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第十話 「愛を叫ぶのはまだ早い?」7

 四葉の小説は凄く幻想的な内容だった。


 しかも、文字数は五万字。もはや短編小説とは呼べない、そして何よりも力作であるとも思う。


 部長はハンカチを濡れ雑巾のようにしていたし、他の先輩たちも涙を浮かべていた。勿論、椎奈と由愛もお互いの手を握り合って感動を噛み締めていた。


 そんな感動的な小説というのは、悲しき少女が恋に飢えて戦う物語だった。


 貴族に住む少女と商人の少年が出会うところから始まり、身分の違う二人がなんとか口裏を合わせてお互いを庇ってそれを成就させようという明るいお話で、どことなくシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」のような雰囲気を醸し出していた。


 しかし、後半。

 たったの一言で、すべてがガラリと変わった。


 ————ああ、マリー。


 ————何でしょうか、イキシア。


 ————僕は明日、国王親衛隊に捕まるでしょう……そこで、僕と約束をして行けないでしょうか。


 ————いやです。


 ————なんで……僕との約束は引き受けられないのですか?


 ————いいえ、それは引き受けます。しかし、私はイキシアとは離れたくはありません。


 ————じゃあ、どうやって……。


 何も、イキシアが言いたい約束はマリーは知っていたのだ。しかし、それを約束してしまえば、もう一生、彼女は彼と会えなくなる。それだけは嫌だと、数年間も愛して相手を手放したくはない。


 そんな気持ちで彼女は、すべてをひっくり返した言葉を囁いたのだった。


 ————それでは、イキシア、あなたと一緒にいられない世界というものがあるのなら、私はそれを壊したい。


 ————永遠の愛を誓ったあなたと永遠にいるために、この国を、この世界を……いや、この世界を作った神を亡ぼそうではありませんか。


 敬愛に、寵愛に、純愛に。

 すべての愛を秘めた彼女の一言で、その王国は戦争に陥った。


 数年の年月が付き、マリーが結成した軍も疲弊し、お互いが疲れ果てたころにイキシアが国に捕まり、処刑されるという最後で終わったこの作品。


 僕は読んできて、背筋が凍った。

 まさか、四葉自身にここまでの才能があるとは思わなかった。確かに、書くことくらいはできるとは思ったがこんなにも美しい物語になるとは思いもしなかった。


 そこら辺にある小説よりは《《確実に》》面白い。どう足掻いても学生が書いてなせる物語ではなかった。心を奪われ、物語の主人公にでもなったような気分。台詞一つ一つが緻密でしっかりとしている。しかし、それでいてどこか憩いを見いだせる。そして最後にはどんでん返し。


 ——美しい。


 いうなれば、彼女の書き上げたそれは美の産物であった。


「すごい……」


 思わず、口から言葉が漏れてしまった。


「……あ、ありがとう…………」


 しかし、僕の羞恥も束の間。

 頬を赤くした四葉は僕にだけ聞こえる小さな声で呟いた。

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