109話─アルバラーズ家、内憂外患
「魔神たちが来たぞー!」
「迎撃準備! 迎え撃てー!」
里の外での戦闘が始まったのと同時に、里の中でも戦いが始まっていた。結界を破壊し、侵入してきたリオたちを打ち負かさんと攻撃が開始される。
天上より降臨した七人の魔神たちは、落下しながら反撃を行う。次々と浮上してくる里の者たちを、恐るべき力で蹂躙し返り討ちにしていく。
「死ねーっ!」
「同胞を殺したクズどもめ、ここで我ら三人が仕留めてやるぞ!」
「お前の首を斬り落としてやる!」
「あはは、面白いこと言うね。……クズはお前たちだ、あの惨劇を引き起こした奴らが喚くんじゃない! シールドリッパー!」
剣で武装した三人の男女が、口々に好き勝手言いながらリオに向かって突撃する。笑みを浮かべていたリオは表情を一転、怒りの形相となった。
右腕に装備していた円形の盾を左手で引き抜き、勢いよく振るう。盾のフチで三人纏めて胴体を両断し、返り討ちにしてみせた。
「ぐえっ……」
「嘘、だ……」
「こんな、一撃で……」
「あの日、お前たちの血族がもたらした惨禍で多くの子どもたちが今も苦しんでいるんだ。その罪、死をもって償え! シールドブーメラン!」
ダメ押しとばかりに盾を投げ付け、撃墜するリオ。その近くでは、他の魔神たちもそれぞれの敵を蹂躙していた。
「クソッ、離せってんだよこの鳥野郎! 下等生物の分際で俺に触れ……うぎゃあああ!!」
「全く、しつけのなっていない獣だ。力の差も理解出来ていないとはね……哀れなものだよ、君たちは」
頑強な鋼鉄の鎧兜で全身を固めた青年は、何気なく振るわれたダンスレイルの斧で兜ごと頭をカチ割られ即死する。
その近くでは、レケレスがラリアットを叩き込んで敵を二人仲良く始末している。アルバラーズ家の者たちが勝てる確率は、限りなくゼロに近いようだ。
「そーりゃっ! ほらほら、どんどんおいでよ。みーんな首をへし折って……」
「バカが、後ろががら空きなんだよ! 死ねぇっ!」
「はい残念でした~。拙者クイナちゃん、今お前の後ろにいるの❤」
「は……? ごはっ!?」
「ゴブリン忍法『無心貫手』の術! ほい、これでまた一人撃破っと」
「わ~、ありがとクイナちゃん! ケロン!」
敵を倒して油断しているレケレスに、背後から新たな若者が接近する。が、一太刀浴びせることも出来ずに、クイナの不意打ちで心臓を貫かれ死んだ。
……もっとも、クイナが助けに入らずとも、若者にはレケレスに返り討ちにされて死ぬ未来以外はなかったのだが。
「くっ、なんて奴らだ……直接戦ったらダメだ、殺されちまう!」
「里に戻るのよ! 地上の奴らと合流しあぐあっ!」
「逃がしませんわよ、身の程を弁えない者たちはここで全員くたばらせて差し上げますわ!」
「その意気だよ、エッちゃん! さあ、全員やっつけ……ん?」
逃げようとするアルバラーズ家の娘を斬殺したエリザベートに声をかけるリオ。その時、ふと里の外に気配を感じた。
自分たちの子である、ソロンとアルガ。そして、それらとは違う三つの気配を。即座にリオは気付く。それがフィルと仲間たちのものであると。
「何とか間に合った、ってところかな? ソロンたちが勝つか、シュヴァルカイザーが勝つか……観戦出来ないのが残念だなぁ」
そう呟き、リオは仲間を連れ地上へと降りていくのだった。
◇─────────────────────◇
一方、フィルたちはソロン&アルガコンビと激闘を繰り広げていた。戦局は一進一退の互角、危うい均衡が維持されている。
「今です、アルガ! あの羽根付きを仕留めるのです!」
「はいな、んじゃ行くでぇ! バンカーストライク!」
「あっぶな! このデブ、中々機敏に動くわね……鬱陶しいったらありゃしないわ!」
