第2話 相談したいことがある
文化祭2日目は昨日の分働いてくれと言われ、ひたすら荷物運びと接客で終わった。1日目が濃すぎたのでこれくらいが丁度いい気もする。
なんとも尻すぼみな終わりかただった。というか、あの夕暮れ時の印象がでかすぎるのが原因だ。あれ以降も進展はなかったけど。
文化祭が終わり月曜になった。
放課後、俺は西階段を上る。2年生の教室は2階にあるから、3年フロアにある部室にはこうして上がる必要があるのだった。この瞬間が一番憂鬱だ。
「...どうも」
こうして挨拶したのは神野に対してではない。3階についた俺のさらに上、屋上にでる扉の前に腰かけている女子生徒にだ。彼女は数週間前からここに居座っている。
「──」
挨拶の返しはこない。しかし、ここにくると何故か目を合わせてくるので無視しずらい。シューズから見て上級生なので無下にも扱えない。途轍もなく気まずいな、この状況。
「ちっと怖いな」
毎回目付きが鋭く、威圧感がある。
まずなんでこんな所にいるんだよ。いつもだったら部活関係かと思って話を聞きに行くのだが、彼女の出す雰囲気がそれを妨げていた。
部室のドアをあける。部員は神野と俺だけのため、管理がずさんだったのか鍵はなくし、暫く開けっ放しだった。
神野はまだいないか。鍵がかかっていないことで判断できないのがちょっと面倒だ。あの可笑しい奴がいないなら彼女に話しかけるチャンスかもしれないな。まぁ俺達と関係なくても怒られはしないだろう。
「あの、なにかご用意ですか?」
部室からでて階段上に向かって声をかける。いきなり来た声に彼女は体を震わせた。
「別に」
俺が何を言えば正解なんだよ。この受け答えを考えるの難しすぎないか。
「えっと、なにか困ったことあったら言って下さい」
「っ」
彼女は息をのんだ。
「なんでそんなこと言うの?うちのこと好きなの?」
「どうでしょう?」
俺は緊張すると調子にのるらしい。すんなり曖昧な返事がでたのが驚きだ、本当に曖昧か?なかば肯定なんじゃ
「みんな私にそういうんだよ」
なんだ語り出したぞ。
「でも本当にボクのことは分かってくれないじゃないか」
「でしたら自分が理解者になりましょうか」
「君、本気で言ってるの?本気で言ってるよね?」
彼女はゆっくり立ち上がると、おぼつかない足取りで距離をつめてくる。
やばいこの人顔がマジだ。凜華なら笑ってながすところだが、この人マジの目をしてる。
「冗談です」
たまらず逃げた。彼女は笑顔で人を刺していくタイプだと思う。
「やっぱり分かってくれないじゃん」
「まず一人称教えてもらっていいですか?」
彼女は前髪で顔半分を隠しながら、一段一段降りてきている。ここ最近の恐怖体験で一番怖い。
俺が動けずにいると、同じ高さに降り立った彼女は俺の肩を掴んできた。正面から左右それぞれがっちりと。
「橘、いつしかお前がモテないという発言取り消してもいいか?」
「神野、助けろ」
「『助けろ』か、僕がお邪魔だったということだね、お暇させてもらうよ」
階段を上ってきたそのままの流れで降りていこうとする。どうやったらそんな解釈するんだ。
「ごめん興が乗った2年。またな」
肩の拘束が解かれると、彼女はしっかりとした足取りで3年フロアに去っていった。彼女の後ろ姿は綺麗な髪の輝きと、健康的な体つきによってとてもかっこよく見えた。
「今日はかっこよさげな言葉を使うデーなのか」
神野にいたってはいつものことだ。
「やっと僕の言葉使いに馴染んできたようだな」
普通に馴染みたくない。
このあと数日間、彼女の姿はなかった。
しかし、金曜日。部室に向かうと、『相談したい』と書かれた立て札を持つ彼女が部室前に立っていた。まさしく仁王立ちとはこのことである。
「相談したいことがある」
「誰だってわかります」
とうに分かっていたことだが、名前も知らない彼女は普通ではなかったらしい。
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