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第12話「学校祭」6

————☆


 そして次の日の放課後、豊高祭まで残り二週間。


 最近、皆の視線が俺に向いている気がする。

 ——いや、確実に向いている。


 くそっ、あの犯罪者。俺に気があるのか——まあそれはあるか……なんて自意識過剰ちゃん的なことは言いたくもないけれど、今回に関して言えば事実だから仕方がない。


 でも——しかし、前にちょっと話をしたからって少し調子に乗り過ぎな気がするぞ、まったく。本気で呆れるし、それすら通り越してまじで怖い。


 いくら昔に彼女を守ろうとして身体を張ったと言っても俺はそう言うガラじゃない。いや、むしろそんな人間ですらない。仲が良かった彼女が、たまたまそこに居ただけであって、何か理由があるわけじゃない。


 そう、そういうことだ。くれぐれも勘違いだけはしないでほしいのだがな……。


「せーいやっ?」


 しかし、こやつにそんな戯言たわごとが通じるわけもない。


「なんだよ?」


「——って、何よその不貞腐れた顔は……」


「別に……? 普通だけど?」


「私からは死んだ魚の目——いや、死んで四日目で腐った魚の表情に見えるんだけど?」


 その例えは一体なんなんだ? てか、こいつ本当に俺のこと好きなのか? と思ってしまうのだが、それはそれ彼女なりの表現なのだろうと心の器が広き前沢誠也はうんうんと(心中で)頷いて見せた。


「——ずいぶん秀逸な例えだな」


「別に普通だよ?」


「じゃあ言うけどな、お前は腐った魚を見て興奮するハイエナみたいだぞ?」


「しね、くそったれ」


「誰が死ぬか、この犯罪者」


 彼女のストレートな言葉に少々小声で放った言葉だったが、それを言い放った瞬間。周りの会話が途絶える。


「はぁ……そうやって、もう。みんな見てるんだからしっかりしてよねっ」


「おい、なんだよ」


「別に何でもないけど、そう言うのはやめてね?」


「だれがっ——だいたいお前とは付き合ってない」


「あら、それはどうでしょうね……?」


「そうやって強制的に何でもしようとするのは良くないと思うけど?」


 俺が正論交じりにそう述べると、彼女はやや呆れ顔で。


「——でもね、付き合うの定義は両者の承諾じゃないと思うのよね?」


 しかし、その台詞の途中で彼女は真顔に変わった。


「周りが付き合っていることに仕立て上げればそうなると思わない?」


「思わないな、傲慢すぎるぞ」


「そうかしら、結局そんなのは観測者次第だと思うけどね? だって結婚と違って契約書とかはないでしょう?」


 隣の席に座った彼女、教室に飾る用のアートな創作物を作っている俺なのだがこうも傲慢に言われるとハサミを持つ手を止めたくなってしまう。


「あらそうかしらぁ~~わたちとしてわぁ~~そぉんなわけないと思うけどね~~??」


 イラつき気味に真似をすると——


「いやきっしょい」


「おい、てめえの真似だぞ」


「似てないし、てかきもいし」


「きもくない」


 すると、途端に口に手を抑えて大きな声で言い放った。


「え、うっそ! 私の事なんてきもくないよって意味!? もぅ、だぁ~リンったら優しいんだから、もぉーうっ!」


「お、まっ——!」


 しかし、俺が訂正しようとした頃には——時すでにお精子……おっとスベッた何でもない。


「うそっ! なにそれかっこいい‼」

「ええ~~まじでイケメンじゃん!」

「さきっちそれはまじでさいこうじゃ~~ん!」


 黄色い声援——いや、その行く先は確実に俺ではないのだがしかし、それでも俺としては凄く恥ずかしい思いだった。


 別にそんなこと言っていないし、てか付き合ってないし。でも、ここにいる女子は彼女が良くつるんでいる女子であるが故に、彼女の洗脳を食らってそう思っているのだろう。はぁ、全く頭が痛い。


「俺はそんなこと言って——」


「言ったよね?」


「だから言ってn——ん、がぁっ!?」


 痛い頭を抑えながら言おうとすれば、今度は足が痛くなった。

 彼女の重い身体を右脚のつま先に乗っけられて俺の指は壊死していきそうだ。そして、もの凄く痛い。


「——なに、その顔は? 何か言いたげだけど?」


「ああ、っ——! おま、え、西島の体が重すぎって、親指が壊死しそうだってね——」


 そう言ったはずだった。

 

 だが、目が覚めるといつの間にか保健室にいて、俺の足元には大量の包帯がぐるぐるにぐちゃぐちゃに絡まっていた。



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