110話─獣と人の大熱戦
「仲良くあの世に送ってやるわ! 青い薔薇よ、私に力を! ウォーターウォール!」
「ムダなことを。その程度の水流、凍らせてしまうのは容易いこと! フリージングブレス!」
アルガを叩きのめし、下敷きになったフィルを助けようとするアンネローゼ。そうはさせまいと、ソロンが立ちはだかる。
アンネローゼは盾を掲げ、青い薔薇に込められた力を解き放つ。水の壁が地面から噴き出し、ソロンを天高く押し上げようとした。
が、バックステップで避けられた上にブレスで凍らされてしまう。しかし、その程度の対策をされるのは予想済みなのだ。
「そうすると思ってたわ、アンタならね! アンチェイン・ボルレアス、やっちゃいなさい!」
「アタイにお任せっす! 歌え、絶唱剣グルンディガス! バーストスパルタン!」
「なっ……!? 凍った水を砕いて!?」
「これだけの氷の破片、避けきれるもんなら避けてみろっすー!」
アンネローゼの掛け声に従い、イレーナは銃身に装着した刃を振動させる。氷の壁に刃を突き刺し、そのまま粉砕した。
そして、鋭く尖った大量の氷の破片をソロン目掛けて吹き飛ばす。それを見たソロンは、目の前に巨大な盾を作り出した。
「避ける? そんな必要はありませんよ。私は盾の魔神……全て防げはいいだけのこと! 出でよ、不壊の盾!」
「おー、ええで兄はん! やってま……お、おお!?」
「いつまで……人の上にのしかかっているつもりですか? いい加減、どいてもらいたいですね!」
一人では起き上がれないアルガは、ひっくり返ったままソロンを応援する。そんな中、突如くぐもった声が聞こえてきた。
辛うじて生きていたフィルが、アルガを持ち上げ始めたのだ。凄まじい重量を誇るアルガの巨体が、少しずつ地面から離れていく。
「まさか……あり得ない、猛毒のトゲを生やした甲羅に押し潰されたというのに」
「どこ見てんのよ、猫野郎。アンタの相手は私たちなのよ! エアースパルタカス!」
「一斉攻撃を食らえっす! でたらめバースト!」
「くっ、しまった!」
背後で起きた異変に気を取られたソロンは、接近してきていたアンネローゼたちへの対応が遅れてしまった。
盾を迂回して相手の懐に潜り込んだアンネローゼとイレーナは、風の刃と大量の弾丸による同時攻撃を叩き込む。
「うおりゃぁぁぁ!!」
「全弾発射ぁぁぁぁぁ!!」
「チィッ……ならこれでどうです? 出でよ、凍鏡の盾! ミラーリング・インパクト!」
「!? ウソ、攻撃が……」
「跳ね返された……って、逃げないと危ないっす!」
攻撃が当たる直前、ソロンは自身の両サイドに一枚ずつ盾を呼び出す。鏡のようによく磨かれた盾に攻撃が当たった瞬間、跳ね返されてしまう。
アンネローゼたちは戻ってきた攻撃を避けるのに手一杯になり、再度の攻撃に移れない。これで窮地を脱した……と安堵するソロンだったが……。
「よし、これで……」
「まだ終わってませんよ! 今度はお前が下敷きになりなさい! トータスハンマー!」
「おああああ!! 兄はん、逃げてーや!」
「なっ!? ぐはあっ!」
インフィニティ・マキーナの出力を最大まで上げたフィルは、アルガの甲羅から生えるトゲを掴んだまま跳躍。
油断していたソロンに向かって、勢いよくアルガを叩き付けた。完全に不意を突かれたソロンは回避も防御も出来ず、脳天に弟が直撃し地に沈む。
「はあ、はあ……。これで、一矢報いて……う、ううっ」
「フィルくん、大丈夫!?」
「ええ、攻撃そのものは耐えられましたが……トゲに宿っていた毒が……」
反撃に成功したフィルだったが、その場に膝を着いてしまう。合流したアンネローゼは、彼の身体が毒に蝕まれていることに気付いた。
「なら任せて、私が毒を消し去ってあげる。白い薔薇よ、力を貸して! クリアー・オーラ!」
アンネローゼは盾をフィルに向け、表面に描かれた白い薔薇を輝かせる。すると、盾から清らかな光が溢れフィルを包み込む。
浄化の力によって、フィルを蝕む毒は綺麗さっぱり消え去った。これで、どうにか優位に立つことが出来ただろう。
「ありがとう、ホロウバルキリー。アンチェイン・ボルレアスも」
「へっへーん、お役に立てて何よりっす!」
「ぐ、おのれ……ここまで我らを追い詰めるとは。アルガ、まだやれますか?」
「当たり前やで、兄はん。……パッパたちはもう、里に入ったみたいや。はよ終わらせて合流しようや」
「ええ、そうですね。では……合体技で仕留めるとしましょうか」
