148話─愛の起こす奇跡! シュヴァルカイゼリン爆誕!
「怯むナ、お前タチ! 所詮敵ハ一人だけ。こちらは三百を超える数ガイル、負けなどナイ!」
黒い騎士の姿をしたバトルドロイドたちの間に動揺が広がる中、その内の一体が叫ぶ。迎撃兵器によってだいぶ数を減らしたものの、まだ三桁は同胞がいる。
ならば、たった一人の相手などに負ける確率はゼロに極めて近い。そうデータを分析し、アンネローゼへ挑みかかっていく。……が。
「死……!?」
「死ね、でしょ? 生憎、その台詞を言うのはアンタたちじゃないの。それは……」
「ウ、グ、ア……」
「私の役目よ!」
自分の元にやって来たドロイドの頭を鷲掴みにし、突進を止めるアンネローゼ。シュヴァルカイゼリンとなり、強化された握力で頭部をひしゃげさせていく。
ドロイドは呻き声を出しながら、手にした剣を振り回す。が、カイゼリンスーツにかすり傷すら付けることが出来ない。
そんなムダな抵抗をしていたのも束の間、たった十数秒でドロイドの頭部が握り砕かれた。ガラクタと化したドロイドを放り投げ、女帝は笑う。
「覚悟しなさい? 一体残らずぜぇんぶ……スクラップにしてあげる」
「ひ、ヒィィィ!! 退却、退却だー!!」
そのおぞましくも美しい笑みに畏怖し、ドロイドたちは命令を放棄して逃げ始める。が、当然そのまま逃がしてやるほどアンネローゼは優しくない。
「逃がさないわよ! 武装展開、漆黒の刃・弐式! 消えなさい、ダークネスクレイドル!」
スーツに宿るフィルの力を引き出し、アンネローゼは漆黒の剣を呼び出す。元の剣に比べ、刀身の先端が円錐形になっていた。
斬撃と刺突、両方をこなせる形状に生まれ変わった剣を構え、アンネローゼは身体を回転させながら敵の最後尾に突撃していく。
「てぃやぁぁぁ!!」
「うっ、ガアァ!!」
一番後ろにいたドロイドは、背中をブチ抜かれバラバラにされる。それでも勢いは止まらず、直線上にいる敵を次々と破壊するアンネローゼ。
(凄い……これがシュヴァルカイザースーツの……ダイナモドライバー・オリジンの力! 伝わってくる……スーツに宿るフィルくんの想いが。私の中に流れ込んでくる!)
ある程度敵を仕留めた後、アンネローゼは振り返り倒し損ねたドロイドたちへ突撃していく。剣を振るい、頑強なキカイをバターのように切り裂く。
そんな中で、彼女は感じていた。スーツを通して、フィルが自分を応援してくれていることを。自分の代わりに、大切なものを守ってほしいという願いを。
「クッ、こうなれば応戦するのみ! 死……」
「ぬのはアンタ! X:スライサー!」
「グァッ!」
シュヴァルツシュヴェルト・ツヴァイを振るい、アンネローゼは反撃しに来たドロイドを斜め十字に両断してみせた。
そのまま近くにいる他のドロイドに襲いかかり、回転斬りで四体纏めて葬り去る。そんな中、強力な敵性反応の接近を感知した。
「! この気配……まさか!?」
「久シブリダナ、アンネローゼ。会いたかったぞ……お前に復讐するためにな!」
「ブレイズソウル……! まさか、復活したっていうわけ?」
「そうだ、俺だけではないぞ。かつて貴様らに倒された特務エージェントも、エモーとチェスナイツを除き全員がクローンとして復活したの……だ!?」
かつて、アンネローゼが死闘の末に倒した特務エージェント……ブレイズソウル。ヴァルツァイトの手により、クローン個体が復活したのだ。
が、そんな因縁の相手をアンネローゼは一撃で両断する。ご丁寧に、正中線に合わせてずんばらりんと斬って捨てた。
「あっそ。悪いけど、今の私ものっすごく調子がいいの。だから、アンタら再生幹部如きなんて一撃で仕留められるのよ!」
「ば、かな……たったの、一撃で……がはっ!」
登場から三分と経たず、再生ブレイズソウルは爆散することとなった。あまりにも早い退場に、ドロイドたちは唖然としてしまう。
「う、嘘ダロ……ブレイズソウル様が、一撃で……」
「分かった? 今の私……シュヴァルカイゼリンは絶好調なの。フィルくんの温もりで、大幅パワーアップしてるんだから! さあ、殲滅続行よ!」
「ひ、ヒイィィ!!」
頼みの綱の再生幹部すらも容易く屠るアンネローゼを見て、ドロイドたちは思考回路が恐怖一色に染まりパニックに陥る。
そんな中、この騒乱を眺める者がいた。空高く開いたポータルの向こう側にいる、全ての元凶。ヴァルツァイト・ボーグだ。
