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第九話 「第一次奪取戦争」 2


「いてて……」


 そして僕の額は真っ赤になっていた。

 蚊に刺されたようなムズムズ感が額に残り、現在進行形で少しだけ痛い。なんだかんだ言ってこのヒリヒリする痛みが一番ウザいのはさておき、この理不尽すぎる一撃に僕は旗を挙げた。


「——詩音先輩、これはひどいっす」


「知るかっバカ者! 昨日の夜にラインで五時五十分からミーティング始めるって言ったじゃないか!」


「え、そうなんすか?」


「そうだ、ラインくらい毎日確認しろ」


 すると。

 どう言う訳か、先輩の台詞に僕の隣にいる椎奈が反応した。


「っ」


「……どうした、椎奈?」


「い、いや、なんでも……」


「おう、ならいいんだが」


 見るからに動揺しているがその理由は僕には分からなかった。恥ずかしそうな彼女の顔を見るとーーーーむしろ、僕の方が恥ずかしくなった。


 まあそれも彼女の前で変な風に落ち込んでいる姿を見せてしまった僕が悪いのだから仕方ないけれど……。


 ただ、なんだかんだ、先程の先輩の一撃にそんな羞恥は打ち負けて、どこかに飛んで行ってしまったのも事実。


 妄想を膨らませる最中、遮ったのはまたしても詩音先輩であった。


「おい、聞いてるのか洞野兄」


「いや、すんません」


「……ほんと、お前はすぐにどっか行くしな、困ったぞ」


「いやだって、僕はまだ入ってすぐだし……」


「そんな言い訳通用しないぞ」


「げ、僕ってそんなに早く部員扱いされてるんすか?」


「そうだ、光栄に思うんだな」


「どこが光栄ですかっ」


 むすっと返すとなぜか反対側の席から視線……というか圧力を感じた。


 向きを変えると、僕の肺活動は瞬時に停止した。


「おい、くそ新入り。部長の話くらい聞け」


「っ⁉ は、ひゃい‼」


 一瞬の間だったが僕の心臓はキュッと引き締まった。


 悪魔的なモノにでも掴まれ握りつぶされたかのような感覚が血液中を走る。怖さ、それだけが身体中を駆け巡り、体中の細胞にトラウマという名の傷をつけていく。


「きも~~」


「同感ですね」


「……」


 怯える僕を見て一瞥するギャル先輩と性格除きスタイルだけはいい由愛も、その向こう側で無口でちょこんと座っている四葉を見習ってほしい。


「う、うるさいですよ」


「こっちの台詞だ、クソッたれの新入り」


「——まあ、こいつの話は置いといて」


「置いとくなっ! 僕の尊厳はないのか‼‼」


「そんなものはないぞ、クソ新入り」


「げえ」


「まあ事実だしな」


「ええ! 枢木先輩もすか⁉」


「当たり前だ、うちらの烏目を奪い取りやがって、まったくけしからんやつだな」


 ジト目でこちらを覗く先輩を見てーーーーなんか、嫌な予感がした。


「なに⁉ おま、まさかっ‼‼」


 途端に驚いたのは先ほど僕のことを「クソ」と罵ったドS先輩こと、木村・ラナンキュラス・雪であった。


「お、俺の烏目——っを⁉」


「っ!」


 流れるようにして目を見開いたのは右側に座っている由愛である。何か肉付いてしまったのか、変な奥深さというか、裏しか感じられないような表情が見て取れる。


「——だから、さっきお前は『椎奈』と呼んでいたのか‼‼ 『烏目さん』では、なくっ‼‼」


「——んなっ!」


「っち、ちが‼」


 遮るようにして否定しかけたが……時すでにお寿司。


 つまりは——時すでに遅かった。


「……っ、う」


 すると、今度は先ほどまで無口のままでいた四葉が涙を流している。


 やめてくれ、今日で何回泣く気なんだ! なんてツッコミを入れたいところだが今日だけでいろいろあって何も言えない。というか、隣に座っている椎奈ですら、何をしたらいいのかが分からずポカーンとした表情のまま固まっている。


「てめぇ……ブチ、のめ、すっ!」


「クソ新入り……てめぇよくも、クソなんかじゃ計り知れないぞこりゃあ——いや、こいつはもう、雑種かァ」


 さらには手前では拳を握り締めてぶるぶると震える枢木先輩に、僕の呼び方をさらに悪い方向にシフトしてしまった木村先輩が覇気を見せつけるかのような鋭い眼光を僕に向けていた。


「あ、いや、ちょっと……」


 命の危険を感じ、手を前に出して静止を求めるが彼女たちが止まる気配はない。



 しかし、その時だった。


 まるで——女神のように、——天使からのお告げが来たかのように。


 椎奈がもごもごしていた口を開く。


「あ、いや、じゃなくて、その……友達になったのに、苗字読みは変かなって……えへへ」


 若干ひきつった笑みを浮かべた椎奈だったが、先輩たちの動きは止まる。


 笑みに浸ってから、僕をもう一度睨みつけると。


「————おい雑種、こいつに手をだしたら承知しねえからな」


「ああ、うちも同意だ」


 どこぞの英雄王に負けないほどの声色と眼光を僕に突き刺さして、漫勉の笑みを椎奈に向けると、先程までの真っ黒な声が急に明るく変化する。


「ねぇ、椎奈ちゃん!」


「は、はぃ……」


 首をすくめて、丸まろうとする椎奈の肩をがっしりと掴んだのは木村先輩。


「このクソ新入りの雑種が、最高に可愛い新入部員の椎奈ちゃん、つまり君になんか変なことでもしたら私に言ってね! あと、そんなことあったら大声で叫んで、キンテキ入れればいいから! 俺が保証する!」


「あ、加えて言うと! こいつのことはこき使っていいから!」


「——僕に尊厳h————」


「「ないっ‼‼」」


 そんな息の揃ったコンボスマッシュに、僕が一発KOを回避する方法はどこにもなかったのはまた別のお話。


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