106話─恐怖の大砲撃祭り!
「ズドンと一発! ぶっ潰せー!」
「合体ゴブリン忍法、『イカタコピコハン』の術!」
散々ジェディンに電撃を浴びせられ、怒り心頭なリリーとルルー。反撃に出るべしと、合体技を解禁し行使する。
ルルーのスカートからイカの触手が六本現れ、うち二本がリリーの腕に巻き付く。残り四本はルルーの身体を覆い、ハンマーとなった。
「そーれ、どっかーん!」
「っと! フン、威力だけならかなりのものだな」
真上から振り下ろされた肉々しいハンマーによる攻撃を、横に飛んで避けるジェディン。地面に攻撃が当たり、ぽきゅっという可愛らしい音が鳴り響く。
が、そんなメルヘンチックな音とは裏腹に破壊力は凄まじかった。イカハンマーが叩き付けられた大地には、小さなクレーターが出来ている。
「逃がさなーい! 横振りも食らえー!」
「!? あの体勢から連撃だと!? まずい、避けきれ……ぐうっ!」
反撃に移ろうとするジェディンだが、リリーはそこへ追撃を放つ。ルルーが僅かに触手ごと自身をバウンドさせた瞬間、無理矢理腕を横に振る。
ゴリ押しによる薙ぎ払いの直撃を食らい、ジェディンは吹っ飛ばされる。森の入り口にある巨木に叩き付けられ、一気にアーマーの背中が真っ黒に染まる。
「ぐ、う……。このアーマーがなかったら、今ので死んでいたな。ベルドールの魔神……神を名乗るだけあって、とんでもない膂力を持っているな」
「よーし、吹っ飛んだ吹っ飛んだ! ルルー、今のうちに!」
「オッケー、いつものアレやっちゃおう! せーの、ビーストソウル……」
「リリース!」
ジェディンが大ダメージを負ったのを確認した双子は、一気に畳みかけるべく獣の力を解き放つ。魔力で満たされた水色のオーブを呼び出し、天に掲げる。
二つのオーブをくっつけ、融合させた瞬間まばゆい光が放たれる。少しして光が消えると、そこには……巨大なタコとイカがいた。
「じゃんじゃじゃーん! スーパー海産物モード!」
「悪い子は消し炭にしちゃうよー! イカタコがったーい……」
「マリンキャノン・スクイードマシンガン!」
「なんだ……奴ら、何をしている……?」
巨大なタコとなったリリーは、六本の脚を伸ばし地面に突き刺す。彼女の上にルルーが乗り、八本の脚を真っ直ぐ伸ばしジェディンを狙う。
それぞれ余らせておいた二本の脚を絡み合わせ、ガッチリと連結し……リリーとルルーは、巨大なキャノン砲へと姿を変えた。
「それっ、はっしゃー! 狙いを外すなー!」
「れーんぞくこーげきー! ファイアー!」
「! まずい、飛び道具か!」
二人がかけ声をあげた、次の瞬間。砲身と化したルルーから、十数発の墨の砲弾が発射された。ジェディンは咄嗟に森の中へと逃げ込み、そのまま伏せる。
「うらららららららーーーー!!!!」
「むむ、森に逃げた! でも、そんなの関係ないもんねー!」
「チッ、無茶苦茶なことを。このままだと森が崩壊するな……仕方ない、なら!」
マシンガンの如く連続で放たれる墨の砲弾は、木々をへし折り森を破壊していく。伏せているおかげで攻撃が直撃することはないが、環境破壊はいただけない。
ジェディンは背中から生やした鎖を一本地面に突き刺し、そのまま地中を潜行させる。彼の魔力が尽きない限り、鎖はどこまでも伸びる。
(このまま地中から奇襲を仕掛け、奴らの攻撃を中断させてやる。とはいえ、まだエネルギーが蓄積しきっていないからな……どう反撃したものか)
鎖を伸ばしながら、ジェディンは考え込む。アーマーに蓄積されているエネルギーは、現在八十パーセントほど。
普通の敵であれば、この量でも葬り去るのには十分ではある。しかし、相手は普通の敵ではない。おまけに二人もいるのだ。
(もっとエネルギーを蓄積しなければ、片方を討ち漏らす可能性が高い。もし仕留めきれなかったら、確実に反撃でやられる。とはいえ、この砲撃を食らって無事で済むのか……?)
