99話─唸る嵐の歌姫! アンチェイン・ボルレアス!
「お前がパワーアップしたってんなら、こっちだって対抗してやるさ! ……ビーストソウル・リリース!」
「! 来る……イレーナ、気を付けてください!」
手痛いミスを犯し、敵をパワーアップさせてしまったルテリ。この汚名をそそぐには、キッチリと二人纏めて始末するしかない。
そう決心した彼女は、父母より受け継いだ魔神の力を解き放つ。濃縮された魔力を宿す緑色のオーブを呼び出し、己の中に取り込む。
「さあ、ここからが本番だよ! 薄汚いウォーカーの一族も。その協力者も! 纏めてなで斬りにしてあげるから!」
「やれるもんならやってみろっす。シショーの運命を縛り付けるモノは、全部アタイがぶった斬って撃ち抜いてやる! 歌え、絶唱剣グルンディガス!」
ルテリはオーブの力を使い、巨大なオウムへと姿を変える。両の翼は、鋭い刃を備えた斧となり……冷たい殺気を放っている。
対するイレーナも、フィルを守るために新たなる力を解き放つ。銃身に取り付けられた刃が振動し始め、まるで歌うかのように唸り出す。
「フン、人からパクった力でどれだけ抗えるのか見せてみなよ! ヴォーパルウッドラッシュ!」
「イレーナ、気を付けて! 地面から……攻撃が来ますよ!」
「大丈夫っすよ、シショー。アタイの背に乗ってください、もうあいつが指一本触れないように守りまっす!」
ルテリの身体から尾羽根が伸び、大地に突き刺さった。直後、地面のあちこちが不気味に波打ち始める。ボロボロになったフィルをイレーナが背に乗せた、その直後。
「死んじゃえーーーっ!!!」
「そこっすね、てやあっ!」
イレーナの背後、土を突き破り鋭い木の杭が飛び出してきた。狙うのは、彼女が担いでいるフィルだ。振り向き様に刃を一閃、イレーナは杭を斬る。
「ふんだ、一本斬ったからって調子に乗らないでよね! まだまだ、残弾はたぁぁっぷりあるんだからさぁ!」
「あっそ。じゃー全部……使いもんにならなくすりゃーいいだけのことっすね! でたらめバースト・アンサンブル!」
次々と地面から現れる杭を両断していたイレーナは、足に力を込めて跳躍する。地面に向かって弾丸を放ち、地中へと潜行させる。
直後、弾丸が土の中で分裂して一斉に動き回る。地中に潜む杭を破壊し、機能不全へと追い込む。魔力の流れを視ていたルテリは、目を細め舌打ちする。
「チッ、思ったよりやるじゃんあいつ。まずいなぁ、あんまり長引かせると援軍が来そうだし……仕方ない、直接手を下して終わらせるか!」
「イレーナ、奴が来ます! 二人で力を合わせて、迎撃しますよ! 武装展開、漆黒の刃! 氷の大盾!」
「はいっす! 二人一緒なら百人……千人……いや、一万人力っすよ!」
「吠えるな、雑魚どもめ! 自慢の翼で斬り刻んでやる!」
尾羽根を引き抜き、元の長さに戻したルテリは地上に向かって急降下していく。フィルは改めて武器を呼び出し、天より急襲する敵を睨む。
「死ねえっ! アックスウィング!」
「させないっすよ! ドリルバレット・ショット!」
「食らえっ! マナリボルブ:アイス!」
真っ直ぐ飛翔してくるルテリに向かって、イレーナとフィルは弾丸を放ち迎撃する。だが、鋼をも上回る強度と柔軟性を持つ羽毛に阻まれ、攻撃が通らない。
「硬い……! あの羽毛、ちょっとやそっとじゃ貫けませんね」
「シショー、動くっすよ! しっかり掴まっててくださいっす!」
「はい!」
「逃がすもんか! 出でよ、呼び笛の斧! 奥義、ゼヴァータイフーン!」
イレーナはブースターを吹かし、一気に距離を離してルテリの攻撃から逃れる。地面スレスレで軌道を変え、ルテリは急上昇していく。
今度は大量の斧を召喚し、けたたましい雄叫びをあげる。すると、二十を超える斧がひとりでに動き出して攻撃を始めた。
「バラバラになれぇぇぇ!!」
「まずいですね、これだけの数……捌き切れるか分かりませんよ」
「大丈夫っす、シショー。ここはアタイに任せてくださいっす。……さあ、歌う時が来たっすよグルンディガス! 奥義、ギガソニック・シンセサイズ!」
