14話─ボルス救出作戦
カストルがいる王城、エルハイネン。城内は厳重な守りが固められ、蟻の這い出る隙間も無いほどの状態になっていた。
以前のように、シュヴァルカイザーがボルスの救出に来るだろうとメルクレアに進言され、カストルが指示を出したのだ。
「これだけの守りを固めれば、あの忌々しいヒーローも容易く城に入れまい。今回は強力な助っ人もいるんだ、奴を捕らえて正体を暴いてやる!」
「我々にお任せを、殿下。このブレイズソウル、必ずや期待に応えてみせましょう」
玉座の間に、カストルとメルクレア、そしてカルゥ=オルセナに到着したブレイズソウルがいた。敵発見の報告があり次第、いつでも動けるように待機している。
「テンプテーション、アレが例の実験の被検体候補か?」
「アンドレ、ここではエージェントネームで呼ばないで。まだ王子に本当の目的を知られたくないの」
「……了解した。しかし、本名で呼ばれるのも久しぶりだな。危うく自分の名前を忘れるところだった」
カストルから離れ、玉座の間の端でメルクレアとブレイズソウルは小声で会話を行う。幸いにも、カストルには聞かれていない。
メルクレアもまた、カンパニーの特殊営業部に属するエージェントだ。ロブロック産業が作戦を遂行出来ているかの監視役を担っているのである。
現在は『ある計画』を進めるため、カストルを籠絡し王妃候補として側に仕えている。
「それにしても、静かなものだ。シュヴァルカイザー……と言ったか。その者が何らかの手段でお前たちの動向を見張っているのは確実なのだろう?」
「ええ、そのはずよ。だから、すでにボルス王子を救出するために動き出してるはず……。困るわね、来てくれないと『仕込み』が台無しになるわ」
未だ現れる気配がないシュヴァルカイザーに、二人はやきもきさせられる。一方、当のシュヴァルカイザー本人はと言うと……。
「本当にあるんですね、こんなところに隠し通路が。多分、つよいこころ軍団でも見つけられてませんよここは」
「だろうね。ここは厳重に隠された王族専用の脱出路だから。いくつもの魔法による防御が施されているんだよ」
「へー、中々やるのねー王族も。おかげで、兵士たちに見つからずに進めるわ」
オットーに案内され、アンネローゼと共に秘密の脱出通路を進んでいた。王都の外に隠された出入り口を使い、安全に先へ進む。
カストルには存在を知らされていないのか、兵士が配置されていることもない。そのおかげで、三人はスムーズに城へ潜入出来た。
「そろそろ、スーツを着ておきますか。何か起きてからでは遅いですからね」
「そうね、フィルくん。新しいシュヴァルカイザースーツのお披露目、楽しみね!」
「ええ、見せてあげますよ。シュヴァルカイザーマークツーを」
通路を半分ほど進んだところで、フィルは腰に巻いていたベルトに触れる。ギアーズに改良してもらったスーツを、ついにお披露目するのだ。
「ダイナモドライバー、プットオン! シュヴァルカイザー、オン・エア!」
「はあ、いつ見ても格好いいわ……フィルくんが変身してるとこ」
「いや、変身するのを見るのは二回目……えっう゛!」
「ちょっと黙ってて、お父様。今いいとこだから」
フィルがスーツを纏う様子を、うっとりしながら眺めるアンネローゼ。そんな彼女にツッコミを入れるオットーだったが、ヒールで足を踏まれ悶絶する。
そうこうしている間に、フィルの変身が完了した。新たなスーツは、肘から先と膝から下が青色に染まっている。
「ねえねえ、そのスーツどんな感じにパワーアップしたの?」
「マナリボルブの出力向上と、新しい武装を追加してもらいました。共闘する時に見せてあげますよ、たっぷりとね」
「ふふ、楽しみね。じゃ、私も変身しとこっと。ダイナモドライバー、プットオン! ホロウバルキリー、オン・エア!」
フィルと共闘する時が来るのを楽しみにしつつ、アンネローゼも変身を行う。白い鎧兜に身を包んだ戦乙女になり、戦闘準備を終える。
後は通路を進み、出入り口がある地下牢に出てボルス王子を救出するだけ……そう思っていた。だが、そう簡単には行かないようだ。
「! 二人とも、止まってください。前方から生命反応の接近を感知しました。誰か来ます!」
「へー、こんなとこに通路があったんだー。暇過ぎて壁蹴り壊して遊んでたら、いーい感じの発見しちゃったなー」
