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第九話 「第一次奪取戦争」 4


 目が覚めて部室を見渡すと、そこにいたのは椎奈と四葉だけだった。


 四葉の小さな足が視界の真ん中に映っている。どうやら僕は倒された場所から移動されていなかったらしい。さすがにそれもどうかとは思ったが、まだ優しい二人が部室に残っていてくれてありがたい。ほんと、僕を気にせず帰った人たちには見習ってほしいくらいだ。


 せめて、二人のようにするべきことをしながら覚めるまで待って行ってほしかった。

 

 ——起きたか、クソ新入り。じゃあようやくこの宿題をやらせられるな。

 ——おお、じゃあ部室は全部片づけといてね。

 ——洞野兄は寝てたバツとしてこの本を胸中に読んでくるように。

 ——あ、柚人起きた~~、もう一発いっちゃう?


 いや、それはそれでだめだった。


 想像すればそんなふざけた言葉しか浮かんでこない。

 もはやこれすら神からのお告げのようである。僕は世界と神に見放されて、文芸部のメンバーにも見放されて、最後に残ったのは優しい友達と義妹だけ。なんとも悲しきかな。


 まあ、だからこそ世界は残酷なのだろう(それと友達と妹は最強最高だ)ということをそこで理解した。


「お、おきた?」


「おはよう、ゆずと」


 明るい部室に目が慣れず体を起こしながら、瞼をパチパチさせていると彼女たちが僕の目覚めに気づいた。


「お、おはぁよ……みんな、は?」


 嘘である。

 どこに行ったのかは明白だったが、問いには椎奈が答えてくれた。


「先輩方は帰っちゃったかな、柚人のために色々書き残してくれたけど……」


「ん、やっぱりか……」


 僕の予想は事実だったが、すこしだけ外れたのは彼女たちがそこまでゲスではなかったこと。小鹿のようにふらつく足を持ち上げて何とか立ち上がり、大きなテーブルに目を向けると、椎奈の言う通り丁寧に今日の連絡事項がまとめられている髪を見つける。


「これ、か……意外だな」


「あはは、まあね、四葉さんが部長にしっかり言ってくれたからかな————あと、しっかり読んで見なよ」


「え、————っ?」


 椎奈の台詞に促されて、僕はその紙を読み進める。


「宿題……テスト期間が終わったら一人一つ、短編小説つくりをする企画をするので、考えておく、こと……?」


 要は小説を書こうということであった。確かに今の時代ならみんなが小説を作れるようなサービスが整っている。有名サイト「カクヨム」、「小説〇になろう」、「エブ〇スタ」、「アルファポ〇ス」、「ノベルア〇プ」など……数えればたくさんのWeb小説を投稿できる場が設けられていることは知っているが、実際そのサイトに手をだしたことはなかった。


「そうなんだ、四葉さんもそこで今考えているけど、私たちも来週の中間考査が終わったら書かないといけないのよ」


「まじかよ……」


「だよね……私も昔に一回だけ書いたことはあるけど……恥ずかしすぎてやめちゃったし……」


「いやぁ、僕なんて書いたことすらないぞ」


「普通はそうだよね」


「てか、四葉——お前は書いたことあるのか?」


 そこで話を四葉に振ると、彼女は筆を止め——というか、スマホをテーブルの上に置いて。


「ないです」


「だよな……」


 ただ、僕はそこであることに気が付いた。


「なぁ」

「「?」」


 すると、二人が不思議そうな表情でこちらを向く。


「文芸部って小説を書く、部活じゃなかったっけ?」


「え、そうなの?」

「——確かに」


 半拍子待って、二人は目を見開いた。


「僕、ヤバい部活入ったじゃん」

「っう」


 すると、四葉がお腹を抑えるのだった。


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