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第九話 「第一次奪取戦争」 3


「それで部長、お知らせって何ですか?」


 薄れゆく視界の隅で、おぼろげに映っている由愛が言った。


「ああ、それはだな——」


 まるで最初から僕などいなかったかのように、視線すら向けない詩音先輩。そして他四名。ひどい、ひどすぎる……。こちらのちまちまと視線を向け、大丈夫かなと不安そうな表情をしているのは椎奈と四葉の二人だけであった。


 さすがのやり様に僕はもう一度立ち上がった。


「——っおい! 僕を忘れ、が⁉」


「だまれ」


 またもやそこら辺に落ちてあった広辞苑を投げられた。


 僕の動きを最初から予測しているかの如く、脊髄反射の速さで動いたのは木村先輩。今度こそ頭には命中しなかったが代わりに溝内に入った。少し遅れて鈍痛が腹を襲い、僕はその場にへたり込む。


「っうう、あ、うぁ……ま、じかよ……」


「お前は静かにしてろっ」


「くる、るぎ、せんぱい……」


「名前を呼ぶなっ」


「グハっ!」


 さらに蹴りが地面と水平に放たれた。溝内の余韻に未だに浸っている体にさらにもう一発。なんとか、ギリギリ耐えていた僕の体はジェンガのように瓦解していく。


「……ぅ、あ」


「——ったく、入ってきてからお前がいると騒がしいな」


「同感です~~」


「て、めぇ、ゆ、めっ」


 クスクスといたずらな笑みを向ける同学年。こいつに人気があると思うと世の中の男子は一体何を考えているのかと思ってしまう。僕には全く分からない。これが所謂Sの素質なのか……ただ、先輩の方がS過ぎて、やっぱり正直良く分からない。


 ぐらぐらな頭で考えていると彼女は僕に舌を向けた。



「べーっ」


「くそぉ……」


「詩音、こいつ退部させないか?」


「っ——なんでそうなるっ⁉」


「お前がうるさいからだ」


「せ、せんぱい……それはさすがにひどい、です、よ」


「——四葉ぁ」


「まあな、四ちゃんの言うことなら仕方ないっ! 今回は見逃してやる! (な、なぁ、四ちゃん、これはご褒美くれるよね!)」


「……な、なに言ってんだ」


「洞野兄には関係ないぞ」


「え~~詩音、このクソ新入りめんどくさいから俺は嫌だぞ」


「うぬぬ、雪の言うこともわk……っ⁉ ごっほんっ! ま、まあこいつにも、いいところあるし、それはなしだ!」


「……っ」


「——っ⁉ す、すまん、四ちゃん」


 眼光の飛ばし合い……いや、四葉の一方的なものであったが、女子の裏の顔が見えたような気がした。木村先輩の申し出にも、怯まない四葉は瞳で訴える。四葉が大好きな詩音先輩としてはどんなお願いも消し炭と化してしまう。


 四葉さえが前に出てくれればこちらとしては勝ちゲーなのだ!


「まあ先輩方も、お、ちついて、ね?」


 椎奈まで!

 なんということだろうか、持つべきは優しい同級生だな、これは間違えない!


「じゃ」

「うぬ」


 すると、木村&枢木先輩が席を立った。


 このドSコンビ、二人が息を合わせたらどうなるか。


 それを知っていたはずだったのに——いや、それに今さら気づけたところでどうしようもない。


 今回も時すでに遅かった。


「「おらっよッッ‼‼‼‼」」


 両側から押し寄せる清潔な脚。

 ふわりと風に乗ったいい香りを花で感じた時には僕の目はつぶれていた。


 視界の霞が強まっていく。薄れて、見切れて、そして真っ暗になり、結果として僕の意識は飛んでいた。



———☆


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