第八話 「救世主女たらし伝説」 15
「じゃあ、よろしく」
そんなありきたりな台詞が始まりだった。
最初は少しだけ怖かった。
なぜなら、私に声を掛けてくる人は大体、私の対応を見て諦めるからだ。この人は心身に接してくれないとか、まったく友達になる気はないとか、それぞれの理由づけをされて最後は一人になってしまう。
——でも、そんな被害者ずらしたところで悪いのは私。
別に気にしてほしいわけじゃないけれど、少しだけ考えてほしかったというか……少し言葉にするのが難しいけれど————心の奥底ではかまってほしかったのかもしれない。
いいや面倒くさいことを言うのはやめよう、かまってほしかった。
みんなに呆れられてどうすればいいかも分からない、そんなときに彼が現れた。
印象は特になかった。
読書をしてそうな見た目ではなかったし、クラスでの話し合いの末に、結局押し付けられてなってしまった——ていう感じの人なのかなと思った。事実そうだったって言っていたけど、でも彼は違っていた。
まず、私が大好きな本について結構知っていた。それに知らないラノベというジャンルまで教えてくれたし、それもそれでかなり面白かった。勧めてもらったのはかなり読んだと思う。これでも読むスピードには自信があるから勧められたのを早く読むのには簡単だし、おかげで彼の言っていた作品を楽しみながら読むことが出来た。
そして彼は、私の対応にも臆さなかった。最初なんて話しかけられて無視してしまったのにそれでも話しかけてくれて……最初に作業してた時だって、私がうっかり立ち読みしていても気を使って怒らずに黙々と作業をやってくれた。
話しかけてくれて、内容こそとりとめのないことだけれど、なんかすごく楽しく感じた。読んでいる本を聞いてくれて、そこから大好きな本の話をしてくれて、私からしてはこれ以上なんてないほどの嬉しさだった。
人が苦手で、長年話すことも関わることだって控えてしなかった私の前に——言ってしまえば白馬の王子様の様な人が現れたんだ。こんなにうれしいことはない。すごく優しくて、凄くひと思いで、話し上手で、本が好き。
趣味もあって、部活だって誘ってくれて、これを逃せば私なんて一生運命の人は現れない気がする。そうだと、私の体中を駆け巡る血液が全力で叫んでいる。
「……す」
きだなぁ……。
「ん?」
「っ⁉ な、なんでもないよ‼‼」
「ん、おう、そうか……」
危うくいってしまうところだった。なんとか口を抑えて我慢する。駆け引きなんてできないけどもっと頑張りたい、誰かに相談してみようかな……?
頬を朱に染めているだろう私を前に、彼は照れているのかそっぽを向いた。
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