120話─築かれた友情
アルバラーズ家の里での戦いから、数日。フィルとその仲間たちは、リオたちに招かれグランゼレイド城に来ていた。
仲直り記念バーベキューパーティーが開催され、その客として招待されたのだ。食材も費用も全部魔神負担ということで、みな食べる気満々だ。
「リオさん、今日は招待してくれてありがとうございます」
「いいのいいの、そんなかしこまらないで? 迷惑かけたお詫びなんだから。今日はパーッと騒いで、親睦を深めようよ!」
「ふふん、望むところよ。この山盛りの肉と野菜、平らげてやるわ!」
城の中庭に、魔神の一族とフィル一行が集まりパーティーが始まる。専用ゴーレムたちが次々に肉と野菜を焼き、参加者が好きなものを皿に取り食べる。
「あの時はごめんねー、いろいろいじわる言って。……まだ怒ってる?」
「もう怒ってないっすよ、全部終わったんすから。だから、これからは……その、友だちになってくれるっすか?」
「うん! えっへへー、よかったぁ。許してくれるか不安だったんだよねー」
中庭の一角にて、イレーナとルテリが仲良くお喋りをしていた。一番手故に、一際強い敵意を持っていたルテリだが今は違うようだ。
散々痛め付けたイレーナに謝罪し、二人は改めて友だちになった。仲良く食事をしている二人を、物陰からこっそりダンスレイルが見守っていた。
(一悶着起きそうなら仲を取り持つつもりだったけど、その必要はなさそうだ。友だちが出来てよかったね、ルテリ)
「あ、それ食べていいっすか? アタイ、豚肉好きなんすよ」
「いいよ、じゃあそっちのニンジンと交換ね!」
「あ、助かった……アタイ、ニンジン嫌いなんっすよぉ」
二人が仲睦まじくしている一方、オボロは……何故かカレンと相撲を取っていた。中庭の端っこにある特設ステージにて、ロックアップの体勢で組み合っている。
「一つお聞きしたい。何故それがしは貴殿と組み合っているのだ?」
「あん? 決まってんだろ、そんなの。うちのセガレをぶっ倒した相手と戦ってみてぇんだよ、それくらい常識だろ?」
「いや、それは貴殿らだけだと思……むうっ!?」
「お、不意打ちに耐えたな。へっ、こりゃ転ばし甲斐があるってもんだ!」
ガティスから戦闘の一部始終を聞かされ、オボロに興味を持ったらしい。全身タイツの上からマワシを身に付け、時間無制限一本勝負を挑んだ。
話の途中で力を抜き、転ばせようとしたがオボロはとっさに耐える。それがさらに好奇心を刺激したようで、カレンの闘志は燃え上がる。
「いいぞーお袋殿! そーれ、のこったのこった!」
「どっちも頑張るんやでー! 負けるなー負けるなー!」
「やれやれ、特にやることもなし……たまには、こうして見世物を見るのも悪くはないな」
ガティスとアルガを筆頭に、満腹になった子世代の何人かが相撲の観戦を始める。ひっそりとジェディンも混ざり、オボロを陰ながら応援していた。
「ねえ、お母様。一つ相談があるの」
「聞いてくださるかしら」
「およ? なにさ、リリーにルルー。あ、その顔……もしかして、彼氏でも出来たかな!?」
一方、リリーとルルーは母親であるクイナにある相談をしていた。何か面白い火種になりそうだと判断し、クイナはノリノリだ。
「うん! 実はね、私たちお付き合いしてる男の子がいるの」
「お父様みたいな、可愛らしい子なの。これがとっても愛らしくって、お母様たちに紹介したいなって」
「むむむ、二人で彼氏をシェアしちゃうとは……流石拙者とリオくんの娘たち! うんうん、それくらい恋愛には貪欲じゃないとね!」
「……何をインモラルそうなことを話しておるのだ、お前たちは。そんな話はプライベートでやれ! リオが困惑しておるじゃろうが!」
少々まずい方向に話が弾みそうだったため、アイージャが割って入りストップをかけた。ソロンもそこに混ざり、双子を連行する。
「さて、お二人にはいろいろと聞かなければならないことがありますので。我々魔神の品格を落とすようなことをしていないか、みっちりと調べさせてもらいますよ」
「いやー! はーなーしーてー!」
「イカ焼きにされるー! 上手に焼かれるー!」
「しませんよ、母上じゃあるま」
「ソロン? 今妾のことで何か言おうとしたな?」
「ひいっ! な、何でもありません!」
うっかり余計なことを口走り、アイージャに睨まれるソロン。リリーたちを小脇に抱え、すったか走って逃げていった。
「……なんだか、とても賑やかですね。いつもこんな感じなんですか?」
「うん、そうだよ。みんな個性豊かで見てて飽きないんだよね。僕の大切な、自慢の子どもたちだよ。ふふん」
