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第六話 「真の同志は灯台下暗し」 9

「あいつは、西島咲は——犯罪者なんだ」


 その言葉に僕は息を飲んだ。

 いいや、まさか。そんなわけがない。


 僕は否定する。


 なぜなら、そんなわけがないのだ。あんなにも可愛げのある、THE少女のような女子高生など、この世のどこを探してもいるわけもない。むしろ、もっと静かで、もっとおしとやかであると僕は思っていた。


 だから僕は、もう一度聞くことにする。


「今、なんて言った?」


「言った通りさ、彼女は犯罪者なんだ」


 それでも、解答が覆されることはなかった。それは今の僕が何をしても変わらない正真正銘の圧倒的な事実だった。


「はん、ざい、しゃ?」


「ああ、そうだ」


「うそ……だろ?」


「なんだ、柚人もあいつに同情してるのか?」


「い、いや……そんな風には見えなくて」


「ははっ、そりゃそうだ、そんな危ない人間には見えないしな」


 戸惑う僕に続けて、前沢は止まらない。


「西島は、ある男子生徒のことが好きだったんだ。ずっと——多分3年くらいかな、小学生の時から好きだったらしいけど。でもってそいつに1年生のときに告白したんだよ」


「どうなったんだ?」


「聞かずとも分かるだろ? フラれたんだ」


「それは、ご愁傷さまで……」


「そこで終わればよかったんだよ、普通なら、泣いたりしてそこから逃げ出すだろ?」


「でも、西島さんはそうしなかった。じゃあ、もしかして——」


「ああ、その通り。あいつはそこでやめずに猛烈にアピールしつくした。月曜日も火曜日も金曜日までずっとアピールというかもう、付き纏っていたな……あれは」


 彼の口調は悲しそうで、でもどこか怒っていて。


 ——らしくない。


 たかだか1週間少しだけの関係で理解できたわけでもないが、そのしゃべり方は僕の見てきた前沢のものではなかった。


「そうだな、まあ未練ありありで辛かったんだろうよ。俺だって好きな子はできたことくらいあるし、失恋だってあるから分かる。でも、あれは異常だった。エスカレートした、学校からはみ出し土日も付き纏い、彼の行動を把握し、しているそれはもうストーカーがしているのと一緒だった」


「そんな、ことが」


「家の中で何かしたわけじゃないから、それ以上はないが、結局は一緒。その男子生徒が親に言って、学校に言って——そこで終わればまだよかった」


「終わらないって?」


「やめなかったんだよ、ずっとね、本当にずっと続けまくったんだ。男子生徒を追いかけまくって、ストーカーして、最終的には警察すら出てきていた。もうここまで来ると、学校でも噂になり、もちろん彼女の居場所などなくなって、立派な犯罪者がそこに出来上がっていたということだ」


そんな衝撃的な内容に、僕は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


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