「この反応……相手は闇の眷属ですね。早速、活躍の時が来ましたか」
通路の向こうから、楽しげな女の声が聞こえてくる。どうやら、偶然通路の存在に気付き侵入してきたようだ。
フィルの言葉に、アンネローゼは身構える。オットーを守るため、彼の前に立つ。少しして、通路の向こうから敵が現れた。
「お、シュヴァルカイザーはっけーん。おろ? 隣に知らにーのがいるーぅ。あんただれー?」
「フン、そのセリフそっくり返してあげるわ。あんたこそ誰なのよ。名前くらい名乗ったらどう?」
「うわ、ナマイキー。わっち、こういう女きらーい」
数人の近衛兵を引き連れ、キックホッパーがアンネローゼたちの前に姿を見せる。へらへら笑う相手に、アンネローゼが攻撃的な声で語りかける。
「ま、いーか。んじゃ教えてあげよーかに。わっちはキックホッパー! 偉大なるヴァルツァイト・テック・カンパニーに所属する特務エージェントなのだー! どうだ、参ったか!」
「! なるほど……とうとう、本社が動き出したというわけですね。これはちょっと厄介なことになってきましたよ」
「なになに? どういうことなの? フィ……シュヴァルカイザー」
「知る必要はないよん。チミらはここで! わっちに八つ裂きにされて死ぬんだからねー! お前たち、あっちのおデブちゃんを殺しちゃえ! 始末し損ねた奴が来てるんだから、汚名挽回しな!」
「キックホッパー様、それを言うなら汚名返上です!」
オットーの始末を近衛兵たちに任せ、キックホッパーはフィルに襲いかかる。それを見たフィルは、アンネローゼに下がるよう指示を出す。
対するキックホッパーは、転移用の魔法陣を使い近衛兵たちをテレポートさせる。通路の反対側に送り込み、挟み撃ちにするつもりなのだ。
「固まっていたらオットーさんが危険です。キックホッパーは僕が食い止めます、ホロウバルキリーは通路の奥に!」
「分かったわ! 兵士たちは私に任せて、全員コテンパンにするから!」
「へっへーい、やれるもんならやってみなー!」
アンネローゼが下がった直後、キックホッパーがフィルの元に到着する。キカイ仕掛けの脚を駆動させ、鋭い回し蹴りを放つ。
それをフィルが避けると、壁に踵が叩き込まれる。あまりの破壊力に、壁が砕けてしまった。あまりの威力に、フィルは冷や汗をかく。
「何という威力……! まともに食らったらただじゃ済まないですね、これは」
「へへーん、本社から与えられたマジカルサイバネティクス・アーツを舐めちゃダメだよん。そーら、そのヘルメットを蹴り砕いて素顔を拝もっかな! スピンキック!」
「させませんよ! マナリボルブ:アイス!」
床を蹴り、急加速して相手に接近するキックホッパー。対するフィルは、相手の歩幅を素早く計算し、着地するだろう場所に魔力の弾丸を撃ち込む。
撃ち込まれた弾丸が着弾した瞬間、床が凍結し氷が張り付く。そこを踏んだキックホッパーは、つるんと滑って盛大にぶっ転んだ。
「ちょ、やば……ぎゃふん!」
「後頭部からいきましたね。あれは下手すると脳挫傷コースになりますねぇ……」
思いっきりすっ転び、派手に後頭部をぶつけるキックホッパー。嫌な音がする中、フィルは自分がやったのを棚に上げ気の毒そうに呟く。
「おおお……強化手術してなかったら、これだけで死んでた……。おのれ、やりおる……」
「あ、普通に立てるんですね。流石、本社から直々に送り込まれた刺客だけあってタフですね」
「ふっふーん、あったりまえじゃーん? ……てゆーか、なんでチミそんなに本社について知ってるわけ? あ、もしかして……」
「ええ、以前一体だけあなたたちが送り込んできた刺客のアンドロイドを鹵獲出来たことがありましてね。バラすついでに、情報を解析させてもらいました」
「おー、おっとろしいことするねー。やっぱあの役立たず共、プロジェクトを降ろして正解だったにー」
そのまま気絶するかと思われたキックホッパーだったが、痛みに顔をしかめつつも普通に起き上がってきた。お互い軽口を叩きつつ、ジリジリ距離を詰める。
「そんじゃ、痛みも引いたしー。そろそろ死んでもらおっかな!」
「そうはいきませんよ。新しく生まれ変わったスーツの力、見せてあげます!」
地下通路にて、フィルとキックホッパーの戦いが始まった。




