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103話─もののふたちの夜会

 雷が夜空を裂き、轟音が空気を震わせる。オボロとガティスが激突する一角は、荒れ狂う落雷により焦土と化していた。


 強烈な雷を浴びたジャングルの木々は炭となって崩れ落ち、原型を留めていない。そんな戦場のど真ん中で、二人は戦う。


「チョコマカ動き回りやがって! 威勢がいいのは口だけか!? その刀は飾りか!? 逃げの一手だけで勝てると思ってんのかコラァ!」


「ふむ、そうだな。ではそろそろ……こちらから仕掛けさせてもらおう。九頭流剣技、弐ノ型。天風廻天独楽!」


 振り下ろされる爪や、狙い澄まして放たれる雷の回避に専念するオボロ。そんな彼に、ガティスは挑発をかます。


 それを呼応し、オボロは攻撃が途切れた一瞬の隙を突いて反撃に出る。身体ごと妖刀を回転させ、必殺の斬撃を放つ。


「っと、中々鋭い太刀筋じゃねえの。だが、その程度のパワーで俺の身体に傷を付けられると思うな!」


「くっ……硬いな。強烈無比な外骨格……切り裂くのは骨が折れそうだ」


 だが、巨大なサソリへと姿を変えているガティスに傷を与えることが出来ない。脚の表面に僅かな跡が付くだけで終わってしまった。


「クックックッ、そりゃあそうだ。俺の身体にゃあ、偉大な英雄たる親父殿の血が流れてんだぜ。守りの硬さも受け継いでんだよ! 食らえ、スピンサンダーラッシュ!」


「チッ……今は回避に専念するしかないか!」


 難なくオボロの攻撃を無効化してみせたガティスは、得意気になりつつ反撃を行う。両の爪に電撃を纏わせ、鋭い突きと叩き付けのコンボを見舞った。


 キカイの身体を持つオボロにとって、電撃は少しでも食らえば致命傷となる最悪の属性。攻撃がかすることも、一切許されない。


 もし少しでも電撃を食らってしまえば、その瞬間コアがショートして機能停止することになるのだ。


(奴め、攻撃の威力もスピードもこれまで戦ってきた者たちとは段違いだ。おまけに、あの頑強さ……果たして、どう攻略したものやら)


 ガティスの猛攻を凌ぎながら、オボロは思考する。如何にして相手の猛攻を掻い潜り、守りを打ち破り勝利するかを。


(先ほど攻撃した脚……ほんの僅かだが、表面に傷が出来ている。あそこを重点的に攻めればあるいは……)


