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13話─動き出す陰謀

「わっちらをお呼びでござーやしょうか、しゃちょー」


「ブレイズソウル、到着しました」


「うム、よく来てクれた。諸君らニ、新たな仕事ヲ与えル」


 アンネローゼとフィルがデートを楽しんでいる頃、ヴァルツァイト・ボーグの元に二人のサイボーグが訪れていた。


 片方は、両足をキカイ化した女性。へらへら笑いながら身体を揺らす度に、大きなお下げも揺れている。もう片方は、全身を改造している大男。


 はちきれんばかりの巨躯を無理矢理スーツに押し込め、どこか窮屈そうに立っている。二人とも、特殊営業部に所属する特務エージェントだ。


「仕事っすかぁ~? いーすよ、わっちら暇こいてたとこなんで~」


「キックホッパー、社長に対して無礼であるぞ。節度を持った言動を……」


「よイ、今はそンな議論をシている場合デはないからナ。早速だが、君たちノコアにデータを送る。これまでノいきさつが分かるヨうにな」


 そう言った後、ヴァルツァイトは指を鳴らす。すると、エージェントたちの心臓兼頭脳であるコアに情報が流し込まれた。


 ロブロック不動産によるカルゥ=オルセナの『地上げ』の失敗、それに伴う制裁とプロジェクトの変更。そして……最大の障害であるシュヴァルカイザーの脅威。これらの知識を得る。


「あー、なーるほど。こりゃわっちらが出て行かにーとダメっすねー」


「そうダ、キックホッパー。加えテ、新たナ敵も観測サれた。ホロウバルキリー……シュヴァルカイザーに続く邪魔者がナ」


「ほう、それは……なるほど、故に一人ではなく我々二人を指名したと」


「ああ。一人デは不測の事態ガ起きた時ニ対処シ切れない可能性があル。だガ、二人ならバ問題あるマい」


 事の子細を把握したエージェントたちに、ヴァルツァイトはそう語る。モノアイを収縮させながら、部下たちに発破をかけた。


「さア、行くがいイ。一級エージェントにシて、大いナる魔ノ貴族たちヨ。かの『双子大地』を手ニ入れるために全力ヲ尽くセ。全てはカンパニーの繁栄ノために!」


「ハッ! 全ては……」


「カンパニーの繁栄のために~」


 キックホッパーとブレイズソウル。強大な敵が、アンネローゼとフィルの前に立ちはだかろうとしていた。



◇─────────────────────◇



「ただいま~。お父様、博士、今帰ったわよ~」


「戻りました~」


 敵の不穏な動きなどつゆ知らず、フィルたちは基地に帰ってきていた。すでに陽が落ちはじめており、ジャングルを夕陽が照らしている。


 市場で調達した食材をキッチンに運んでいると、何かがアンネローゼのところに飛んできた。よく見てみると、それは……。


「きゃっ! む、虫!? 何で基地の中にいるの!?」


「あ、大丈夫ですよアンネ様。そのカブトムシは、博士が作った情報収集用のキカイですから」


「え? そ、そうなんだ……よかった、私虫は苦手だから」


 目の前を通過していった銀色のヘラクレスオオカブトを見て、アンネローゼはぎょっとする。そんな彼女に、フィルが説明を行う。


「あの子たち……通称『つよいこころ軍団』はギアーズ博士が管理していて、この大地のあらゆる場所に派遣されてるんです。カストル王子の陰謀を知れたのも、彼らのおかげなんですよ」


「へー。あの博士、ただぐーたらしてるだけじゃなかったのね」


「……それ、本人の前で言わないでくださいね? 機嫌損ねちゃいますから」


 つよいこころ軍団は、カルゥ=オルセナの全域に配備されているとフィルは語る。彼らをコントロール出来るのは、ギアーズただ一人。


 フィルであっても、彼らの制御は不可能なのだ。ギアーズが情報を集め、フィルが現地に赴き問題を解決する。それが彼らの役割分担なのである。


「お、帰ってきおったか。今日は随分と遅かったのう。……ははあ、さてはおぬしらデートしておったな」


「えっと、それは……」


「ええ、そうよ。リメラレイクでたくさん遊んで買い物してきたわよねー? フィルくん」


「そうですね……はい」


 キッチンに到着すると、ギアーズとオットーがチェスで勝負をしていた。帰りが遅かったことから、デートでもしていたのだろうと見抜くギアーズ。


 言い淀むフィルに変わり、アンネローゼがキリッとした表情で答える。フィルも同調し、恥ずかしそうに苦笑いした。


「なにっ! デートだと……まさか二人ともあんなことやこんなことを」


「してませんよ!? そ、そういうのはまだ早いというかなんというか……ごにょごにょ」


「ふふ、大丈夫よフィルくん。()()()が来たら私がリードしてあげるから!」


 いらぬ想像をするオットーに、フィルが顔を赤くしながら叫ぶ。そんな彼に、アンネローゼはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら声をかける。


