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第12話「学校祭」5


 十分後。


 黒板に書き出された案はすでに10個を超えていた。この数字が多いのか少ないのか、それは定かではないがとりあえず——ここまでに出された案は、お化け屋敷、お祭りの縁日、ジェットコースター(?)、ストラックアウト、ボーリング場、フェイスアート、フランクフルト、焼きそば、タピオカ……他にも抽象的な案や、想天外な案も数多くでていたが、中でも(一部で)反響を呼んでいたのは——メイド喫茶と執事喫茶の二つだった。


「——というわけで、多くの案がでましたが……ほかにありますか?」


 そんな言葉に案をすべて出し尽くしたようで、クラスの皆は静かになっていく。

 

 シーン……と、まるで深夜のように静まった教室で彼が少し悩むと——


「じゃあ……うーん、どうしようかな?」


 てんてんてん、静寂が包み込む。

 先ほどまでのワイワイお祭り気分はどこに行ったのやら?




「多数決でいいんじゃない?」



 すると、その後ろでチョークを持って立っていた西島さんが当たり前の顔でそう言った。そしてすぐに彼は応える。


「でもなんかそれじゃ……少数意見の村長ができないかなって」


 さすがは委員長、見ている場所が一人だけ違う。


 しかし、彼女の表情は変わらず、いたって冷静にパスを返す。


「そう言うの面倒くさいよ、早めに決めないとさ、ほら、部活もあると思うし」


 チラッと、こちらを見ながら言った彼女。

 だが、すぐに向き直って。


「——それに、そうじゃないと決められないし……民主主義でしょ? 民主主義? ほら、お得意の……?」


 違うの? と煽る姿を見て、わらわらと微笑が広がるこの教室。

 彼女が言ったのを起点に、すぐに多数決が始まった。


「————それで、結果は『メイド喫茶』となりました」


「メイド、きっさ——っと」


 斎藤がそう言って、西島さんが赤い丸で文字を囲む——とその途中。


 周りの女子がゴヤゴヤと愚痴を漏らし始める。しかし、このクラスもなかなか面白い所があるなあと率直に思ってしまった。


 まあ、男子は全会一致でクラスの女子のメイド姿を拝めるのだからおかしくはないのだが、男子と女子の数が五分五分なこのクラスで過半数をとるというのはなかなか難しい。


 つまり、このクラスの女子には来たい人もいるということだ。


「よしっ!」


 対して、ガッツポーズをする男子。


 無論だ。


 四葉のメイド服が拝める、その嬉しさに喜ばずにはいられない僕も、サッカーのゴールパフォーマンス程度には大きなガッツポーズをしているのだが……そんな結果を望まない者も世にいるらしい。


「では、今回の学校祭はこれでk——?」


 クラス委員長の斎藤はこちらを向き直りそう言うと、女子が一人、手を挙げた。


「あ、じゃあどうぞ」


「あの、私その、メイド喫茶とかやるの嫌なんですけど……?」


 まあ、彼女が述べたのは当たり前のことだった。


 このご時世にメイド喫茶という物がまず難しい、そしてさらに言えばこんなものはラノベやアニメだけの話だ。それを現実に持ってこられて腹が立つ女子もいる事だろう。



 しかし、僕はいたって変わらず賛成派である。



 すると、そんな僕の心境を代弁するように男子が言った。


「あの」


「はい、どうぞ」


「でも、それだとおかしくないすかね? 別に全員が着るわけでもないだろうし……そもそもこの案を出したの女子だし、やりたい人だけ着て、やりたくない人はやらないって方針じゃだめですか?」


 クラス中に反響する台詞。

 そしてその言葉に乗っかる男子。


 そうだ―そうだ―と、合いの手の様に乗っかっていく声が教室のそこら中で響いていた。


「ええ~~男子きもちわるーい」

「そんなのしたくないって~~!」

「つまらな~~い」


 それに応じて、反論もぶつかっていく。


 しかし、多数決は多数決だった。この場で決められないというのはそもそも多数決をする必要がなくなってしまうため、なかなかそんなことはできないと悩む斎藤。


「私は面白いと思うけどな~~」


 そんなクラスのノリに反して、黒板で書記をする西島さんは言った。


「「え~~」」


 さらに応じる女子。


「でも多数決じゃん? 仕方ないよ」


「——さきっちは嫌じゃないの?」


 すると不意に、いつも彼女と一緒にいる元木さんが割り切るように問う。


「う~~ん、嫌じゃないよ? だって楽しそうだし」


 それでも彼女の意思は変わらない。

 たまにはいいところを見せる、グッジョブ!


「ええ……」

「いやだなぁ……」


 それでも彼女たちの猛攻は止まらない。


「めんどくせえ……」

「なんでだよ……」


 負け惜しみの戯言に呆れる男子たち。


 奇跡的に廊下側に多くなった女子、そしてその反対側に座る男子。僕が座るちょうどその境界線の位置では今すぐ戦争——いや、冷戦が始まってしまってもおかしくないほどにバチバチと激しい稲妻が走っていた。


「——らちが明かねえな」


「——だな」


 振り返ってそう言った前沢に同意する僕、しかし打開する案は僕には思いつくはずもなかった。


「う~~ん、じゃあさ」


 しかし、ある一人の生徒が始まりそうな冷戦の火種を覆うように横槍を入れた。


「あ、はい、飛騨見くん」


「俺もこの結果はそのままにするべきだと思うんだけどさ、そこまで嫌ならせっかく執事喫茶も案にあることだし、これと合体してみるのとかはダメなのかな?」


「ああ……」

「アリだな……」

「いいわね……」


 飛騨見雄二ひだみゆうじ、さすがはイケメン。格の違いを見せつける。

 それまでに反論を言うだけだった女子たちも、憧れのイケメンが言うのならと手をどんどんと引いていく。


 そんな様子を見て彼は——


「——って感じだけど、どうかな、委員長?」


 バトンが斎藤に渡される。

 みんなの視線が彼に集まる。


 そして、彼はこう告げた。


「じゃあ……メイド執事喫茶で決定と言うことで……」


 渋々述べた彼だったが、その瞬間。


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