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第八話 「救世主女たらし伝説」 8


 勿論——


 ——————聞こえていないふりだ。


 まじか、そうなのか。

 いや、知っていたけど……なんか本人の口から言われると心に来るものはある。


 本人……いいや、あの頃とはずいぶん変わっているお前のことは正直、違う人みたい見えている。本気で知らない人のようなんだ。


 あれから変わってしまったのも事実だが、それもそれで仕方ないのかもしれないけれど、僕自身も変わっているのかもしれないけれど……それでも、僕の心の中にはあの頃のお前が染みついて離れない。


 まるで別人の様で、それでいて家族で、可愛いのも事実で、どうすればいいのかは分からなかった


 答えはまだ出るはずもない。


「戻りました~~」


 そのまま静かに部室に戻ると皆はそろって全員、読書をしていた。


「お~~遅かったなぁ」


「すみません、20分も……」


「まあいいや、お腹、大丈夫か四葉?」


「は、はい……」


 まったく、自分から走って逃げて、さっきもあんなこと言った上に顔を真っ赤にしていた。自業自得だよ。先輩に感づかれそうで怖いからやめてほしいけどな。


「全員揃ったし、もうやっちゃうかなぁ」


 僕と四葉が椅子に着くと、先輩は皆の視線を集めた。


「何をやるんですか?」


「ん? あ~椎奈も入部することになったから、流石になんかやらんとだめかなってな」


「え⁉」


 先輩の一言に驚く僕であったが、四葉以外は「なんだこいつ」という視線を向けてくる。いいや、僕は烏目さんが入部することなんて聞いてないぞ、なんだ僕がいないときになんかあったのか?


「……あ、いや、烏目さん入部するの?」


 僕が訝しげに尋ねると彼女はスゥッと俯いて首を縦に振る。


「え、まさか強制的に入れたのn⁉」


 すると、目の前に座っていた枢木先輩と木村先輩が髪をはためかせて、両側から僕の頭を机に打ち付けた。


「ッガァ⁉」


「だまれ」


「うるせぇ」


 声色が真面目に怖い、すごく怒ってるぞ。なんでだ、僕は聞いただけなの……がぁぁ‼ 痛い痛い‼‼


「うぅ……いだぃ」


「っちぇ」


「これだから勘のいいガキは嫌いだよ」


 ちょっとその台詞はいかがなものかと感じたが、二人の二つの意味でパンチの効いた攻撃はさすがに応える。手を放されてもなお頭がぐるぐる回るのはまさにその代償だろう。


「……」


 その光景を見ても何も言えない烏目さんが一番可哀想に見えてくる。僕と同じように強制的に入部届出されて入れられるのはちょっとひどすぎる。


「烏目さん」


「?」


「嫌だったらやめてぼぉふっ——⁉」


 二人の鉄槌はもう一度降ろされる。


————☆☆


「良いんだよ、事実は作られたんだよそれでもういいんだ」


「はぁ、部員が少ないとお前が困るだけなんだからな」


 自分たちの気を使い方が気付かないのか、と胸を張る先輩たちが突っ伏している僕の視界の上辺に見えるが——まったく、どこが気を使っているんだ。そのためだとしても強制的に入れるのはあからさまにおかしいぞ。


「あ、別に私は大丈夫なんでいいですよ……そんなに気にしないで、ね」


 再び顔を上げると作り笑顔を浮かべた彼女。今度は彼女が気を使っていた。


「いや、そんな——っ」


 僕を睨む先輩二人の目が怖かった。明らかに殺気立っている瞳の色に若干、腰が抜けそうになってしまう。


「っちぇ」


「っち、黙れクソガキ」


 さすがにひどい言い草だった。



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