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142話─復讐の時、来る

 キルトたちが快進撃を続けている頃、地上では……ジェディンが仇敵、ビショップ・マグメイと死闘を繰り広げていた。


「貴様を村には入れぬぞ、マグメイ! 俺が得た新たなる力……レクイエム・レギオンの前に沈み、罪を償え!」


「ヒャッハハハ! 多少パワーアップしたくれぇでよぉ、このオレを倒せるだなんて思うな! そのぬいぐるみ軍団ごと、てめえを切り刻んでやる!」


 これまで操っていた鎖の代わりに、宙に浮かぶぬいぐるみの群れを操りマグメイと戦うジェディン。何故そうなったのか、話はさかのぼる。


 ゴライアとヴァルツァイトの連携によってフィルが退けられ、帰還する少し前。敵性反応の正体を特定したジェディンは、基地を出立した。


「待っているがいい、我が故郷と家族を奪った宿敵よ。貴様だけは……この手で地獄に落とさねば気が済まん!」


 クリムゾン・アベンジャースーツを纏い、短距離テレポートを繰り返して敵のいる場所を目指すジェディン。


 兜の内部にスクリーンが展開され、大陸の地図及び敵と自分の現在地を示すピンが表示される。敵の元に向かう中、ある変化が現れた。


「ん……? こいつ、不規則な動きをやめた? まさか、街へ向かうつもりか!」


 ジェディンを誘うように不規則なテレポートを繰り返していた敵性反応が、突如真っ直ぐ移動し始めたのだ。向かう先には、小さな村がある。


 相手の残虐さを考えれば、到達されれば村はまず無事では済まない。一人残らず、想像を絶する苦しみを味わった末に殺されるだろう。


「そうはさせない……奴のせいで悲しみを背負うのは、俺で最後にしなければならない。これ以上、悲しみを連鎖させてたまるものか!」


 仇への怒りを募らせ、ジェディンは敵の元へと大急ぎで向かう。その甲斐あって、村から数キロ離れた地点にて追い付くことが出来た。


 地上に降りた彼が見たのは……緑色の法衣に身を包み、腰に二振りの刀を下げた闇の眷属の男。顔の右側には、縦に三本並んだ裂傷が走っている。


「ようやく……会えたな。覚えているか? 俺のことを……あの日の惨劇を」


「んー? おめぇは……ああ、覚えてるぜ。五年前……オレが()()()()やったヤツだなぁ。ヒャハハハ、また会えて嬉し……おっと!」


「黙れ! メイラとリディム……村の皆の仇、今こそ討たせてもらう! ここで死ね、特務エージェント!」


「おーおー、喧嘩っ早いこって。ついでに言っとくがよぉ、オレにゃあマグメイって名前があるんだ。あの世への土産に覚えていきな!」


 チェスナイツの一角、マグメイは醜悪な笑みを浮かべ拍手をする。その態度に一層怒りが強まったジェディンは、先制攻撃を放つ。


 それを華麗に避け、マグメイは刀を抜く。が、肝心の刀身が無い。いや……完全に透明になっており、輪郭すら見えていない。


「なんだ、その刀は……」


「ヒャッヒャッ、知りてぇかぁ? こいつはなぁ、オボロが使う妖刀『九頭龍』の同類……妖刀『霞双月』だ」


「ほう、妖刀は他にもあったのか。あの時とは……得物を変えたようだな」


「ああ、そうさ。お前の住んでた大地の地上げに成功した褒美に、社長から下賜されたのさ! さあ、てめぇも切り刻んでやるよ。見えない刃を恐れながら死ねっ!」


 そう叫んだ後、マグメイは猛スピードで走り出す。真っ直ぐ腕を伸ばし、突きを放った。刀身が見えないため、リーチを把握することは不可能。


 ジェディンは背中から伸ばした鎖で地面を叩き、その反動で空中に飛び上がる。そして、突きを避けつつ反撃を叩き込む。


「死ねだと? それはこちらの台詞だ、マグメイ。地獄に落ち、永遠に苦しみ続けろ! アンガーチェイン・スピアー!」


「おっと、ざんね~ん! 当たらねえよ、こんなへなちょこな鎖なんかなぁ!」


「そうか、なら……当たるまで追跡し続けるだけだ!」


 上側の二本の鎖を伸ばし、攻撃するも避けられてしまう。だが、その程度で諦めるようなジェディンではない。


 手でも脚でも、どこでもいい。相手の身体を穿ち、貫ければそれでよいのだ。執念深く鎖を操り、走り回るマグメイを追跡する。


「フン、くだらねぇことしやがる。こんなもなぁ……切り落としちまえばいいんだよ! 霞夢想・双滅断!」


「フッ、やはりな。こちらが追えば、必ず攻撃してくるだろうと踏んでいた。おかげで……その刀のリーチ、ある程度は掴めたぞ」


 鎖を両断され、攻め手を一部失うジェディン。だが、反撃されるのは想定通り。むしろ、これで霞双月の攻撃範囲を調べる狙いがあったのだ。


