128話─宣戦布告!
コリンからの知らせがもたらされてから、一週間と数日。カルゥ=オルセナ全域につよいこころ軍団を派遣し、ヴァルツァイトを探すフィル。
しかし、それでも敵を見つけ出すことは出来なかった。焦りが募るが、下手にフィルたちが動くわけにはいかない。
「中々見つかりませんね、ヴァルツァイトは。本当にカルゥ=オルセナにいるんでしょうか」
「どうかしらね。ま、いようといまいと関係ないわ。見つけたらブン殴りに行くだけよ」
基地のメインルームにて、フィルとアンネローゼはモニターを見ながらそんな会話をする。ふと、フィルはある質問をした。
「アンネ様、もし……カストル王子が敵として現れたらその時はどうしますか? 恐らく、まだカンパニーと一緒に潜伏していると思いますが」
「あー、バカストルね。いや、正直アイツはもうどうでもいいかなーって。お父様が攫われた時に、鬱憤晴らしてやったし」
アンネローゼがホロウバルキリーとなるきっかけを作った、ヴェリトン王国元第一王子カストル。彼の行方も、フィルたちは掴みかねていた。
もしまだカンパニー側に属していれば、いずれ敵として戦うかもしれない。そう考えて問うてみたが、意外な答えが返ってくる。
「え、そうなんですか?」
「うん。どっちかって言うと、あのメルクレアって女の方が許せないわ。アイツがそもそもの陰謀の黒幕なわけだし。もし見つかったら、徹底的に殴って泣かせてやるわ!」
「意外ですね、王子をずっと恨んで──! アンネ様、モニターに反応が!」
「え、ちょっと何よこの反応!? 凄く大きいじゃない、何がどうなってるの!?」
話をしていたその時、モニターから警告音が鳴り響く。遙か遠い南の海上に、巨大な敵性反応が出現したのだ。
あまりの反応の大きさに、思わずフィルもアンネローゼもモニターを見つめ動けなくなってしまう。すると、モニターが歪み出す。
『クックククク、こうシて顔を合わセるノは初めてダな。はじメまして、シュヴァルカイザー……いヤ、フィル・アルバラーズ』
「お前は……ヴァルツァイト・ボーグ!」
『私ヲ探しテいたのダろう? ご苦労ナことだ、全て無意味だがネ』
モニターに映し出されている世界地図が消え、計器類が設置された部屋に映像が切り替わる。ヴァルツァイトがモニターをジャックしたのだ。
「そっちから連絡してくるなんてね。よっぽど私たちにブン殴られたかったと見えるわ」
『ククク、ソんな生意気なことヲ言っていらレるのも今だけダ。シュヴァルカイザーよ、貴様に宣戦布告スる。我が総力ヲ以て、貴様を滅ぼさせてモらう!』
「僕を滅ぼす、ですか。やれるんですか? 今のあなたに。コリンさんから聞きましたよ、彼との戦争に負けたそうじゃないですか」
『ああ、そうトも。だが、我が配下ノ中でも最強のエージェントたち……チェスナイツをはじめトした最後の戦力が揃ってイる。敗北はナい、決してな』
宣戦布告をするヴァルツァイトに対し、強気な態度に出るフィル。彼の指摘に対し、ヴァルツァイトは開き直る。
指を鳴らすと、ヴァルツァイトの背後に六人の男女が姿を現す。ポーン、ビショップ、ルック、ナイト、クイーン、キング。
チェスの駒になぞらえた、6人の特務エージェントたちを見ていたアンネローゼは何かに気付き声をあげる。
「ん? あっ! フィルくん、端っこにいるのって……あのバカストルじゃない!?」
『ククク、気付いたカね? そうトも、君の元婚約者も我が配下ニ加わってイる。もっとモ、戦死した先代ポーンの代役だガ』
六人のうち、一番右にアンネローゼが嫌というほど見慣れた顔があった。灰色の鎧に身を包んだ、カストルがいたのだ。
体格が見違えるほどよくなっており、サイボーグ化の手術をされたのだろうとフィルは推察する。こちらの声はヴァルツァイト以外には聞こえていないのか、カストルは反応しない。
「ふぅん、おこぼれで仲間にしてもらったってわけ。上等よ、全員纏めて叩き潰してやるわ!」
「ええ、お前も部下たちも全員返り討ちにしてやります!」
『やれルものなラやってミるがいい。三日後、最後ノ攻撃を仕掛けル。どこマで抗えるノか見物だナ! ハハハハハハハ!!!』
高らかにヴァルツァイトが笑う中、映像が途切れブラックアウトした。フィルはすぐさまつよいこころ軍団を使い、仲間を呼び出す。
