第七話 「図書館の少女」 9
「ほ、ほかに⁉」
「あら、どうしたのよ?」
「いや、烏目さんがさっき怒ってt」
「怒ってない」
「いやいや怒ってたでしょ」
「怒ってないし」
「えぇ、めっちゃ怖かったけど……」
「怖くない」
「怖いです」
「怖くはありません〜」
「人でも○しそうな目してたけどなぁ……」
「…………はぁ」
「ん?」
小さくため息をして、彼女はぐったり座り込んだ。
まるでお化けでも見たかのように脱力して床に着地。拳を作り、口をもごもごと紡がせて、天を向いてすぐさま、僕の鼓膜が破れかけた。
「あああああああああああああああああああああ、もうっ‼‼ 思い出しちゃった! 思い出しちゃったじゃないっ‼‼ あんな思い出、一生忘れていたかった。忘れたかったのにぃいいぃいいい‼‼」
「っ、ぇ……」
驚くも何も、想像を絶しすぎていてどうすればいいか分からない。彼女の叫び声が教室に反響し僕の耳が潰れていく。何が何だか分からないが、彼女を中心に放たれた覇気は竜の息吹の如く凄まじかった。
「ど、どうした、の?」
「うぅぅ……dしちゃった」
「?」
「だ~か~ら~、思い出しちゃった‼‼」
「な、にを?」
「中学時代のことよ、はぁ~~信じられない!」
「あはは……すまん」
不貞腐れてしゃがんだ彼女は僕には荷が重い。それに、言ってしまったら殴られそうだから敢えて言わないが、僕からじゃ見えない足元で、確実に正面からは下着が見えている格好をしている。
まったく、ラノベの背表紙が羨ましい、現実でもそういうラッキーなところがあるのが本当にそれらしいな————なんてことは断じて思ってはいない。勿論、断じて。思わず体が前へ傾くが何とか静止して、言葉を探す。
何を返せばいいのか本気で分からないが、ここは必殺の苦笑い。
————だが、彼女の表情はまたしても変わらない。
「ご、ごめん……」
自信なさげに謝ると彼女の口は静かに開いた。
「いいわよ、仕方ないし……」
「ほんとに、ごめん」
「ふんっ、いいわよっ!、思い出しちゃったのは仕方ないし、大体その程度だしっ!」
「——なにも言えないな、僕は」
「思い出させて責任は問ってほしいものだけれど~~」
「ほんとすまん」
「べーっだ、謝って終わりなら警察は要らないってのっ!」
「はは、だよな」
何も納得していない共感の直後、ガラガラっと扉の開閉音が鳴る。恐る恐る扉を開けているようなゆっくりな音がしたかと思えば、ガタっと何かが落ちた音が追い打ちをかける。僕も烏目さんも急な出来事に肩を震わせた。
「っと、落としちゃった……」
その声には聞き覚えがあった。
「あ、柚人じゃん、こんなところでどうしたの……?」
「ゆ、ゆずと……何してるの?」
「由愛と四葉……?」
「柚人、あんた、まさか……それは……、うわ、うわ、浮気……ね?」
「え?」
「……」
単刀直入に放たれた言葉に、僕も四葉もそして烏目さんも一同が絶句した。
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