「わっはっはっ! ワイをただのおデブちゃんやと思ったら痛い目に合うで~? この重量で押し潰してまうからな~!」
ソロンがフィルをタックルで押し返した後、弟に声をかける。狙いを定め、アルガは腕に装備したパイルバンカーをアンネローゼへ発射した。
なんとか攻撃を回避したアンネローゼは反撃を試みるも、それより早く相手は後ろに下がってしまい機を失ってしまう。
「まずいっすよ、シショー。あの二人、チームワークが抜群っす」
「ええ……あのアルガという男は、遠距離攻撃をしてこないのでやりようによっては一方的にこちらから攻撃出来ますが……。もう一人の方がそれを巧みに妨害して、こちらへの反撃をしてきます。そこからの連携がとんでもなく厄介ですね」
「何をコソコソと話をしているのですか? だいぶ余裕ですね、シュヴァルカイザー! ダブルシールドブーメラン!」
イレーナと話をしているフィルに向けて、ソロンは追加で作り出した盾を合わせた二連撃を放つ。二つの盾が飛来する中、イレーナが前に出る。
「そんなもん、撃ち落としてやるっす! ビバインドショットキャノン!」
「! ほう……父上のものより強度が劣るとはいえ、私の飛刃の盾を粉々に砕くとは。ふむ、やはりここは全力を出すべきですね」
「おっ、もう切り札出すんか? ええで、ならワイも全力や!」
両腕を突き出し、弾丸を放つイレーナ。盾にぶつかった瞬間、弾丸が振動し衝撃波を放った。自らも砕ける代わりに、盾を粉砕してみせた。
それを見ていたソロンは、父親たちが里に到着したのを察したのもあり短期決戦で決着をつけることを決めた。アルガ共々オーブを呼び出し、自らの体内に取り込む。
「行きますよアルガ! ビーストソウル……」
「リリース!」
「……こんなに早く本気を出してくるとは。なら、僕たちも全力で行きますよ!」
「ええ、見せてあげましょ。私たちの強さを!」
オーブを取り込み、ソロンは美しい青色の毛並みを持つ巨大な猫に、アルガは堅牢な甲羅を持つリクガメに姿を変える。
冷気が周囲一帯に吹き荒れ、フィルたちはあまりの寒さに身震いする。三人が構える中、ソロンが真っ先に動く。
「三人纏めて氷像へ変えてあげましょう! フリージングブレス!」
「させないわ! 紅の薔薇よ、輝け! フラムシパル・ガーデン!」
大きく跳躍して飛び上がり、地上にいるフィルたち目掛けて凍てつくブレスを吐く。それを見たアンネローゼは、ローズガーディアンを構える。
紅き薔薇の魔力を解き放ち、炎の壁を作り出すことで冷気のブレスを相殺した。これで一安心……と、安堵したのも束の間。まだ攻撃は終わらない。
「ワイのことを忘れとったらアカンで! ポイズンプレッサー!」
「! 二人とも、危ない!」
「きゃっ!」
「うわあっ!」
ソロンが冷気の反動で後退するのと入れ替わりに、今度はアルガが襲ってきた。甲羅が毒々しい紫色に変わり、結晶のようなトゲが生える。
鈍重そうな見た目とは裏腹に、とんでもない跳躍で空中に舞い上がる。そのまま上下ひっくり返り、凶器と化した甲羅でプレス攻撃を仕掛けた。
フィルは咄嗟にアンネローゼとイレーナの肩を掴んで、勢いよく後ろへ投げ飛ばす。直後、アルガがフィルを押し潰してしまう。
「フィルくん!」
「シショー!」
「わっはっはっ! どないや、猛毒のトゲにブスー刺される痛みは! もう助からへんで、こうなったらしまいや」
「よくもフィルくんを……許さない! その土手っ腹をブチ抜いてやるわ!」
「アタイもやるっすよ、姐御! あいつをぶっ殺してシショーを助けるっす!」
「やれるものならやってみなさい。私の妨害を掻い潜る自信があるのならね!」
仲間を助けるため、身代わりになってしまったフィルを救うため……アンネローゼたちは、二体の獣へ果敢に挑みかかる。
死闘を制するのは、果たして……。




