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122話─機を狙う邪悪

「お待ちしておりました、社長。すでに、一人を除き集結しています」


「うム、待たせタなテンプテーション。だが、モう社長と呼ぶ必要ハ無い。今ノ私はもウ、カンパニーの長カら引きずり下ろさレた身だかラな」


 カルゥ=オルセナの南の果てに、永遠に溶けることのない氷に覆われた島がある。予測不能な海流とその下に潜む暗礁、そして突風に守られた天然の要塞。


 その島に、脱獄を果たしたヴァルツァイト・ボーグがいた。カンパニーが建設した基地の中で、難攻不落の守りを誇る場所だ。


 以前から暗躍を続けてきた特務エージェント、テンプテーションが主を出迎える。吹き荒ぶ寒風をものともせず、王は基地へ入った。


「かしこまりました、ヴァルツァイト様。すでに、先の戦争で落命したポーンを除く全てのチェスナイツが参じております」


「惜しい人材ヲ亡くしタ……だが、代わりトなる者ハもう用意シているのダろう? テンプテーション」


「はい。最新の機体をボディとして与えているので、問題はありません。戦闘経験は皆無ですが、データを詰め込むことで対処してあります」


 地下基地へと降り、廊下を進む二人。奥へと向かいながら、テンプテーションことメルクレアはヴァルツァイトに報告を行う。


「ククク、相変わらず容赦ガないやり方ダ。それガいいノだがネ」


「使い捨てとなる雑兵たちも、カンパニー本社が封鎖される前にどうにか運び込めました。とはいえ、千体ほどしかいませんが」


「そレだけいれば十分。私とチェスナイツを合わセれば、戦力としテは申し分なイ」


 そんな話をしつつ、廊下の奥へ到達する。扉を開けて中に入ると、四人の男女……最後に残った特務エージェントたちが待っていた。


 真っ赤な鎧とマント、王冠を身に付けたヒゲ面の男が真っ先にかしずいてヴァルツァイトに臣従の意を示す。


「お待ちしておりました、我が君。チェスナイツリーダー、キング・ガンドラ……馳せ参じました」


「同じくチェスナイツ、ナイト・クラヴリン。主の命により待機しておりました」


 続いて、馬の頭部を模した銀色の兜と、飾り気のない簡素な鎧を装備した男が片膝をつく。ヴァルツァイトは頷き、部屋の奥にある椅子に座る。


「うむ、先のコーネリアスとノ戦争で死ンだポーン以外はみな揃ってイるな。よく、我が命ニ従い逃げ延びテくれた」


「……我ら、生き恥を晒そうとも……主命とあらば、敵に背を向け敗走します。ルック・ゴライア……常に忠実に遂行します」


「ヒャッヒャッ、手柄欲しさに追ってくるバカな雑兵どもは、みぃんなこのオレ……ビショップ・マグメイが斬り捨ててやりましたさぁ」


 残る二人のうち、三メートルに届かんばかりの巨躯を持つ男が静かに答える。青いグレートヘルムの向こうからは、穏やかな目が覗く。


 もう一方、緑色の法衣に身を包み腰に二振りの刀を差し、顔の右側に三本並んだ切り傷がある男は、ニタニタと嫌悪感を煽る笑みを浮かべながら自慢気に答える。


 彼らは、数いる特務エージェントの中でも最強を誇るヴァルツァイトの親衛隊。クイーン・テンプテーションと戦死したポーンを含めた、王の右腕だ。


「我が忠実ナる兵士たちヨ。私が脱獄スるまでノ間、よく情報収集ニ尽力してクれた。おかげデ、シュヴァルカイザー関連の、欠けてイた情報が集まった」


「お役に立てたのであれば、我らみな感激の極みにございます。すでにシュヴァルカイザーの拠点の場所は把握済み。いつでも仕掛けられますが?」


「いヤ、もうしばラく待たネばならヌ。秘密裏ニ開発した、この『オルタナティブドライバー』を用いた戦闘ノ訓練が必要ダ」


 キング・ガンドラの進言に対し、ヴァルツァイトはそう答える。指を鳴らすと、スーツの上にベルトが出現した。


「ほう、それが例の……シュヴァルカイザーが用いるダイナモドライバーを模してお作りになられた」


「そうダ。このオルタナティブドライバーは、これまデ奴と戦った特務エージェントのコアを解析シ、戦闘データを集め作り出した最後ノ切り札。十全二扱えるヨうにならねバ、勝利は掴めナいからな」


