第七話 「図書館の少女」 8
『リア充』
それは、リアルに充実している者たちのことを指す言葉。
彼氏と彼女という、不完全不確定な関係にある者たちを指す言葉。
時には幸せそうに見えて、時には妬ましくも思える、不思議な者たちを指す言葉。
僕と彼女の関係はそういったものなのだろうか。切実にそう思う。昔から一緒で、親の顔くらいたくさん見たのは彼女くらいで、僕が唯一、心を許してもいいなと思っている人である。
でも、付き合ってはいない。
いやむしろ、義妹なら付き合っていいはずもない。法律的には大丈夫だとしても家族としてそんな関係に陥ってはいけない。好意はあったが今の僕は兄であるし、さらに複雑な関係にもなりたくはない。
「リア充、ね……」
「あいつら、爆発すればいいのに」
「——あはは、まぁ……たまには妬ましく見えるもんね」
「たまに?」
先ほどとは計り知れないほどの無表情で首を傾げる烏目さん。まるで、僕の真意でも確かめようとしているような黒い瞳だった。
そんな表情に思わず、半歩後ろに下がってしまう。
「——う、ん」
「たまにって、私はいつもだけれどね」
「まあ、気持ちはわかるけど……」
「あいつら、ほんとに嫌い」
ただ、なぜだろう。
何か、どこか。
なんていえばいいのか分からないけれど、少しだけ彼女に違和感があった。形になっているわけでもない、不確定すぎる感覚で分かるその変な雰囲気。
「あいつら、最低だもの」
「……そんな、ことない、と思うけど」
「いいや、最低」
まるで、親でも殺されたかのような勢い。残酷で憐みの含んだ瞳に、カクカクと震える指。何か、彼女はもっていた。
「最低すぎる……だって、私のっ————k」
皺が入る。
ぐっと重くなる感情を堪えるように、彼女は小刻みに震える。
眉間の皺はより多く、眼光は鋭く光り、そして拳に血流が現れていく。右手に持つ本には汗が垂れ、力んで表紙が折れる寸前。
「——はぁ、ごめんなさい」
逡巡の最中、彼女はようやく——怒りを収めた。
大きく息を吸って、小さく掃き出し、胸に手を当ててそっと一息。整え終わったのか彼女はゆっくりと本を棚に戻した。
「……私ったら」
何を掛けようか迷ったが、ここは無難に聞いてみる。
「だい、じょうぶ?」
「あ、うん……」
俯いた。僕の場所からでは彼女の表情は良く見えずにおどおどとしていると彼女はふぅーーと息を吐いた。
何が起こったかと思えば、すぐに彼女は言い直して。
「あっ、それで他にはないの?」
ニコッと笑って訪ねた姿を見て、僕は再び恐怖した。
女って切り替え早すぎだろ、まじで怖すぎ——こりゃ男でよかったな。
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