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第六話 「真の同志は灯台下暗し」 7

「はぁーーこわいこわい」


「てめぇ!」


 帰り道。


 僕は追い駆け続けたが、さすがの運動部員に勝てるはずもなく。いつの間にか四葉と前沢、そして西島咲と一緒に札幌駅を目指していた。親睦会というか、そんな感じのニュアンスで行くことになったのだが、僕がしたかったのはそう言うことではない。


「柚人……うるさいです」


「あはは、柚人くん面白いね」


 後ろの二人の言葉を右から左に聞き流し、僕は怒りの形相で彼の耳元で静かに尋ねる。


「っ! ……で、西島さん、結局何なんだよ?」


 僕の目を見て立ち止まり、他二人も不思議そうにこちらを窺っている。


 さすがに場所が場所で聞いた僕が悪かったのだが、正直、国語の話などよりも彼女のことが知りたかっただけなのだ。


「今かよ……」


「ああ、すまん」


「うしろになぁ」


「嫌なら後でも——」


 言い直そうとした刹那。

 彼は大きく振り返り、恐怖とも言えるほどの作りの笑みでこう言った。


「ちょっと、ごめん! トイレ行ってくるわ‼」


「あ、僕も行く」


 急な彼の台詞に一同驚きはしたが、すんなりと受け入れてくれたため。追いかけるようにして、道中のコンビニの大き目なトイレへ走った。


 不意に見せた彼女の不気味な笑みに、僕は若干恐怖したが、なぜなのかを聞くためならやむを得ない。


「おいおい、これは怪しまれないか?」


 僕がそう呟くと彼は僕を睨みつけて、


「お前が言い出したんだ、仕方ないだろ?」


「それはまあ……」


「それで、まず最初に俺からも言わせてもらいたいことがあるんだがな」


「前沢が、僕に?」


 真剣なまなざしの彼にはふざけた答弁をするつもりもないらしい。


 そんな姿を前にして、怖くないと言えば嘘である。彼女のことがそれほどまでにも危ないものだと言いたいと前沢——同じ中学校出身の前沢誠也は重苦しいほどの雰囲気で佇まっていた。


「やっぱり、そこまでなのか?」


「そこまでって?」


「いや……、彼女はそんなに危ないのかなって」


「危ない……ね」



 やはり、彼ら。 

 前沢誠也と西島咲の間には何かある。


 あくまでも、男の勘だ。女の勘よりも汎用性の低い、制度の低い変な勘が、そんな嫌な予感をなぜか確実だと言っていた。


「危ないというか——その、今は俺に危害が及んでいるが、いずれ君たちにも及ぶかもしれないと言いたいんだよね、俺は」


「……? いったい、どうゆうことだ?」


「まあ、そんな顔されてもこう答えるしかないんだけど……仕方ないかな」


「こうしか言えないって?」


「まあ、中学生の時にいろいろあったのさ。西島や俺の周りでね」


 眉が下がる。

 目元はさらに暗くなり、前沢は下を向いた。


 だが、僕も後には引けない。ここまで聞いたら聞くしかない。彼女といる事で四葉にも僕にも危険が及ぶのなら、どうであれ阻止したい。幼馴染——いや、妹が危険に晒されるのなら、兄はこうやって助けを、解決を望むだろうからな。


「それを知りたい、その昔話を」


「……そう来ると思ったさ、でも……いいのか、ちょいと重苦しいかもしれないぞ?」


「いいさ、無論そのつもりだ」


 そのとき、僕は気づいてすらいなかった。


 この行動が、僕に、いや四葉にも、この周りの関係にどのような影響が及ぶのかを。そして、それがもたらす行く末を知る由もなかった。

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