンネ様。僕の代わりに戦ってくれて、ありがとう。そのスーツ、とても似合ってますよ」
「ふふ、フィルくんもね。可愛いわよ、ホロウバルキリーの格好してるの」
「貴様ら、いつマでイチャイチャしていル! フルバレットファイア!」
合流した二人は、敵そっちのけでイチャつきはじめる。それが気に食わないヴァルツァイトは、アーマーの胸部を開き大量の弾丸を放つ。
「おっと、そうはさせません! 赤い薔薇よ、輝け! フラムシパルガーデン!」
「チッ、炎の壁で防いだカ。なら……風で吹き消すダけだ! ホロウインドウィング!」
攻撃を防がれたヴァルツァイトは、上側の鎖二本を翼に変化させて突風を巻き起こす。炎を吹き消し、フィルたちを丸裸にしようとする。
目論見通り炎の壁は消え、守られていたフィルたちがあらわになる。が……すでに彼らは、反撃の準備を整えていた。
「! 貴様ら、イつの間にスーツを交換した?」
「ふふん、それくらい五秒もあれば出来ますよ。なんたって、僕とアンネ様は息ぴったりですから!」
「その通りよ。ふー、やっぱり使い慣れた自分のスーツが一番落ち着くわね。シュヴァルカイゼリンも悪くないけど」
二人は炎の壁を消される前に、変身解除からのドライバー交換、再変身をほぼ一瞬で完了させていた。二人だから可能な、阿吽の呼吸が成せる技だ。
「フン、まあイい。どんな姿ニなろうと、この私に勝つコとはないのだカら。二人纏めて消し去るノみ。食らえ! ルインストーム!」
「フィルくん、気を付けて! アイツは私たちのインフィニティ・マキーナ全部の力を使えるわ!」
「なるほど……だからあの時、イレーナの技を使えたんですね!」
「ゴチャゴチャとうるサい奴らめ! 死ぬガいい!」
ヴァルツァイトは禍禍しい紫色の翼を広げ、空中に飛び立つ。そして、残しておいた下側の鎖二本を粉々に砕き、鋭い鉄片に変え突風に乗せて飛ばす。
「ズタズタに斬り裂かレ死ぬガいい!」
「アンネ様を傷付けさせはしません! 武装展開、氷の大盾二枚布陣!」
「ククク、バカめ! 追撃ダ……ブーメランショット!」
フィルは盾を呼び出し、前後の守りを固める。しかし、左右はガラ空きだ。その隙間を攻めるべく、ヴァルツァイトは大きく曲がる二発の弾丸を撃つ。
弾は二人を挟み撃ちにするかのように、左右に回り込んでいく。そのまま直撃する……かと思われたが、そこもフィルたちの作戦の内だ。
「かかったわね、お返しよ! リフレクトウィング!」
「ホウ、こちらノ攻撃を跳ね返したカ。だが……甘いナ」
アンネローゼは翼を広げ、弾丸を弾いてヴァルツァイトに跳ね返す。鉄片の間をすり抜け、見事直撃するも……傷は付かない。
「! ダメージを受けてない!?」
「当然ダ。サソリやクモが己の毒デ死なぬのと同じようニ、私は決して自爆しナい。そうプログラムされているのだヨ!」
驚くアンネローゼにそう言い放ち、ヴァルツァイトは彼女たちの真上に移動する。攻撃の兆候を感じ取るも、フィルたちは鉄片を防ぐのに手一杯で動けない。
「悪いガ、時間をかけるツもりはない。貴様らを倒した後ハ、暗域に戻り他の魔戒王どもヲ倒さねばなラぬ! 死ね! カタストロフ・エンドワールド!」
「くっ……こうなったら! アンネ様を守ってみせる!」
「ムダだ! 二人纏めテあの世へ送ってクれるわ!」
再び四本の鎖を背中から生やし、翼と共に全身を覆うヴァルツァイト。全身に魔力をほとばしらせ、そのまま急降下する。
