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第十話 「愛を叫ぶのはまだ早い?」 6

「それで、お前らやってきたか~~?」


 我らが文芸部部長は開口一番にそう言った。


 しかし、その瞬間。

 僕はドキッとした。無論、というか勿論、そんなものはやっていないからである。


 僕の焦った表情を感じ取ったのかニまぁと笑って部長はこちらを覗く。


「あ、あの、何ですか」


「いやぁ、別にね」


「な、何ですかっ、その笑み……」


「別にだよ、まさかね、テストを言い訳にこの部活の宿題をしていないとか……そんなことはないとは思ってねぇ~~」


「っ——」


「んん~~どうした洞野兄?」


 ぎろぉっと、蔑みの意味を含んだような眼光に僕は下唇を噛むことしかできなかった。隣に座った四葉は優しく手を握ってくれたが僕が部長に公開処刑される時間も早いだろう。


「んでもさ、詩音」


 すると、先程さんざん僕を揶揄っていた崎島花梨が言った。


「なんだ?」


「うちもやってないんだけど、これ?」


「まじか」


「まじだ」


 束の間に広がった静寂。

 しかし、そんな静謐な空気もすぐに晴れることになる。


「まぁ、それは私もだけどね」


「ほんとか、雪?」


「ほんとよ、大体、家帰ってから思ったけどテストのための休みよ、なんで本書かないといけないのよ?」


「それはそうだが……せっかくの休みだしな」


「本を読むのは好きだけど、テスト勉強の邪魔になるようなことをするのは違うと思うけどね、今回に関しては」


「まぁ、確かに。これは賛成だねっ」


 なんと。

 驚いた。


 部長、福原詩音以外はその宿題をやってはいなかった。これが当然かと聞かれれば当然だと思う。受験生が部活にいそしむなど一般的には言語道断。一週間前、僕を散々揶揄ってくれた先輩方は今日に関して言えば優しかった。


「……こまった」


「詩音先輩……」


 ぐぬぬと俯いた部長に四葉は話しかけた。

 皆の視線は自然と二人に集まっていく。


「どうした?」


 しかし、彼女は少し黙った。途端に頬を赤くするのを見て、僕はすぐに理解した。


 ——小説だろう、四葉が書いた短編小説だ。


「……えっとぉ」


 座りながらももじもじする我が愛しの義妹いもうと、小説を書いたことを伝えられずに言葉を濁らせる。

 そんな言動を前にして、部長も察しが良かった。


「よんちゃん……書いてきたの?」


「え、えっと……ん」


 誰もが書いていないと思ったのか、四葉以上に泣きそうになっていた部長は刹那、四葉に抱き着いた。


「よんちゃんっ、書いてくれたの⁉ ほんとに、書いてくれたの‼」


「えっ、あっ、はい」


「ほんとにぃ~~~!!」


「ぐt、そう、ですっ」


 それなりに大きな胸の中に沈む四葉の小さな顔。スリスリと擦られて窒息しかけている。


「部長! 四葉!」


「へ

「へ、じゃない! 四葉苦しがってる!」


「っあ、いや、すまない! 取り乱した……」


 二人して恥ずかしそうに黙りこけて数分後、部長は言った。


「じゃ、じゃあ、さっそく。読んでいこうかな?」

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