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第11話 「我が純愛の妹を前に」 6

 ——目が覚めるといつも通りの朝だった。


 ——いや、それもそうか。ここは僕の家なのだから、そんなことは普通だと思う。


「ゆずと」


 すると、空に響き神様すら魅了する、可愛さ満点な天使の声がした。


 聞き慣れたはずなのに、しかし飽きることもない天然の癒しボイス。


 きっとASMRがあったとして、聞いてしまったならば、その瞬間から今すぐにでも昇天したいと思ってしまうレベルの天性の声が瞼の奥から聞こえた。


「?」


 仰ぎ見る天井を遮ったのは彼女、四葉いもうとだった。


 あれから三日。結局、件の後始末は福原部長や由愛、そして前沢誠也に頼むこととなりなんとか終息してくれたが——もちろん、上手くいくわけもない。


「あ、ラインだ」


「あ、四葉はいいですよ、早く見てください」


「おう」


 おもむろにスマホを取り出してトーク画面を開くとそこにあったのは崎島花梨、枢木ゆり、そして木村・ラナンキュラス・雪からのラブコールだった。


『やーやー、二股君。おはよっ‼‼ 今日も浮気相手との朝はどうかな? 楽しんでる? まあ、どうせ楽しんでるだろうけど今日も一日頑張ってね!』


 誤解だ。


『おい、私の椎奈を泣かせたって聞いたけど、落とし前着けるんだよね? あと、後輩に意地悪する奴嫌いだから』


 誤解だ——とは言えないけど、彼女は笑顔で送り出してくれたんだ。

 あと、ここだけは言える。

 

 僕もあんたの後輩だ。


『くそったれ、椎奈を……まぁいい、とにかく〇ね』


 この先輩に対しては言うことはない。

 毎回きついんだよなぁ、木村先輩の性格……。


「あ、はは……なんかゆずと悪者扱いですね……」


 これも想定済みだが実際言われると心に来るものがある。否定できないが故に心の傷も増えていくのはとても難点だ。


「まあ、な」


「——でも、実際に悪者ですしっ」


 ニヤッと笑みを見せたところで四葉は小さく飛び跳ねた。


「四葉のこと裏切ったんですし~~約束の事、思い出したってことは——忘れたってことですし~~」


「っぐ……、ぐうの音も出んな」


「いや、出てますよ」


 ここぞと言わんばかりにツッコんだ彼女の言うことも事実、その発言に僕が否定などはできなかった。


 むしろ、こんな風に笑顔の四葉が見れること自体すごいことだろう。こんなにもひどいことをしているのことを許してくれるなんて……その寛大さに泣きそうになる。


 //慈悲深き正義の味方// ですらもこうなならないと思う。


「そうだな……そりゃそうか」


「なにがです?」


「いや、こっちの話」


「そう、です……かっ」


 そこで彼女は立ちあがった。


 眠りに更けていた僕の隣、その場所で手を合わせて微笑む。

 そんな彼女を見て、かわいさが爆発しているようだと思える僕はただの変態なのか、それともこれは恋心からなのか……。どちらにせよ、可愛いけれど。

 

 ——いや、答えもちろん知っている。

 だけど、今回の件で決めるのは時期尚早。どうせ、家族なんだ。


「じゃあ、ご飯出来てるんで食べに行きましょうかっ!」


 義妹いもうとになった可愛い君をいつでも見れるんだ。


「おうっ!」


 きっと、いつか。

 気持ちにこたえられる時が来るんだ。


「今日は四葉が作ったから、しっかり食べてくださいねっ」


 その時まで、僕はゆっくりと待つとしよう。


「お、まじか!」


 そのいつかを夢見て、僕はまた進む。

 あの頃、離れて失われた日々を塗り替えるために頑張ろう。


「まじですっ!」


 そして、えっへんと小さな胸を張る姿にクスッと笑ってしまった。


「なんですか……?」


「いや、なんでも……」


「うぅ……絶対なにかある……」


 俯く四葉を見ると、うるうると煌く瞳がこちらを覗いていた。さすがの僕もいて持った手もいられずに——耳元で囁いた。


「でも……可愛いよ……」


「っ///」


 頬を林檎色に染め上げた四葉の手を引っ張って、寝ぐせも気にせずに僕は部屋を出るのだった。


 だが、しかし。


 この時は知らなかった。


 この決断は関係なくとも、いずれこうなる運命だったことを知る由もない。


 いつか、これを乗り越える日を僕はまた夢見ている。


 母を失った。


 父を失ってしまった。


 この最悪の過去を乗り越える、その日に向かって——。


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