クリムゾン・アベンジャー最大の奥義、アブソリュートペイン・アベンジャーは絶大な威力を誇る。しかし、その代償も大きい。
攻撃を放った後は、冷却期間を数分ほど挟む必要がある。おまけに、冷却期間中はアーマーの耐久力が下がってしまうのだ。
そんな状態の時にリリーやルルーの攻撃を食らってしまえば、もうひとたまりもない。討ち漏らせば、反撃を食らい死ぬだろう。
「ねーねーリリー、あいつ出てこないよ?」
「よーし、だったら作戦変更! 射角変更、前方ナナメ四十五度……曲がれー!」
「あいあいー!」
一方、リリーとルルーはジェディンが姿を見せないことに痺れを切らしたようだ。ういーんと効果音を口にしながら、砲身を上げていく。
そして、緩やかな放物線を描く軌道で砲弾を発射した。真っ直ぐ飛ばして当たらないなら、上から押し潰してしまおうと考えたのだ。
「爆発しちゃえー!」
「美味しく焼けろー!」
「チッ、考える時間はないか! こうなれば……先生の腕を信じるしかないな!」
ジェディンは覚悟を決めて立ち上がり、双子目指して全力疾走する。砲弾を防ぎきれるかは未知数だが、防げることに賭けるしかない。
地中からの奇襲作戦を継続しつつ、自らも突撃して一気に仕留めることを決めたのだ。
「お、出てきた出てきた! それじゃあルルー、交代しよう!」
「オッケー! チェンジ、オクトパスデストロイヤー!」
「!? 土台と砲身が……ひっくり返っただと!?」
対するリリーとルルーは、ジェディンが飛び出してきたのを見て大ジャンプする。空中でひっくり返り、今度はルルーが土台に、リリーが砲身となった。
「スクイードマシンガンは連射力重視だったけどー」
「オクトパスデストロイヤーは威力重視! 一撃でぶっ殺しちゃうよー! てー!」
リリーは口の部分をうにょーんと伸ばし、魔力を溜め始める。一撃でジェディンを葬ることが可能な、超威力の攻撃を放とうとしている。
「……来るか。いいだろう、望むところだ。すでに仕込みはしている……打てる手は打った、後はどちらが勝つか競い合うのみ!」
「いっくよー! 発射ぁぁぁぁぁ!!」
「光になっちゃえぇぇぇぇぇ!! ……えあっ!?」
「今だ! サンダラル・チェーン!」
魔力チャージが完了し、双子がレーザービームを放つ。その瞬間、ジェディンはリリーたちの真下に到達させていた鎖を突き出した。
電撃を纏った鎖はルルーに突き刺さり、ガッシリした土台を僅かながら揺らがせる。だが、ジェディンにはそれだけで十分だった。
「僅かだが、射線が逸れた……完全に直撃さえしなければ! 耐えきれるはずだ! ぬおおおお!!」
「なんのー、負けなーい! 最大しゅつりょーく、はっしゃー!」
「悪い子たちをやっつけて、お父様たちに褒めてもらうんだー! えいやぁぁぁぁ!!」
意識外からの妨害で、多少方向はズレたものの双子はそのままゴリ押す。全魔力を放出し、極太のレーザーでジェディンを消し去ろうとする。
対するジェディンは、攻撃を受け止めつつ前へと進んでいく。僅かではあるが、レーザーの向きがズレているおかげで致命的な破損は免れた。
「エネルギーチャージ……九十……百……百二十……二百……! いける、これだけのエネルギーを蓄積すれば……奴らを纏めて葬れる!」
「ぜひー、ぜひー……ま、まだ死んでないのぉ!?」
「頑丈すぎー! あのアーマー、一体なんなのー!?」
「知りたいか? なら教えてやる。俺の尊敬する偉大な技術者、アレクサンダー・ギアーズ博士が生み出した機巧外骨格。インフィニティ・マキーナの底力をな!」
蓄積エネルギーの許容限界が迫る中、ジェディンはフェイスシールド越しにリリーたちへ笑みを向ける。決着の時は、近い。




