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番外編 「友情DAYS」4

 あれは、確か小学三年生の頃。

 学校が終わり帰路に着いた俺に四葉が駆け寄ってきた時から始まった。


「あ、あのっ誠也くん!」


「——っ! っな、なに?」


 後ろからポスっと平手でたたかれて驚いた俺は動揺交じりにその理由を聞いてみた。


「えっと、その! あ……咲ちゃ、んが!」


「咲……なんだっ、咲がどうしたんだ!」


「こっち来てっ」


 何があったのかは分からなかったが、彼女の動揺を見てみれば何か悪いことが起こったということだけは理解できる。焦った四葉に手を引かれて俺はとにかく走った。


 別にあの頃は今のように忌々しいとは思ってはいない。むしろ、親しい友達くらいには信頼していたし、その本性も知らなかった。これを恋心と呼ぶにはまだ早い気がするから敢えて言わないがとにかく仲は良かったし、だからこそ俺は頑張って走っていたのだ。


「えっと、こっち!」


「う、うん!」


 今では小さくて運動神経も悪そうな感じではあるが、この頃の彼女はとても運動が出来ていた。そのためか、男の俺でも彼女の走りについていくのはかなり難しく、何度か止まってもらい目的地まで走った。


「あ、どこいくんだ~~せいや!」

「お、なんだ~~彼女か~~!」


 途中で帰ろうとしている友達に声を掛けられ、さらには茶化されているため素通りする。しかし、小学三年生の彼女……なんて大したものじゃないだろうに。今になってそう思うが、当時はどうなのだろう。


 学校の階段を駆け上り、上級生や下級生とも何度もすれ違ってようやく五階の屋上に着くと、そこに居たのは悲壮な顔で佇んだ上級生の男子と右頬が赤くなった西島、そしてその隣で心配そうに見つめている柚人だった。


 周りには数人のギャラリーが集まって何があったのかをぞわぞわと話していたようだったが俺はそれどころではなかった。


 急だった。


 文字通り、その光景を見た瞬間。

 俺は彼女を守るために目の前にいた上級生の男子生徒をタコ殴りにしていた。


 別に運動神経がいい明けでもないし、脚だってこの頃の四葉よりも遅い。スポーツをやっていたわけでもなかったが俺は目の色を変えてその男子生徒をとにかく殴っていた。


 その時の記憶はほとんどない。


 ただ、俺が物凄い血相で殴っていたとだけ言われたから正直予想はあまりできないがとにかくすごかったらしい。


「っ!!」


「いって! あ、っいたっ! な、にするっ!」


 馬乗りになり、とにかく殴って。


 気がついた頃には俺は屈強そうな男教師に身体を抑えつけられていた。その辺で倒れていた西島はもう一人の先生に身体を擦られて、先程まで殴っていたはずの上級生の男子生徒は頬を真っ赤に染め、泣きながらさらにもう一人の先生に事情を聴取されている。柚人と四葉も現場の隅の方で動けずに佇んでいた。


「おい、三年生の……えっと、前沢か……なんでこんなことをした?」


 先ほどまで俺が殴った相手から事情を聴いていた教師が俺の方まで歩いてきてしゃがみ、目線を合わせて訊ねてきた。


 おそらく、しっかりと状況があっているかを確認するために全員に訊くのだろう。だが生憎、俺は記憶がない。ただ殴っていったのだけは覚えているがそれだけしかなかった。


 よって俺はこう言った。


「しらない」


「なんで、知らないの?」


「分からない……」


 俺が数回問いただされるのを見て、向かい側に座っている殴った上級生が笑みを浮かべていた。

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