第十話 「愛を叫ぶのはまだ早い?」4
二年二組、僕たちの要る教室から少し遠い場所にある文系クラスの教室までやってきた。廊下にはテストが終わってどこに遊びに行くかの相談をしている帰宅部の生徒や、まるで社畜のように準備を進める体育系部活の生徒までが存在し、表層から伝わるウキウキな気分に心なしか自分たちも襲われる。
「相変わらず、ここの廊下は狭いな」
「まぁ、学校自体小さいですし……」
苦笑いを浮かべる四葉を隣に僕は人々の間を通り抜けるように進んでいく。
一瞬だけ四葉とはぐれそうになったが華奢な彼女の手を掴んで何とか切り抜けると、少しだけ彼女の頬が赤くなっていたような気がしたが、俯いていたためあまり表情が分からない。
なんやかんやで教室の扉の前まで来ると、中では掃除が行われていた。
「あ、烏目さん、黒板消しのクリーナーやってきて~~」
「わかりました」
「よろ~~」
僕たちといるときには見せない無感情な台詞と表情に若干驚きながら、教室の外へ出てきた彼女の元へ駆け寄った。
「お、椎奈!」
「椎奈ちゃん」
「うおっ、え、なんでここに」
驚いた衝撃であわや黒板消しを落としてしまいそうになった彼女だが、何とか体制を整える。
「大丈夫?」
「えっ、ええ、平気よっ」
「ならよかった、それで、今日は掃除なのか?」
「あ、うん。いっつも金曜日が当番だから」
「あぁ、だから委員会来るとき少し遅いんだね」
「まあ極力出るようにはしてるんだけどね……えっと、どうしてここに?」
「椎奈ちゃんと一緒に行こうかなって思いまして……」
「ん! ちょっと待って早く終わらせてくるから!」
四葉が顔を赤くしながら呟くと椎奈は途端に走っていく。ポカンと口を開けている四葉の肩に手をのせて「すごいな」というとなぜだか分からないが、俯いたと思えば今度は小さな声で「ばか」と呟かれてしまった。
「ん?」
「なんでもないです」
「いやまあ、ならいいんだけど」
「……」
すこしだけ複雑な雰囲気に僕は押しつぶされそうになった。
何か悪いことでもやっちゃったかな?
数分後、彼女のクラスの掃除は終わり、文芸部室へ向かった。僕たちが向かう文芸部は教室棟の中に存在するが場所的にはかなり遠い、一年生たちの教室のほぼ隣で、入るには一年生たちの間を潜り抜けないといけないのだが、それが何より非常に厄介だった。
「うげぇ……」
「どうした四葉?」
「……一年生怖いです」
「え、一年生だよ? 怖くないじゃん、まあ狭い所は嫌だけど……」
「あ、でも私は割と四葉ちゃんの気持ちわかるかなぁ~~」
先ほどと同じように一年生の間を進んでいくと、気づいたかのように椎奈は肯定する。
「どうしてだよ?」
「だって、私たちより全然大きいじゃん、一年生」
「は、はぁ……それって先輩も同じじゃ」
「先輩はなんか、その、詩音先輩のこと思えば怖くないです」
「お前……三年生がみんな部長みたいなわけないだろ……」
「でも、三年生とは部活で関わりあるけどさ、一年生って正直ね……」
「関わりあるって言ったって、お前まで入って二週間しか——っ」
突如入った右拳のストレート、お腹に尋常じゃない鈍痛が電のように走って、じわじわと内臓を痛めつける。
「っいってぇ……なにすんだ!」
「へ、私……?」
椎奈へ顔を向けると彼女は何事もなかったかのように頬けていた。
「は、椎奈じゃないのか?」
「っ……く」
すると、隣からすすり笑う声が聞こえた。
僕はすぐに向きを変えて、先程まで四葉がいたところへ視線を送るとそこにいたのはニマニマと笑っている崎島花梨だった。
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