「ああ? てめぇ……謀りやがったな? このオレを」


「そうとも。俺は怒れば怒るほど、逆に頭がクリアになって思考が冴えるタイプでな。こうしてやり込めることなど造作もない! リカバリーチェーン!」


「フン、たかが刀のリーチを把握したからって調子に乗ってんじゃねえぞゴミが! 例え刀身の長さを理解出来たとしても……攻撃を防げるかは別問題なんだぜぇ!」


 相手をやり込めたジェディンは、ニヤリと笑いながら鎖を再生させる。一方のマグメイは、苛立ちを募らせつつもまだ余裕の態度を見せていた。


 刀を逆手持ちに変え、着地したジェディンに向かって再度突進する。刀の攻撃範囲が判明したとはいえ、油断は禁物だ。


「その鎖ごとてめぇをぶった斬ってやるよ! テンペスター・レヴォルダン!」


「やってみろ……出来るものならな! チェーンウォール!」


 四本の鎖を展開して束ね、強固な盾へと変えるジェディン。そこに、マグメイの放つ嵐の如き連撃が叩き込まれる。


 単純な斬撃だけでも相当な威力があるのに加え、マグメイ自身の腕力が桁違いに高いせいで少しずつ後退させられるジェディン。


「くっ、予想以上に力が強い……!」


「ヒャッヒャッ、デケぇ口叩いたわりには押されてるじゃねえか。え? この調子じゃあ、敵討ちなんて出来るわけねぇなぁ! ゼビュードアッパー!」


「ぐうっ!」


 マグメイの放った一撃が、鎖の盾を打ち砕き守りを崩した。もう鎖は使わせないと、連続攻撃を畳みかけ切り刻んでいく。


「ヒャッヒャッヒャッ! さあ、まずはこのうざってぇ鎖からだ! マグナギオ・スラッシャー!」


「くっ……そうはさせん! チェーンバイン……」


「遅ぇんだよ! バラバラにしてやらぁ!」


 アルギドゥスの時のように、鎖を突き刺して動きを封じようとするジェディン。だが、相手の動きはそれよりも速かった。


 見えない刃から繰り出される斬撃が、四本の鎖を微塵切りにしていく。抵抗することも逃げることも出来ず、鎖は根元付近を残しバラバラになった。


「ヒャッヒャッヒャッ! こうなっちまったら、もうどうしようもね……へごっ!?」


「ああ、そうだな。だが、鎖が失われたからなんだというんだ? 俺にはまだ、自前の手脚が残っている。絶望などするものか!」


 鎖を機能不全に陥らせ、得意気に笑うマグメイだったが……その途中、ジェディンの拳がみぞおちに叩き込まれた。


 ついでに回し蹴りを食らい、吹っ飛ばされる。例えメインウェポンを失おうとも、ジェディンには成さねばならぬことがある。


 故郷を、家族を、仲間を、己の両目と尊厳を。全てを奪い、踏みにじった宿敵を討ち取り、復讐を完遂する。それだけは、果たさねばならないのだ。


「てめぇ、やりやがったな!」


「俺は負けていられない。こんなところで、朽ち果てる訳にはいかないんだ。もし死ぬとしたら……最低でも貴様を道連れにしなければ、メイラたちに顔向け出来ん!」


「そうかい、じゃああの世で詫びな。仇を討てなかったことをよぉ!」


「何を──! う、がはっ」


 マグメイに飛びかかり、馬乗りになろうとしたジェディンだったが……単純なスピードでは、相手が完全に上を行っていた。


 まばたきする程度の、僅かな時間。その一瞬の間に、マグメイはジェディンの懐に飛び込み、腹に刃を突き立てたのだ。


「あばよ、今度は死なせてやるぜ。もちろん、長い時間苦しませてな! ヒャッヒャッヒャッヒャッ!」


「まだ、だ……俺は、まだ……」


 刀が引き抜かれ、ジェディンの身体が崩れ落ちる。不快な高笑いを耳にしながら、少しずつ意識が薄れていく。


 そんな中、ジェディンが身に付けているダイナモドライバーのバックルに血がしたたり落ちる。復讐に燃える熱き血が、バックルに吸い込まれた。


 直後、赤と黒の光がバックルから放たれる。その光は弱くとも、確かに示していた。オーバークロスの発生による、進化の兆しを。

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― 新着の感想 ―
[一言] 状況は刻一刻と進んで今度はジェディンの因縁の相手か(ʘᗩʘ’) ポーンのカスと違って完全に腐れ外道のビショップか(↼_↼) 苦節5年、探し彷徨って探し出した仇(-_-メ)逃がすも逃すも無く…
[一言] 一体どうしたらあのアヴェンジャー氏がぬいぐるみの群れを操るわけ?w
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