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第十話 「愛を叫ぶのはまだ早い?」 9

 ——すべてをぶつける。

 ——それが人生においての最適解だと私は思う。


 そんな書き出しから始まった、彼女の、烏目椎奈によって書かれた小説はどこか興味をそそられた。


 いや、そそられたのではない。


 惹きつけられたというほうが、言い方としては近いだろう。

 ----むしろ、この因果がさも必然だったように。


 四葉が作った小説のような感情に重きをおいた感動ではなかったが、決して面白くなかったとは言えない。


 ——ある少女がいた。

 ——いつもいじめられて生きてきた、可愛そうな少女。


 そして何故かだったが、始まりが何かに似ているような気がした。


 ——学校に行くのはやめて……いや、正確に言えば教室に行くのはやめただけ。


 ——図書館に入り浸り、その奥で一人黙々と本を読んでさぼっていただけだ。


 本という物に引っ掛かりはした。


 ——どうした……?


 ——すると、彼女の真上から男の子の声がした。


 今でも覚えている。

 そのようなシチュエーションで僕も言ったような気がする。


 しかし、この後。

 ここから始まる物語を読み進めていくところで僕は気づいた。


 ——これは、僕と椎奈の出会った日のお話だ。


 別に、僕はそこまで思い入れがあるわけじゃない。無口な彼女にどう声を掛けようか思案して、どうしようかなと考えて、それで近づいたら彼女が驚いて……。

 

 なりゆき以外の他でもない。


 しかし、鮮明にして鮮烈に描かれていた文章を読み進めれば僕はすぐに分かった。


 それは、彼女にとっては影が絵のないほどに楽しい時間だったのだろう。小説や本で語られた言葉に常に触れてきた彼女だったが、現実でそれにかかわるのはなかなか出会わなかったと彼女は言っている。


 委員会で話した内容も、僕が勧めた本のお話も、文芸部に入ってからの先輩方との絡みも、僕の妹とのいざこざも。


 それらを通して変わっていく彼女の感情が事細かに書かれていた。しかし、違和感はない。日記のはずの内容なのに、別の女の子と措いて語られるために物語として成立していた。


 それに、僕は鈍感ではない。


 皆はそう言うが、僕はその辺にいるラノベの主人公じゃないんだ。人の機微には敏感だし、気づくことは気づく。


 僕はそれをただ隠しているに過ぎない。


 ここで描かれる、清々しいくらいに鈍感な白馬の王子様は《《明らかに》》僕ではなかった。




 ————☆




 どう思っているのだろう?


 読み始めて、もう二十分は経っている。字数も四万文字と少ないためそろそろ、終盤に差し掛かるはずだ。


 緊張が胸を締め付ける。


 それに、柚人以外は皆気づいているのだろうか?


 思い出は彼とだけのではない。私が自分に自信を持てるまでの出来事をかなり書いた。気づかれてもおかしくはない。


 黙々と読むみんなを前にして、私はもじもじと動く。


 木村先輩と枢木先輩は舌唇を噛んでいて、詩音先輩と崎島先輩はニコニコと微笑んでいた。隣に座る四葉ちゃんと由愛は真顔でページを捲っていた。


 ——最後の言葉を読んだら、そこからは私が勝負しなければならない。


 ——一週間前の自分の力を借りて、私は着々と進む時間をただ淡々と眺めていた。


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