一方、ソロンとアルガはどうにかダメージを回復し、反撃に出ようとしていた。ソロンは身体を作り替え、直立し前足を人の腕へと変える。
アルガは手足と頭を引っ込め、肉体を消し去り甲羅だけの状態になる。そんな弟を右腕に装着し、ソロンは走り出す。
「三人纏めて仕留めさせてもらいます! トータス・シェル・インパクト!」
「! 来ます、二人とも離れて!」
フィルの声に合わせ、アンネローゼとイレーナは離脱する。一人残ったフィルは、剣を呼び出して構え相手を迎え撃つ。
「今度は潰されませんよ! さあ、来なさい!」
「潰す? 何を言うのです。今度はそんな生ぬるい攻撃はしない。お仲間共々、串刺しになりなさい!」
「いくで、魔力全解放や!」
先ほどのように、押し潰してくると思っていたフィルだったが……今度は違った。フィルの目の前で急停止し、ソロンは甲羅のトゲの生えている面を地面に叩き付ける。
「この魔力の波長……まずい! 二人とも、空中に逃げ」
「もう遅い! トータルスパイク・パレード!」
地中へと拡散していく魔力をキャッチしたフィルは、相手の真の狙いに気付く。仲間に向かって叫ぶも、一歩遅かった。
地面から無数のトゲが突き出し、フィルたちを串刺しにせんと襲いかかる。空中への離脱が遅れた三人へと、無慈悲に。
「わわっ! こりゃ危ないっす! さっさと飛んで逃げないと!」
「させませんよ! 出でよ、飛刃の盾! ブーメランストーム!」
「飛んで逃げるのは許さない、ってわけ? もう、面倒くさいわね!」
無数のトゲを避けつつ、空へ逃げようとするイレーナたち。が、そこにソロンの放った大量の盾が飛んでくる。
上空への逃走を阻まんと、四方八方から襲撃してトゲの餌食にしようとする。流石のアンネローゼたちでも、全ての攻撃は避けきれない。
「あいたっ! ダメね、盾を避けるのは諦めるしかない……どう考えたって、トゲを避ける方が最優先だもの!」
「アタイでも分かるっすよ、こんなの食らったら毒でドロドロのグチャグチャにされるって!」
「フフフ、その通り。私の魔力を混ぜ込み、パワーアップさせた毒の威力はこれまで以上。浄化する間もなく、全てを腐食させるのです!」
「たった十秒や。食らったら十秒で死ぬんやで!」
ソロンとアルガはそう叫びつつ、狙いを定めて走り出す。狙うはただ一人、最重要攻撃対象……フィルだ。
「シュヴァルカイザーよ、その命……貰った!」
「そうはいきません。僕にはまだ、やらなければならないことがたくさんあるんです。あなたたちを倒して、僕は前へ進む! その邪魔は……させない!」
トゲと盾を避けつつ、フィルはソロンからの攻撃を剣で防ぎ弾き返す。残る全ての力を振り絞り、最後の反撃に出る。
「前へ進む、ですか。それは何のためです? 答えなさい、シュヴァルカイザー!」
「そんなのは決まってる! 大切な仲間たちを、この大地を! 守るために戦うんだ! 奥義……シュヴァルブレイカー!」
「なるほど……その想いが、決意が本物なのか。見極めて差し上げましょう! アルガ、いきますよ!」
「はいな! いくで、奥義……」
「モータルハート・ドリラー!」
短いやり取りの後、アルガは甲羅を変形させてドリルへと変える。フィルと魔神兄弟が飛び上がり、空中ぶつかり合う。
その様子を、攻撃を避けつつ地上から見守るアンネローゼたち。次々と襲ってくるトゲと盾を防ぎながら、大声でエールを送る。
「フィルくん、負けないで! 大丈夫、あなたは強いわ! 絶対に勝てる!」
「そうっす! シショーは間違ったことなんてなんにもしてないっす! あんな奴らの言うような悪人なんかじゃないって、見せ付けてやるっすー!」
「ありがとう、二人とも。僕は負けない……インフィニティ・マキーナ、フルパワー!」
「ぐ、バカな!? これだけの力、どこから……」
スーツの限界を超えた出力を発揮し、フィルはつばぜり合いを制した。ドリルを払い除け、ソロンに向かって突進する。
「うりゃあああああ!!」
「兄はん、まずいで! 逃げ……」
「これで、終わりだぁぁぁぁ! シュヴァルブレイカー!」
「ぐ、がはあっ!」
「うごおっ!」
奥義が直炸裂し、ソロンとアルガを纏めて切り裂いた。二人は力を失い、地に落ちる。地中から現れていたトゲも、宙を舞う盾も消えた。
「みご、と……。これが、シュヴァルカイザーの……力、ですか……」
墜落したソロンは、小さな声で呟く。最後の刺客たちを、フィルは見事打ち倒したのだった。