「……ということで、ヴァルツァイトからの宣戦布告がありました。決戦は三日後、それまでにこちらも準備を整えましょう!」
「うおおー! 燃えてきたっす! 魔神との戦いでゲットした新しい力を見せつけて、ボッコボコにしてやるっす!」
「いよいよ、か。カンパニーとの最後の戦いが始まるのだな……そうだ、フィル。例の映像は俺たちも見られるか? 敵の姿を見ておきたい」
「大丈夫ですよ、ジェディンさん。リアルタイムで録画されてるので。イレーナやオボロも、敵の顔を覚えておいてくださいね」
知らせを聞き、メインルームに集結した仲間たち。ジェディンの言葉に頷き、フィルはモニターに録画された映像を再生する。
いざ戦うという時になって、敵の容姿を知らないでは話にならないのだ。最初は黙って映像を見ていたジェディンだが……。
「! 待て、フィル。少し映像を巻き戻してもらえないか?」
「ええ、いいですよ。これくらいでいいですか?」
「ああ、それでいい。ついでに、映像を止めてくれ。確かめたいことがあるんだ」
エージェントたちが現れたところから、ジェディンの様子が変わった。食い入るようにモニターを見つめてながら、映像を拡大するよう指示を出す。
フィルはそれに従い、コントロールパネルを操作して映像の指定された部分を拡大する。クローズアップされたのは、とあるエージェントの顔だ。
「……ついに、ついに見つけたぞ。メイラとリディムの仇を。顔に三本の裂傷があるエージェントをな!」
映し出されているのは、チェスナイツの一角……ビショップ・マグメイ。彼の顔の右側には、縦方向に走る三本の裂傷が刻まれていた。
五年前、ジェディンの住んでいた村を襲い、彼の妻子を……村の住民たちを地上げのために虐殺した特務エージェント。ついに、それを見つけたのだ。
「なんという僥倖だ。例の少年魔王との戦争で仇は死んだものと半ば諦めていたが……生きていたとは。これで、これで……この手で直接、引導を渡してやれる!」
「ジェディン、先走ってはならぬぞ。冷静さを保つのじゃ、迂闊に動けば奴らに狩られるぞ」
「分かっていますよ、先生。独断専行などするつもりはありません。それでは奴らには勝てない。俺一人の力では。でも」
「僕たちが一致団結すれば勝てる。そうでしょう、みんな」
復讐すべき相手をついに見つけ出したことで、ジェディンは暗い喜びに打ち震える。そんな彼に、ギアーズが釘を刺す。
ジェディンは頷き、自分の手を見つめる。万全の勝利を得るには、仲間の力が不可欠。フィルの言葉に、全員が頷く。
「ええ、もちろんよ。これが最後の戦い……気合い入れてかないとね!」
「しかし、一つ問題がある。敵は社長を含めて七人だが、こちらは五人しかいない。二人ほど戦力を確保しなければ対抗出来ぬぞ」
好戦的な笑みを浮かべながら、アンネローゼが答える。そこに、オボロが口を挟む。彼の言う通り、現状では戦力に差があるが……。
「そこは問題ありません、オボロ。昨日、コリンさんから連絡がありました。二人ほど、こちらに援軍を出すそうです」
「あ、そうなんすね。なら、人数の問題は解決したも同然っすよ!」
「ええ、ただ……いろいろゴタゴタしていて援軍の到着が遅れるかもしれない、とのことでした。間に合えばいいんですけど……」
「そこはもう、間に合うことを祈るしかあるまい。おお、そうじゃフィル。例のぼんに頼まれて、ダイナモドライバーを一つ渡したんじゃろ? よかったのか、そんなことをして」
すでに、コリンが手を打ってくれていた。ヴァルツァイトとの決戦に備え、手の者を加勢させてくれることになったのだ。
そのための準備として、フィルはコリンからダイナモドライバーを一つ融通してくれるよう頼まれたのだが、果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。
それはまだ分からない。
「大丈夫ですよ、コリンさんなら悪用はしないって信じてますから。今僕たちに出来ることは、三日後の決戦に備えて準備することです」
「そうね、そうと決まれば特訓よ! 待ってなさい、全員ぶっ潰してやるから!」
フィルとヴァルツァイト。両陣営の決戦の時が、すぐそこまで近付いてきていた。