「まーた逃げ回りやがるか! なら、逃げられねえようにしてやる! 雷蛇顎の鎚!」


「む……?」


 攻撃がかすりもしないことに苛立ったガティスは、オボロの逃げ道を封じるため新たな攻撃を行う。尻尾を地面に叩き付けると、電撃のヒモが地を這う。


 オボロの目の前まで伸びてきたヒモは、彼を囲むように円を描く。嫌な予感を抱いたオボロは、円が完成する前にそこから飛び退いた。


「シャアアアア!!」


「危ないっ!」


「ほー、避けたか。避けねえ方が簡単に楽になれたのによぉ。もう逃がさねえぜ、奴を追えサンダーバイパー!」


 直後、円が完成すると同時に電撃で出来た巨大な蛇の頭が現れた。続いて長い胴が伸び、オボロへと襲いかかる。口の中には、牢獄のような籠があった。


「俺とサンダーバイパー、両方を相手にいつまで逃げられるか見せてもらおうじゃねえか!」


「逃げる……か。いや、それがしはもう逃げぬ。今から貴殿に教えてやろう。それがしの本気を! ……リミッター解除!」


 サンダーバイパーの攻撃を避けた後、オボロは叫ぶ。同時に、彼の身体の中でカチリと音が鳴った。身体能力を劇的に高めるため、リミッターを外したのだ。


「一度リミッターを外すと、各機構がオーバーヒートしてしまう。そうなれば、最低でも三日は冷却に費やさねばならん。故に、これまでは使うことを避けてきた」


「だが、そうも言ってられねぇってことだよなぁ? 魔神が相手だから本気出すってか? へへへ、粋なことしやがるぜ!」


「本気? 違うな、これは一種の暴走状態だ。以前は双子がいたが故に、師との戦いでは使わなかったが……今はそれがし一人、貴殿に勝つためならためらいはない!」


 マッハワンとの戦いでも、やろうと思えばリミッターを解除して立ち回ることも出来た。だが、あの場にはイゴールたちがいた。


 暴走状態では、彼らを巻き込んでしまう。それ故、オボロはリミッターを掛けたまま戦っていたのだ。しかし、今は気にかけねばならない仲間はいない。


 ──存分に、大暴れすることが出来る。かつてカンパニーの敵のことごとくを屠ってみせた、恐るべき九頭竜の力を振るって。


「いいぜ、来い! てめぇの本気を俺に見せてみろやぁぁ!! いけ、サンダーバイパー!」


「キシャアアア!!」


「では、ゆくぞ。九頭流剣技、壱ノ型……菊一文字斬り・滅!」


 雷の蛇が迫る中、オボロは一旦刀を鞘にしまう。そして、そのまま勢いよく走り出し──抜刀居合い斬りを放った。


「ハァァァァ!!」


「ギシュ……キュアアアァァ!!」


「! ほー、サンダーバイパーを一撃か。ククク、そうこなくっちゃ面白くねぇ!」


「次は貴殿だ! 九頭流剣技、参ノ型! 地ずり昇竜斬・滅!」


 リミッターを解除したことで、劇的に威力が向上した斬撃を受けた雷の蛇は一撃で消滅した。闘争心を刺激されたガティスは、爪を打ち鳴らし叫ぶ。


 この勢いのまま敵を仕留めんと、オボロはガティスに攻撃を行う。先ほどの攻撃はロクに効かなかったが、今度は……。


「ぬぅぅぅおぉぉぉ……はあっ!」


「!? ば、バカな! 俺の脚が……ぶった斬られただとっ!?」


 見事、ガティスの脚を斬り落としてみせた。それも、先ほど攻撃し無意味に終わった脚を。流石のガティスも、動揺を隠せない。


 だが、すぐに冷静さを取り戻して脚を再生させる。今度は自分の番だと、尾を振り上げ勢いよく地面に叩き付けた。


「お返しだ! ディボルテクスレイン!」


「ムダだ、今のそれがしにはどんな攻撃も当たりはしない! 見える……見えるぞ。全てが止まって見える!」


 天を覆う暗雲から、無数の稲妻が降り注ぐ。リミッター解除前なら、オボロを十分に仕留められる量と威力だった。


 だが、今のオボロにはどんな攻撃も無意味。全ての雷をかわし、オボロは地を蹴って飛翔する。己を蝕む熱を感じながら、必殺の一撃を撃つ。


「これで終わらせる! 九頭竜剣技、陸ノ型! 双龍飛翔閃!」


「上等だ、ならこっちも迎え撃つだけだ! 奥義、サンダライズエンドハンマー!」


 対するガティスも、尾を振り上げ雷を纏わせる。そして、オボロへ叩き付けた。刃と尾がぶつかり合い、火花が散る。


 それぞれの持てる力の全てを発揮したつばぜり合いを制したのは──オボロだった。雄叫びをあげながら尾を砕き、そのままガティスへ斜め十字の斬撃を放った。


「ぬうおおおおおおお!!!」


「……ケッ。押し負けちまったか。ま、これも時の運ってやつだ。仕方ねえ……ぐっ、ガハッ!」


 巨体を両断され、ガティスは崩れ落ちていく。その瞬間、脳裏にとある映像が流れ込んでくる。オボロが攻撃と同時に放った、フィルとの日常の記憶だ。


『オボロ、花に水をあげてくれてありがとうございます。ほら、この子たちも喜んでいますよ』


『そうか、それはよかった。このくらいの雑用なら、いくらでも手伝う。気兼ねなく声をかけていただきたい』


(ああ、なるほど。あいつ、こうやって俺を懐柔するつもりなんだな……)


 ぼんやりとそんなことを考えるガティス。その間にも、記憶が流れ込み続ける。カンパニーとの戦い、孤児院での慰問活動。


 それらの記憶を見れば見るほど、ガティスは否応なく理解させられる。フィルの本当の姿を。彼らが思っていたような邪悪ではないことを。


「ぐっ、かふっ。これ以上リミッターを解放すれば流石に身体が持たぬ……う、ぐうっ!」


「……へっ。てめぇも限界みてぇだな。楽しい戦いってぇのは、あっさり終わっちまうもんだなぁ、え?」


 全ての記憶を見終えた頃、着地したオボロも限界を迎えリミッターをかけ直す。元の姿に戻ったガティスは、四等分されたまま声をかける。


「驚いた……カンパニーにいた頃、話には聞いていたが……本当に不死身だとは」


「んなわけねぇだろ。てめぇが神殺しの力を持ってねえから、死なずに済んでるだけだ。首と心臓を同時にやられてんだ、もしお前が神を殺せる奴だったら俺はもう死んでるっつの」


 身体をくっつけて再生させながら、ガティスは悪態をつく。だが、その表情は言葉とは裏腹に晴れやかなものであった。


「見たぜ、てめぇの記憶。フィルって野郎は、まあ、その、あれだ。……悪い奴じゃねえんだな」


「ああ、そうとも。彼はまさしく漢の中の漢だ。幼くとも、立派な正義の心を持ったもののふだよ」


「どうやら、そうらしいな。……いいぜ、認めてやるよ。だが、これで終わったわけじゃねえ。他にもきょうだいが控えてんだ、そいつらにも教えてやれ。フィルのことをよ」


 激闘の末、確かに解り合えたオボロとガティス。そう言い残し、ガティスは去って行く。彼が去った方角を、オボロは夜が明けるまでずっと見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蠍の魔神と聞いてどうしても前作の蠍のクノイチとかぶってるかな〜と思ったが似ても似つかない物だな(ʘᗩʘ’) 蠍でも雷属性でパワータイプの脳筋なだけに小技ではなく大技寄りだったのが反省点だな…
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