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第六話 「真の同志は灯台下暗し」 8


 ゆずと、と前沢君がトイレに行きました。


 こんな時に二人ともお腹を壊すなんて、何か変なモノでも食べたのでしょうか? 帰ってくるまで、多少の時間はかかりそうです。


 そう感じた四葉は、あの時のことについて聞いてみることにする。


「西島さん、あの、えっとぉ」


「ん?」


「その……前沢君のこと好きなの?」


「っ!」


 先ほどまでの冷静さは消え、一気に顔が赤くなっていく。


 昼は少し驚いたけれど、案外この人も乙女なのかもしれない。そう思う四葉に彼女は寂しそうに答えました。


「まあ、事実だけどね……でも、彼はそんなこと受け入れてくれないけどね」


「受け入れてくれない?」


「うん」


 西島さんは悲しそうな顔で。前沢君とは同じ中学校とは聞いていたけど、その時代に一体なにがあったのか、四葉は知らない。


 好きだったとか?


 付き合ってたとか?


 振られたとか?


 頭に浮かぶすべて、その可能性はなきにしもあらず。でも……まさか、あそこまで彼に好意を抱いていたとは思わなかったけれど。


 本気で意外だと思いました。


「まあ、別にいいんだよね、私がおかしいだけだからさ」


「私がおかしい?」


「うん」


「何かあったんですか?」


 ここは、思い切って聞いてみることにする。


「私ね、中学でやらかしちゃったんだよね」


「え?」


 重苦しい表情で、いやそれでいて清々しいくらいに未練なんかなくて、気が付けば。ふわりと緩んだ表情の彼女は静かに思い出を語っていました。


「そのね、ちょっとバカだったって言うか、なんというかね」


「馬鹿には見えないけれど」


「えへへ……まあその、とにかく、ちょっと度が過ぎたって言うかなんというか……」


「どが過ぎた、とかですか?」


「うん、好きな人がいて、ちょっと纏わり付きすぎたというか、ね。ちょっと若気の至りって言うところもあるけれど……」


 四葉に向けて、彼女は語り掛ける。

 ただ、彼女は詳細を教えてはくれなかった。


「えっと、その、そんなにヤバいことでもあったの? 西島さんには?」


「うん」


 彼女は言わない。


 それは頑なに、強情で、教えてはくれませんでした。


「まあ、そのくらいあるんじゃないですか。四葉にだってそういうことあったし、最近なんてちょっと良く分からないし」


「ちょっと?」


「うん、人間って難しいなってね」


 その瞬間、目を見張らくようにして聞いていた彼女は逆転したかのようにニタっと笑って、四葉に近づきます。


「好きな人?」


「っえあ⁉」


「図星かな?」


「っち、ちがう、ちがいます!!」


「顔赤いけどなあ?」


「ち、違います、気のせいです!」


「あははは、分かりやすいなぁ、もう」


「……うぅ」


「そうか、好きな人か~~、誰なのかな? この学校とか? クラスは?」


「い、いいません」


「え~~」


「いやです!!」


 それからというもの、彼女は自分については語らず。

 四葉の中へと入ろうとしてきました。

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