 これまでフィルやアンネローゼたちの元に差し向けられた、数々の特務エージェント。ヴァルツァイトにとって、彼らの敗北と死は無意味ではない。


 むしろ、ダイナモドライバーと対を成す最強の破壊兵器……オルタナティブドライバーを完成させるための尊い犠牲なのだ。


「十日後ダ。十日後ニ、シュヴァルカイザーとゆかりのアる地へと散り、同時多発攻撃ヲ仕掛けヨ。敵を分散させ、キカイ兵の軍団ヲ使い敵の拠点を叩ク」


「ヒェッヒェッ、そいつぁ楽しみですわ。オレの刃が、また民間人どもを八つ裂きにするわけだ」


「それマで、よく身体を休めテおけ。クイーン・テンプテーション、新たなポーンの調整ヲ行え。最後の決戦ニ備えテな」


「かしこまりました。全てわたくしにお任せを」


 冥獄魔界を脱出し、カルゥ=オルセナへ舞い降りたヴァルツァイト・ボーグ。胸の内に秘めた野望を達成するために……最後の攻勢へ向け、牙を磨ぐのだった。



◇─────────────────────◇



「このボケどもが! なぁに逃がしてやがる! あれほど監視を強めろって言ったのに守ってやしねぇじゃねえかこのゴミどもが!」


「ひいっ! も、申し訳ございませんサタン様! まさか、武器を隠し持っているとは思っておらず」


「だからてめぇらはバカなんだよ! 相手はオレ様と同じ魔戒王、それも上位の王なんだぞ! あらゆる手を使って出し抜こうとするに決まってんだろが!」


 同時刻、冥獄魔界。看守たちが中央にそびえる城に集められ、主君である七罪(セブンシンズ)同盟(アライアンス)から雷を落とされていた。


 大広間に部下たちを集め、一人の男が怒号を飛ばしている。あちこちに鋲と金属製の細長いプレートが打ち付けられた黒い革のジャケットとズボンを身に付けた、見るからにガラの悪い男だ。


「これこれ、サタンよ。あんまり部下をいじめてやるな。落ち度への叱責も、度を超せばただのパワハラじゃぞ」


「あぁん、誰だ……って、コリ坊じゃねえか。ちょっと待ってろ、他の奴に交代する。看守ども、てめぇらは脱獄囚の捜索と監獄塔の修復に戻れ! いいな!」


「は、はいぃぃ~!!!」


 男が叱責していると、背後から少年の声が響く。振り向くと、マリアベルを連れたコリンがワープゲートを通って現れるところだった。


 ヴァルツァイト脱獄の知らせを受け、捕縛に協力しるためやって来たのだ。看守たちに指示を出して退出させた後、男……サタンは目を閉じてブツブツと何かを呟きはじめる。


「さて、誰が表に……あ? 自分が出たい? やめろアスモデウス、お前コリ坊にちょっかい出す以外の目的ねぇだろが。え? いや、嘘ついても分かるからな!? マモン、茶化すんじゃねえ!」


「……やれやれ、これは時間がかかりそうじゃな」


「いつものことながら、時間を取られますね旦那様。僭越ながら、わたくしが抱っこして差し上げ」


「その必要はないわ、メイドちゃん? うふふふふふふふ!!!」


 ゴタゴタにかこつけてマリアベルがコリンを愛でようとした、その時。サタンの背中に亀裂が走り、サナギのように割れてしまった。


 蝶が羽化するかの如く、サタンの抜け殻から一人の女が現れる。ドギツいピンク色のボンテージ衣装を身に付け、これまたピンク色の長い髪を持つナイスバディな美女が。


「おわっ!? これ、離せ! 離せと言うとるじゃろうが!」


「うふふふふ、いーやーよー。さあコリンちゃん、私のお部屋で夜通し対策会議(意味深)しま」


「旦那様から離れなさい、この【ピー】め!」


「あーら、怖い怖い! そんなに怒ると、小ジワが増えるわよー?」


「誰のせいですか……色欲の分身アスモデウス! 早く旦那様を離しなさい!」


「返してほしければ捕まえてごらんなさーい! オッホホホホホ!!」


 アスモデウスはコリンを抱き上げ、その場から逃走する。穏やかな表情から一転、マリアベルは殺意全開の表情で走り出す。


「いいでしょう。では、即座に捕らえて【ピー】に【ピー】をブチ込み、もう二度と使い物にならないようにして差し上げます!」


 メイド服の裾を摘まんで持ち上げ、凄まじい速度でダッシュする。その後、二人の追走劇は三時間に及んで繰り広げられることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何処も彼処も時間掛かりそうだな(ʘᗩʘ’) 最後の戦仕立てに時間掛け、オバハンからコリン奪還にも時間んて(٥↼_↼) これは時間かかるわな(◡ω◡)
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