せめてアンネローゼに直撃させまいと、盾を構えたまま彼女に覆い被さるフィル。そこにヴァルツァイトが飛び込み、大爆発を起こす。
「うわあああ!!」
「きゃあああああ!!」
二人は爆発の衝撃で押し出され、荒れ狂う鉄片の嵐の中に投げ出される。両腕で頭を庇い、頭部への致命傷だけ免れた。
だが、爆発と鉄片の直撃は確実に彼らにダメージを与え、体力を奪っていた。破壊されたドロイドの残骸と、役目を終えた鉄片に埋もれる二人。
倒れたフィルとアンネローゼは、まだ辛うじて生きていた。だが、このままでは確実にヴァルツァイトに殺されてしまうだろう。
「アンネ、さま……だいじょう、ぶ……ですか?」
「だい、じょうぶ……って言いたいけど、ちょっとヤバいかも。アイツ、ちょっと強すぎるでしょ……」
「まだ生きてイるとは。ヤはり、七割ノ出力でハ抹殺出来ぬカ。……仕方アるまい、フルスロットルで仕留めてクれる!」
翼と鎖から解放されたヴァルツァイトは、地上を確認しながらそう口にする。次なる戦いに備えてエネルギーを温存するつもりだったが、その路線を捨てる。
どこかでエネルギーを補給すればいい、今はフィルたちを確実に殺すのが最優先。そう思考を切り替え、再び奥義を放つ体勢に戻ろうと……。
「さあ、次で終ワりだ。カタストロフ……」
「このクソボケがオラァァァン!」
「ゴハッ!?」
した、その瞬間、遙か上空からレジェが落下してヴァルツァイトに鬼デコ斧ちゃーを叩き込んだ。意識外からの攻撃に、奥義が不発になる。
「れ、レジェ!? よかった、連絡が途絶えたから何かあったのかと……」
「いやー、ブロちんに埋められちゃってさ~、さっきよーやく脱出出来た、みたいな? マジありえんてぃーなんすけど」
「よ、よく分からないですけど……助かった、ってことでいいんですよね? ていうか、彼女が身に付けてるのってインフィニティ・マキーナですよね!?」
「お、アンネちんの彼ぴっぴじゃ~ん。そそ、チミから貰ったドライバー、使わせてもらってんの。ホントありがとね~」
レジェが復活したこと、そして彼女がコリンに渡したはずのダイナモドライバーを装着していることに驚くフィル。
一方のレジェは、二人の元に降り立ち嬉しそうににぱーっと笑う。そこへ、一本の鎖が伸びるが……振り返りすらせず、レジェが掴んで止める。
「ちょっと~、今かんどーの再会してんすけど。邪魔すっとかマジありえんてぃー」
「黙れ、コの裏切り者ガ……! 貴様ヲ取り立ててヤった恩を忘れルとはな。見損なっタぞ、エモー!」
レジェの一撃を食らい、墜落したヴァルツァイトは元部下の裏切りに激怒していた。が、レジェは何も感じておらずどこ吹く風と受け流す。
「べー、もううちの上司でもなんでもないし~。うちの親友とその彼ぴっぴいじめて、激おこぷんぷんまるなんだかんね!」
「ホザけ……! こうなレば、全員纏めて仕留めて……グッ!?」
「あー、何とか間に合った! シショー、姐御、戻るの遅れてごめんっすー!」
追撃を加えようとするヴァルツァイトの背中に、弾丸が撃ち込まれる。振り向くと、イレーナが現れるのが見えた。
「みんな戻ってきてる……勝てる、勝てますよこれなら。全員の力を合わせれば、ヴァルツァイトを倒せますよ!」
「そうね、フィルくん。見せ付けてやろうじゃないの、私たちの絆の力を!」
最後の戦いが行われる中、カルゥ=オルセナを守る英雄たちが集い始める。長い長い一日は……もうすぐ、終わろうとしていた。