「フム……まさか、コのような事態にナるとは。チェスナイツも全滅……その上、最後の軍団モ機能不全に陥った……カ。なれバ、私が出るシかあるまい」
基地のモニターで戦いを見ていたヴァルツァイトは、ついに自身が出撃することを決める。オルタナティブドライバーを装着し、ポータルに向かう。
「奴らサえ……奴らさえ倒せレば。私の脳髄ヲ苛むコの『渇き』もきっと消えるハず。消えルはずナのだ……」
通路を歩きながら、ヴァルツァイトはそう呟く。その背中は、とても寂しそうだった。
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「おお、こんな……こんな奇跡が起こるとは! まさか、フィル用のダイナモドライバーを起動させてしまうとは……これが、愛の力というやつなのか」
一方、シュヴァルカイザーの基地内。こちらもこちらで、ギアーズがラボラトリーに設置された小型モニターを見ながら修理を進めていた。
アンネローゼの奮闘により、大幅に時間を稼ぐことが出来た。もうすぐ、ホロウバルキリー用のドライバーが直る。と、そこへ……。
「はか、せ……今、状況は……どうなっていますか?」
「フィル、目が覚めたのか! じゃが、無理をしてはならんぞ。手術を終えたばかりなのじゃ、大人しく休んでおれ」
「そうも、言って……いられませんよ。教えてください、今何が起きているんですか?」
眠りから覚めたフィルが、よろめきながら歩いてきたのだ。医療用の機能を備えたつよいこころが側に着き、心配そうにしている。
ギアーズはフィルに、これまでの一部始終を説明する。一連の出来事、そして……アンネローゼが自身のドライバーを使って戦っていることを知り、フィルは笑う。
「そう、ですか。アンネ様が……僕のドライバーで戦っているんですね?」
「ああ、そうじゃ。だから、フィルは何も心配することはない。ほれ、見てみい。復活したエージェント相手にも、全く引けを取っておらん」
そう言うと、ギアーズはモニターをフィルに見せる。そこには、アッチェレランドを撃破するアンネローゼの勇姿が映し出されていた。
「アンネ様、凄い……! 僕も負けてはいられませんね、これは」
「いや、じゃからな? 手術したばかりの身体で戦えば、傷が開くぞ? ドライバーもないし、戦闘など無理で」
「出来ますよ、まだ一つ……奥の手がありますから」
ギアーズの言葉を遮り、フィルは医療用つよいこころを手元に招く。角を引き抜き、その中の空洞から小さなビンを取り出す。
中には、金色の液体が納められている。それを見たギアーズは、フィルに問う。
「なんじゃ、その神々しい液体は」
「以前、魔神の皆さんと仲直りバーベキューをした時にリオさんから貰ったんです。彼の血を、ね」
「なんと!? そうか、ではそれを飲めば!」
「ええ、こんな傷即座に全快ですよ。こういう時のために取っておいて、本当によかった」
フィルはフタを外し、中の液体を一気に飲み干す。すると、全身に力が溢れていく。身体の内外の傷が全て癒え、完全復活を遂げた。
「これで僕の体調面は問題なし。さ、博士。僕もドライバーの修理を手伝います。さっさと終わらせて、アンネ様に加勢してきますね!」
「分かった、急ピッチで終わらせるぞフィル!」
二人で協力し、ダイナモドライバーの修理を進める中……アンネローゼは、最後に残った再生幹部であるマッハワンを打ち倒していた。
「これで……終わりよ! カイゼリンブレイカー!」
「ぐはっ! ふ、強いな……マインドシーカーも、キックホッパーも……他のエージェントもみな、敗れた。だが、不思議といい心地だ」
「そ、言っとくけどこっちは感傷に浸るつもりはないわよ、オボロと違ってアンタと関わりないし」
「それで、いい。それで……」
短いやり取りの後、再生マッハワンは力尽き事切れた。すでに最後の軍団も全滅し、立っているのはアンネローゼたた一人。
そこに……ついに宿敵が姿を現す。いつもと変わらない、スーツを着こなしたヴァルツァイト・ボーグがポータルから出てきたのだ。
「たった一人で、我が配下ヲ全滅させるトは。やはり、侮レぬものよ。なぁ? アンネローゼ」
「気安く名前を呼ばないで。よく来たわね、ヴァルツァイト。今日が私たちとアンタの戦い納めよ。ここで全ての因果を断つ! 覚悟しなさい!」
「フッ、やってミるがいい。今こそ見せてヤろう……オルタナティブドライバーの力を!」
アンネローゼとヴァルツァイトは向かい合い、睨み合う。最後の戦いが、ついに……始まる。




