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第十話 「愛を叫ぶのはまだ早い?」 10

 そして、最初に読み終えたのは四葉ちゃんだった。


 静かに原稿用紙のコピーを置いて、他に持ってきていた小説を開き読み始める。さすが、柚人の妹だ。すごく落ち着いていて、冷静沈着、沈黙を続ける。


 おそらく、みんなが読み終えるまで待つつもりだろう。


「……」


「……っ」


 静謐が部屋を襲う。

 無な空間が私を中心に、この部屋、部室の中を支配していく。


 ドクン……ドクン……と、心臓音さえ聞こえてしまう。これが緊張が見せる幻影なのかどうなのかも分からないが、とにかく、自分がまともではないことだけは良く分かる。



 そして、10分後。

 ようやくみんなが読み終わった。


 本棚の横に飾られた英数字の時計を見ると、配った時からすでに50分は経っていた。


 皆が原稿用紙を机に置き、様々な表情でいて俯いt——いや、柚人の方を向いていた。


「ん、んん」


 静かな教室に私の咳払いが響き、それを合図に皆がこっちに視線を移した。


「あ、あの——小説はどうでした、か?」


 だが、誰も答えない。


 私の緊張が声を震えさせて、座っていると椅子がカタカタと音を鳴らしてしまいそうなくらい。


「——その、うまくかけ、ていたでしょうか……?」


 疑問を口にする。

 震える唇を噛み締めて、私は頑張った。


 でも、私自身も分かっている。

 この沈黙と静寂は《《あること》》を待ってるということ、そうだ、私が最後に書いた言葉。


 ————私を受け入れてくれますか。


 この質問の答えを待っていた。


 そう考えた時、私の心臓の鼓動はさらに高まっていく。


 もはやうるさすぎて聞こえているのかもしれない。


 変な恐怖感に襲われて、席を立ったのにもかかわらず私は目を瞑っていた。


 私の緊張が伝染していくように、妙な雰囲気に部室が染まっていく。瞳を閉じていても、それが分かってしまうほどに悪い——いや、良い意味で悪い空気がこの場を支配していた。


「——ありがとう、うれしいと思う。いや嬉しい、確実に絶対に嬉しいよ、すっごく恥ずかしいし、椎奈、君も恥ずかしいんだと思うけど、なんか……その、ありがと……」


「……それ、日本語おかしいよ?」


「っあはは、バレた」


「バレバレね」


 言葉を交わす。

 きっと彼も雰囲気を理解して、優しくいってるのだろう。


 ——そういうところも本当に好きだ、いや好きになってしまったんだ。



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