145話─戦え! サモンマスタードラクル!
「まあいい、貴様らが何者だろうと関係ない。ここで蹴散らし、殺してしまえば問題などないからな! 出でよ、キングライズブレード!」
「来るよ、エヴァちゃん先輩! サモンカードを!」
「ええ、言われなくても分かってるわ!」
『ソードコマンド』
『アックスコマンド』
ガンドラは身の丈程の大きさがある大剣を召喚し、突進する。対するキルトとエヴァの二人は、カードを一枚取り出す。
キルトはロングソードが描かれたものを、エヴァは両刃の斧が描かれたものを。それぞれのカードをスロットに挿入し、武器を呼び出した。
「いくよ、『ドラグネイルソード』!」
「この『ミノスの大戦斧』でぶった斬ってやるわ!」
「フン、やれるものならやってみろ! ロイヤルトルネード!」
キルトの手元に炎が揺らめき、そこから一本の赤い刀身を持つ剣が現れる。エヴァの元にも、銀色に輝く斧が出現した。
得物を手にした二人に、ガンドラが襲いかかる。キルトは翼を広げて上に飛んで避け、エヴァは斧を振るって真っ向から受け止めた。
「ほう、わしの一撃を止めたか!」
「フンッ! 中々重い一撃ね、でも……受け止められないほどじゃないわ」
「いいよ、エヴァちゃん先輩! そのまま引き付けてて! 食らえ、グライダースラッシュ!」
凄まじい怪力を用いて、エヴァはガンドラの攻撃を強引に止める。そこへ、上空からキルトが急降下して反撃を加えた。
「甘いわ! キングライズシールド!」
「! 防がれた……うわっと!」
「肩から槍!? ちょっと、あんたズルいわよ!」
「ズルい? フン、何を言う。わしは身体の至る所に武器を内蔵している、いわば歩く兵器庫。持てる力をフルに使って……何が悪い!」
ガンドラは大剣の柄から左手を離し、腕に盾を形成して頭上からの攻撃を防ぐ。相手の剣を弾いた後、肩から槍を放ってカウンターを行う。
それを咎めたエヴァに、ガンドラは悪びれることなくそう返す。そして、右腕に力を込めて大剣を振り抜き、彼女を吹き飛ばした。
「っく! あんな重そーな剣を軽々ブン回すなんて……三百年前の世界にも、骨のある闇の眷属はいるってことね」
「惜しいものだ。お前たちが未来からやって来たのでなければ、わしの奥の手……バトルレコードの力で無力化出来るのだが」
「それをさせないために、僕たちが過去へ来たのさ。この時代以前の存在だと、あらゆる技を完封されちゃうからね」
ガンドラのコアには、カンパニーのデータベースに存在しているあらゆるバトルデータが組み込まれている。それが彼の切り札、バトルレコード。
それに登録されているあらゆる存在の攻撃は、全てガンドラに直撃しても無力化されてしまう。ベルドールの魔神やアゼル、果てはコリンを含めた魔戒王たちでさえ彼は倒せない。
だからこそ、コリンとリオは一計を案じた。自分たちが倒せないのなら、データベースに存在していない者……すなわち、未来の人物を呼べばいいと。
「なるほど、わしのメタを張るためだけに呼ばれたというわけだ。ご苦労なことだ、わざわざ過去までやって来るとは」
「僕としても、ご先祖様……フィル様たちを守りたいからね。一も二もなく飛び付いたさ!」
『うむ、その心意気に我は感銘を受けたのだ! キルト、魔力を少しこちらに回せ。奴に業火を浴びせてやろうぞ!』
「うん、分かった! エヴァちゃん先輩、危ないから離れてて!」
「オッケー、下がるわね!」
ガンドラに斬撃を浴びせつつ、キルトは叫ぶ。そこにルビィも加わり、反撃の準備を整える。キルトが纏う鎧の胸部分に、ドラゴンの顔が出現した。
エヴァを巻き込まないよう下がらせた後、キルトはガンドラから少しだけ距離を取る。そして、胸のドラゴンの顔から炎を放つ。
「食らえ! 必殺……」
『チェストフレイム!』
「フン、そんな子ども騙しな技なぞ食らうか!」