四方八方から飛来し、逃げ場を封じてくる斧の豪雨に晒される二人。そんな中、イレーナはゆっくりと両腕を振り上げる。
そして、振動する刃同士を勢いよくぶつけ合う。すると、凄まじい衝撃波が放たれた。衝撃波は飛来する斧を破壊し、塵へと変えていく。
「んなっ!? 嘘でしょ、お母さん直伝の技が……」
「まだまだっすよ! 今度は……お前に直撃させてやる! ギガソニック・アクセライズ!」
驚愕するルテリに右腕を、地面に左腕を向けるイレーナ。左腕に装着した銃身から圧縮した空気を放ち、その反動でイレーナは猛スピードで空を舞う。
そして、距離を詰めた状態で右腕に装備した刃から衝撃波を放った。ルテリは無理矢理横にスライドして避けようとするも、完全には避けられなかった。
「あぐあっ! よくも私の翼を!」
「ふんっ、スキホーダイ斬り刻んでくれたお礼っすよ! 奴の機動力は削いだっす、シショー!」
「ええ! ありがとう、イレーナ。今なら……あいつを倒せる!」
「ヤバ、もう一人いるの忘れ」
「食らえ! 奥義……シュヴァルブレイカー!」
「アタイも続くっすよ! 奥義……絶唱姫ボレアスの旋風!」
片翼を失い、俊敏さを失ったルテリを仕留めるべくフィルが仕掛ける。氷の盾を冷気に変え、剣へ纏わせることで威力を上げた奥義を放つ。
そこにイレーナも続き、膨大な魔力を込めた弾丸を少し遅れて発射した。フィルがルテリを切り裂き、離脱した直後。暴風の力を秘めた弾丸が炸裂する。
「ぐっ……あがあああっ!! 嘘、まさか……私が、ベルドールの魔神が……ウォーカーの一族なんかに、負けるなんて……」
フィルの攻撃によって生じた傷口に弾が触れた瞬間、内に閉じ込められた衝撃波が解放される。己を縛る者全てを滅する、荒れ狂う北風の如き一撃。
それが、ルテリの身体を内側から破壊していく。強固な羽毛があろうと、体内へ直接攻撃されては全くの無意味。大量の血を撒き散らし、魔神は地に墜ちる。
「へっ、ウォーカーウォーカーうるせってんですよ。シショーはあんなクズどもと同じ存在じゃない。シショーは……みんなの道を照らす、太陽なんすからね!」
ルテリが地面に叩き付けられるのを見届けた後、イレーナはそう口にする。彼女も地に降り立ち、一足先に着陸していたフィルと合流した。
「イレーナ、ありがとう。あなたがいてくれたから、僕はルテリに勝つことが出来ましたよ」
「いえいえ、こっちこそ! シショーのネバーギブアップの精神を間近で見たからこそ、アタイもこうして」
「うう……ううう……あんまりだぁ……あんまりだよぅ……」
フィルたちが互いの健闘を讃え合っていた、その時だった。元の姿に戻ったルテリが身体を起こし、ぽろぽろ大粒の涙を流しはじめたのだ。
恐るべきことに、普通なら死んでいる致命傷を食らったにも関わらず、すでに半分ほど傷が治ってきていた。
「こいつ、まだやる気っすか!?」
「いえ、待ってください。何か様子がおかしいですよ」
「あんなに大見得切ったのにぃ~!! 真正面から負けたぁ~!! びぇぇぇぇ~ん!!!」
すわ第三ラウンド開始か、と身構えるイレーナ。だが、ルテリは泣きじゃくるばかりで一向に攻撃してくる気配がない。
「うぁぁぁぁぁん!! ち゛く゛し゛ょ゛ー゛、覚えてろー! お前たちなんて、ぐずっ、お兄ちゃんがぶっ殺しちゃうんだからぁぁぁぁぁ!!」
「あ、逃げた! シショー、追いかけ……あら?」
「イレーナ! 無理はいけません、今は帰りましょう。僕もあなたも、ボロボロですから」
盛大に負け惜しみしつつ、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしてルテリは敗走していった。追いかけようとするイレーナだが、身体から力が抜けてしまう。
無理に深追いするのは禁物と、フィルに諭されて頷く。パワーアップしたとはいえ、下敷きとなるデスペラード・スーツはボロボロ。
仮に追いついても、ロクに戦えないだろう。もう脅威は去ったと判断し、二人は基地へ戻っていく。ギリギリの死闘の末に、新たな力を会得し……イレーナは新たな目覚めを迎えたのだった。