「ううう……みんなしていじわるするなんて! もう怒りました、今日は全員お夕飯おしんこだけにします! 泣いても喚いても許しません!」


「あれ!? わし巻き添え食らった!?」


 ぷんぷん怒るフィルと、特にからかってないのに巻き添えを食らったギアーズが叫んだ直後。一匹のつよいこころくんがキッチンに飛び込んできた。


「博士、つよいこころ八号が来ましたよ」


「む、こやつの担当はヴェリトン王国の首都じゃったな。何か動きがあったらしいの……八号、集めた情報を見せよ」


「ハイ、カシコマリマシタ」


「!? し、喋ったぁぁぁぁぁ!?」


 アンネローゼが驚く中、つよいこころ八号はツノの先から魔力を放射する。壁に放たれた魔力が、映像を映し出す。


 フィルたちが見守る中、現れたのは……カストル王子と対峙する、二人の男性だった。顔を見たオットーは、目を丸くして驚く。


「あれは! グリッツ王にボルス王子! 何故カストル王子と言い争いを?」


「多分、カストルの横暴を聞いて諫めておるんじゃろな。つよいこころ八号、音声もオンにしてくれい」


「カシコマリマシタ。音声ノ同調ヲ行イマス」


 ギアースに命令され、つよいこころ八号は音声の再生も始める。結果、三人が何を言っているのかも把握出来るようになった。


『カストル、わしが留守の間に何ということをしてくれたのだ! まさか、闇の眷属どもと手を組んでいようとは……』


『これは許されざる反逆ですよ、兄上。何故このようなことをしたのです!』


『だれに向かって口を利いている? 俺はこのヴェリトン王国の新しい王だぞ? すでに諸侯連合は瓦解し、王国全域が支配下に入った。素晴らしい功績だろう?』


 玉座の間にて、親子が対峙する。蛮行を咎めるグリッツとボルスに対し、カストルは平然とした様子で玉座にふんぞり返っていた。


『素晴らしいものか! オットーを陥れ、地位も名誉も奪うなど……恥を知るがよ……ぐふっ!?』


『父上!』


『ごめんなさいねぇ。わたくしとカストル様の未来のためにも、邪魔者には消えてもらわないといけませんの。さようなら、グリッツ王』


『貴様、よくも父上を!』


 カストルの元に詰め寄ろうとするグリッツ。その時、長く伸びていたカストルの影の中から一人の女が飛び出してきた。


 手に持った短剣でグリッツの心臓を一突きし、一撃で息の根を止める。それを見たボルスが激昂し、飛びかかっていく。


『ホホホ、遅い遅い。そんなノロマでは、わたくしは倒せませんわよ? ふんっ!』


『ごふっ!』


『よくやってくれた、メルクレア。近衛兵、ボルスを地下牢に連れて行け! 明日処刑をする。今度はアンネローゼ(クソアマ)の時のような失態はするなよ!』


『は、はいっ!』


 女……メルクレアに返り討ちにされ、ボルスは捕らえられてしまった。近衛兵に彼が連行されるところで、映像は終わる。


「な、なんということだ……グリッツ王が殺されてしまうとは……!」


「どうやら、本格的に動き始めたようですね。カストル王子とその協力者が」


 親友でもあった王の死を、オットーは嘆き悲しむ。その側で、フィルは険しい顔付きになり呟く。つよいこころ八号を呼び寄せ、魔力を流し込む。


 映像がいつ頃録画されたのかを調べた結果、昼間に起きた出来事であることが判明した。


「この映像が録画されたのが今日の昼間……博士、どうやら時間はあまり残されていないようです。すぐに王都に行きます。ボルス王子の救出を急がないと!」


「やれやれ、晩飯はお預けじゃな。よし、行くがよいフィル! 先にラボへ寄っていけ、頼まれてた新しいスーツが完成しとる」


「ありがとうございます、すぐに急行し」


「待ってくれ、フィルくん。私も連れて行ってくれないか?」


 すぐにでも王都へ向かおうとするフィル。そんな彼に、オットーがそんな頼みをした。フィルもアンネローゼも驚き、目を見開く。


「ちょ、本気で言ってるのお父様!? 危ないわよ、やめた方がいいって!」


「戦力にはなれんが、グリッツ王から教えられた秘密の通路を案内出来る。上手く行けば、労せずボルス王子を助けられるぞ。それに……」


「それに?」


「親友を殺されて、黙っていることなど出来ん! カストル王子に一泡吹かせて、王の仇を討ちたいのだ! 頼む、私も連れて行ってくれ!」


 アンネローゼに止められる中、オットーは頭を下げて頼み込む。しばらく考え込んだ後、フィルは頷いた。


「分かりました。ただし、危ないと判断したら即座にテレポートで帰還してもらいます。それでもいいなら、同行を認めましょう」


「いいの? フィルくん。まあ、私が全力でお父様を守るからいいけど」


「おお、ありがとう! よし、なら善は急げだ。待っていろ、カストル王子!」


 アンネローゼとカストル。二人の再会の時が訪れようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ……では、グリッツ王を暗殺させた上に、ボルスを捕らえた不届き者を血の池地獄に落としてやるわ
[一言] さてさて色々動き出してるけど(ʘᗩʘ’) 一つ腑に落ちんがメルクリオは闇の眷属らしいけどカンパニーの所属か(?・・) だとすると周辺国を掌握しながら地上げ行為の侵略までやってるとなると2面…
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