対するガンドラは、盾を構えて炎を遮る。後は反撃を叩き込むだけ……と思っていると、背中に強い衝撃が走った。
「ぐうっ! 貴様、いつの間に後ろに!」
「ざーんねん、アタシが何もしないと思った? 隙だらけなのよ、あんたの背中は! ミノスクラッシュ!」
「同時攻撃だ! ドラグスラッシャー!」
前方のキルト、後方のエヴァ。挟み撃ちにされ、絶体絶命のガンドラ。だが、彼は焦らない。むしろ、余裕の笑みを浮かべていた。
「愚かな、貴様らに教えてやる。バトルレコードがなくとも、わしは強いということをな! ボルテックスバンカー!」
「! 胸と背中から杭が……まずい!」
「っと、危ないじゃない!」
「追撃だ! キングボディトルネード!」
真っ直ぐ突っ込んでくるキルトたち目がけて、ガンドラの胸と背中から電撃を纏う杭が飛び出した。咄嗟に避けた二人だが、攻撃の手は止まらない。
杭が飛び出したまま、ガンドラは身体を回転させて追撃を行う。杭に横っ面を引っ叩かれ、二人は吹き飛ばされてしまった。
「うあっ!」
「いったぁっ!」
「まずはお前だ、小僧! 我がキングライズブレードの錆となれ!」
「まずい、シールドコマンドが間に合わない……!」
体勢を立て直すのに手間取り、防御が間に合わないキルト。エヴァも助けに入れず、このまま斬り捨てられてしまう……。
「そうはいかない。騎士道とは……守ることと見つけたり!」
『ウォールコマンド』
「なにっ!? まだ仲間がいるのか!」
ことはなかった。ガンドラとキルトの間、床に魔法陣が現れそこから一人の女性が飛び出し、割って入ったのだ。
左肩にヘラクレスオオカブトの角を模した飾りが付いた、金色の鎧を纏う女性は大きな金色のタワーシールドを構え、ガンドラの攻撃を受け止め弾き返す。
「遅れて済まない、キルト。ここからはこの私……サモンマスタープライドも参戦する!」
「フィリールさん! よかった、召喚が間に合ったみたい」
フィリールと呼ばれた女性は、腰まで伸びた金色の髪をかき上げながら振り返る。意思の強さを示すような、キッとした顔立ちの美女は微笑みを浮かべる。
「中々呼んでもらえなかったからな、アスカともどもやきもきしていたぞ。……ま、それは別にいい。珍しくサモンマスター以外の敵に苦戦しているな」
『うむ、そやつかなり強いぞ。理術研究院所属のサモンマスターとも互角……いや、それより上かもしれん』
「ほう、それは楽しみだ。どれだけ強いのか、私にも確かめさせてもらおう」
ルビィの忠告を受け、フィリールは興味深そうに先ほど弾き返したガンドラの方を見る。右腰に装着したカードデッキから、ランスの絵が描かれたカードを取り出す。
そして、左胸の取り付けてあるカブトムシ型の勲章に取り付けてあるスロットに投入した。そして、金色のランスを呼び出し右手で持つ。
『ランスコマンド』
「敵よ、戦う前に名乗っておこう。私はフィリール・アルズラント=マグネス。キルトを守る盾、女神の寵愛を受けし聖騎士なり!」
「フン、次から次へと。まあよい、何人増えようが問題などないわ!」
「あっそう。なら、こっちは遠慮なく三対一でやらせてもらうわよ! ミノスの大戦斧、もうちょっとだけ顕現しててね!」
フィリールの名乗りを受け、啖呵を切るガンドラ。そんな彼に、再び背後からエヴァが攻撃する。斧に魔力を与え、消滅までの時間を延長しつつ振り回す。
「食らいなさい! ランペイジブレイカー!」
「また貴様か……寝ていろ! バンカーミサイル!」
「背後にばかり気を取られていていいのか? まだ私とキルトもいるのだぞ! ストライククラッカー!」
「僕だって! ドラグスラッシャー!」
エヴァに合わせ、フィリールとキルトも波状攻撃を浴びせかける。最後のチェスナイツ、キング・ガンドラとの死闘の結末は果たして……。




