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第五話 「部活というただの建前の集いに彼は赴く」1

「ごめんなさい……」

「なに?」

「ごめんなさい……」

「はい?」

「……っ! この度は! 誠に、申し訳ございませんでしたァっ‼‼」

「っち……」


 今まさに教室で土下座する男、前沢誠也。


 彼が無様な格好を見せる羽目になった理由は十数時間前のこと。僕の家(四葉の部屋)にて、謎の勝負が始まったのが原因である。


 勝負内容と言えば、世にもおかしな奇妙な話で出てきそうな頭のおかしい内容。それは、『どちらが柚人にふさわしいか』であった。逆に嬉しいだろ、と言われてしまいがちなこの内容。


 そう考えた者は恐らく、いや恐らくじゃなくても頭がイカレている。こんな討論を目の前でやられてしまえば頭に残るのは一定量の恥と大量の恐怖である。これが、四葉ならまだ嬉しかっただけかもしれないが、この変態的社交性の持ち主、前沢誠也からの称賛こうげきは心にもたらす破壊ダメージが凄まじかった。


 普通に考えれば四葉が勝つこと同然のこの討論も、引き分けの結果で終わるという非常に怖い結末とトラウマを残してしまったのである。まったく、一体数日で僕の何が分かったのだろうか。そんな疑問に引けを劣らず彼の戦闘力は高く、四葉も倒すのに苦労しているように見えた。




 内容なんて言いたくないから割愛しようと思う。

 もう思い出させるな、ばか野郎。


 ——んで、今。


 彼は堂々と教室の後ろで土下座を試みているのだ。

 隣に座る四葉自身、この姿を見て顔を赤くしている。おそらく自分がした子に若干の責任を感じているのだろう。もしかしたら、これを自分もやる羽目に? なんて考えている気がしなくもないが、生憎僕は悪魔ではない。

 

「はあ、まったく」

「すまん」

「ああ、いいよ、分かったよ。まあお前が凄いへんたいって言うのは分かったからさ、四葉と仲良くやってくれ」

「おお……」


 と、僕が何気なく呟いた瞬間で急に教室がざわつき始める。

 


 数秒後、前沢と四葉のカップル誕生という大きな誤解を生んだことはまた別の話。




 注:誤解を解くのに実に数日かかりました。



=========


「ゆずと、最低」

「……面目ない」


 すんなりと謝ってしまう僕自身。

 

 これは平和が好きな僕の癖ではあるが、こんな癖がもたらすのはすごく悪いエンドだと知っている。そこで、もう一度考えてみる。隣で腕を組みながら偉そうにしている彼女を横目に、その見下す瞳を見ていると何かに気づいてしまった。


 ——いや、マテヨ。なんでだ、大体僕が被害を被ったあのへんな討論大会が始まりではなかったか。


「——って、僕が悪いのか!」

「ひゃにゅっ⁉」


 階段を降りる最中、僕の左手チョップによって、右脚が前に出たと同時に右肩も震わした四葉は子猫のようだった。危うく転げ落ちそうなところを僕が右手で何とか抑えると、彼女の頬が赤くなった気がする。


「はぁ、大丈夫か?」

「……う、うん」


 コクっと頷く四葉、その姿はまるで小動物だった。パンダが笹を食べるような感覚で、リスがくるみを齧る様子。その反面的な動きにどこか不思議に好感が持ててしまうのは彼女が彼女足る故なのだろう。

 僕に向けるその敬語もギャップなのかな?


「まあ、で、なんだっけ?」


 僕の必殺技、瞬間忘れは彼女には格好の転機である。黙秘権を行使とは、こやつも大胆な昔よりも大人という意味で——成長したものだ。


「黙秘権か……まあ、悪いのは大体僕じゃないよな、四葉と前沢が僕をあんな風に扱わなければこうはなっていない」

「うう!」

「うう! っじゃねえよ、こちとらいろいろと」

「——いや?」

「いやいやいや、そういうわけじゃない! なんというか、う~~ん……逆にって言うのか? そのな、うれし


 その瞬間、聞き慣れたゾわりとする声が耳に入る。


 男顔負けのハスキーな声色に、綺麗で整った顔、いかにもなボディラインをうちの高校の制服が包み隠した巨乳の先輩であり文芸部部長、福原詩音が怒涛の勢いで迫っていた。


「よぉぉぉぉぉぉぉぉおおつぅぅぅううううぅうぅぅうばああああああああああ!!!!」


「ひ、ひ、ひゃあああ‼‼」

「う、う、うわあああああ‼‼」


 不意に始まった、再リアル鬼ごっこ。

 始まりは不意なのに、終わりはなかなか訪れない。



 恋愛も、友情も、その関係何もかもとは反対な事象がここには存在していた。

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