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第十話 「愛を叫ぶのはまだ早い?」 8


 ————☆


 思わず感動してしまった。

 愛のために戦ったのに、結局は、それが原因で彼は殺されてしまう。


 話を読めば読むほど彼女に思い入れを抱かずにはいられない。彼女が受けた苦しみ、辛さ、痛み、そして憎しみ。恨んで恨まれて、そしてまた恨まれる。


 現実にもよくある、負の連鎖がその作品の中で、出来上がっていた。


 ヤマアラシのジレンマ、たった今思いついた言葉だがそれが一番ふさわしいとも感じる。


「……ありがとう…………」


 彼女が照れくさそうに柚人に言ったのを見て、私もそれに続いた。


「すごい、すごいわ、四葉ちゃん……すごく面白かった、これ、なんか書籍化してもいいくらい面白いよ、ほんとに、なんかね、その、すっごく、ものすっごく最高で感動した」


 聞き直せば語彙力の欠片もないような感想だ。


 我ながら恥ずかしいが、ここまでの傑作を前にしては言葉など選んでもいられなかった。


「そ、そう……?」


「うん、ほんとに、すっごい」


 またもや、彼女は頬を赤くした。

 可愛い、凄く可愛い。柚人が兄であることが凄く羨ましいくらい。

 よくできた、最高に可愛い、天才な妹だった。


 しかし、そう感じたと同時に——私は思った。


 傑作を前に、我ながら傲慢な考えかも知れなかったが何としても叶えたい夢がある。私と友達になってくれて、そして小説を教えてくれて、可愛い妹もいて……何より、優しい。でも、極めつけに、清々しいくらいに鈍感な洞野柚人くん。


 彼に向けて、好きな彼に向けて書いた魂の叫び。


 それを今、握り締めて立ち上がった。


「——あのっ」


 四葉ちゃんの小説の余韻に浸りながら感動に身を沈めている皆を前にして、私は声を出す。


「ど、どうしたの、烏目さん」


 私の目を見る詩音部長。

 不思議そうにこちらの様子を窺っているが、私が小説の原稿を渡すと彼女の瞳は輝いた。


「……っ、書いてくれたの⁉ ほんとに、これっ‼」


「はい、その……書きました」


「いや、もう、嬉しいよ! これも読もう!」


 詩音部長は嬉しそうに笑う。

 でも、そんな期待の笑顔を見れば見るほどに緊張が重なった。


 ——すごいなぁ。


 私は心底、そう思った。こんな緊張の中、四葉ちゃんがいたのかと思うと心も体もなぜか震える。


 怖い、そんな気持ちすらもすぐに浮かんだ。


 しかし、そんな気持ちとは裏腹に皆の元には私の小説……いや、彼に向けての小説ラブレターがすらりと置かれていたのだった。


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