「まあ、いいんじゃないの? こうしてハタから見てる分には」
中庭のあちこちで巻き起こるドタバタを、フィルとアンネローゼ、リオは肉を食べながら眺める。親バカ全開なリオに、呆れた様子でアンネローゼが答える。
「分かってないなー、一緒にドタバタするから最高に楽しいのに。二人も、結婚して子どもが生まれたらきっと分かるよ、うん」
「そういうものかしらね。でも、フィルくんと結婚するのは大賛成よ、私。なんなら、今すぐにでも……」
「だ、ダメですダメです! まだ、その、いろいろと心の準備が……ごにょごにょ」
「ふふ、照れちゃって~。もう、ホント可愛いんだから!」
顔を赤くしてうつむくフィルに抱き付き、頬ずりするアンネローゼ。それを見て、リオは対抗心を燃やし始めた。
「むむっ! みーんなー、しゅーごー! 僕たちも負けてられない、イチャイチャしよ!」
「! 滅多に来ないリオからのイチャイチャ召集令……明日は天変地異か! 駄嬢、レケレス! いざリオの元へ!」
「はーい!」
「合点ですわ!」
リオに呼ばれ、アイージャを筆答とした嫁軍団が押し寄せる。それを見たダンテは、即座に緊急避難指示を発令した。
「やべえ、全員退避! イチャラブ空間から逃げろ、さもないと全身の穴という穴から砂糖を吹き出して死ぬぞ!」
「わー!」
「にーげろー!」
フィルとアンネローゼ、リオとその嫁たち。二つのイチャラブ空間の発生により、元から混沌としていて中庭がさらにカオスな様相を呈するのだった。
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「では、これより魔戒王会議を開会する。今回の議長はこのわし、コーネリアスが務めまする。みな、異議はありませんな?」
「全王、異議無し」
同時刻、暗域。コリンの発した緊急召集により、ヴァルツァイト・ボーグを除く全ての魔戒王が集められ会議を行っていた。
今回の議題は一つ。ヴァルツァイトによって行われた、『コーネリアスの提言』の違反へどのような罰を与えるかだ。
「みな知っての通り、とある協力者の手によりヴァルツァイトの提言違反が明らかとなった。約定に従い、かの者に罰則を与えねばならぬ。何か良き案がある者は挙手を」
「ふむ。では、ワガハイから一つよいかな?」
「む、では発言を許可する。えーと……七罪同盟、今日の『表に出ている人格』は誰じゃ?」
「それは当然、同盟の主たる傲慢の化身ルシファーを置いて他にない。コーネリアス議長、提案について話しても?」
「うむ、良いぞ。そなたの案を聞かせてたもれ」
コリンが意見を募ると、円卓を挟んで真向かいに座っている青年が手を挙げる。獅子の顔を模した紋章が付いた、黒いスーツを着た青年は立ち上がる。
「かの王は、かねてよりワガハイを含む諸王のヘイトを買ってきた。何故か? 奴が我らの経済を支配し、各々の領分を犯しているからである!」
「確かに、の。あやつの経済侵略を受けておらんのはわしくらいのものよな」
「これは良い機会だ。今回の違反で、奴から全ての権限を剥奪し玉座から蹴り出してしまえばよい。みなもそう思っているだろう? ん?」
ルシファーの言葉に、他の王たちも頷き返す。その中でも、特にヴァルツァイトへの敵意が強い者が一人いた。
「そんなんじゃ足りないわ……あいつは! 私を卑劣な手段で追い落として下克上しやがったのよ! 命も尊厳も、何もかも徹底的に破壊しなければ気が済まないわ!」
「フィービリア、貴公の発言は許可しておらぬ。座るがよい」
「……っと、いけないいけない。つい頭に血が昇ったわ。はあ、許されるなら謹慎中のあの【ピー】野郎を殺しに行くのに」
真っ白なゴスロリドレスに身を包んだ女……序列五位の魔戒王、フィービリアが突如怒りの叫びを放つ。コリンとの戦争に敗れ、謹慎中のヴァルツァイトへの不満をブチまけたのだ。
「ただ単に殺すだけでは、無用な混乱を撒き散らすだけじゃ。少なくとも、カンパニーの次期指導者を定め、引き継ぎが終わるまでは勝手な真似は許さぬ」
「分かってるわ。安心して、そこまで考えなしじゃないわよ私は」
「ならよい。しかし……ヴァルツァイトめ、このまま大人しくしているとは思えん。監視を強めねばならぬのう」
議長としてのリーダーシップを発揮し、場を収めるコリン。どこか不安を抱き、そう呟くが……王たちはまだ知らなかった。
ヴァルツァイトには、最後の切り札があることを。フィル一行とカンパニー、両者の戦いに決着がつく日は……近い。




