第1話 はい、喜んで
人生初ブクマを頂きました。
めちゃくちゃ嬉しいです、感動してしまいました。
引き続きお読み頂けるとありがたく思います。
「はい、喜んで」
神野は眼鏡クイッをしながら声を低くしてそう言った。丸顔のせいで絶妙にダサい。
「おまえじゃねぇ」
「あなたではありません」
「翔くん」の部分が聞こえなかったのか、意図的に消したのかは分からない。少なくとも凜華は俺の方を向いて話したはずなので間違えるはずがなかった。
「なに言うんだ橘、こんな美人学年top5には入るぞ」
「そういう問題でもねぇ」
その点に関しては同意極まるところだ。
神野が場違いなことをいったせいで、先ほどの凜華の言葉を忘れそうになってしまった。てか、くん呼びになっていた気がする。
そうとうインパクトがあるはずだったんだけどな。
「男女間という意味で付き合うのか?」
「勿論です。そうでなければ出れません。わたしが出ないわけにはいかないんです」
凜華は急に真面目な表情で話し始めた。欲しかった返しに変なものがついているのが結構気になる。そっちの方に気持ちこもってるし。
彼女ほど綺麗で、今日のように話してみても楽な女子は知らない。もし付き合うといえば凜華で決まりなのだが、俺にとっては高嶺の花だしあまり長い関係でもない。素直に受け入れ難かった。
「女装コン主催のわたしが出ないわけには」
ちょっと考え事をして黙っていたら、なんか危ない単語が聞こえた。それに話が繋がってきたような感じもする。
今は9月下旬。そういえばもうすぐ文化祭の季節である。このHCB部自体は文化祭にノータッチだ。といっても、少し経てば手伝いラッシュがくるだろうが。それに、クラスの出し物も聞かされてなかったのですっかり忘れていた。
「えっと純粋に俺と付き合うつもりじゃないよな、目的をお聞きしても?」
「翔くんはまず細身ですよね」
食いぎみに言われた。確かに、HCB部のせいで力仕事を任されたりはしているが、これといって筋肉がつくほどでもない。家では自堕落な生活を送っているのだが、少食なので痩せぎみだ。
「まぁ、どっちかといえば痩せてるな」
「はい、そして色白、肌も汚くない。勝てます」
凜華は満面の笑みをはりつけ、前屈みになりこちらを凝視している。そのパイプ椅子いつ壊れるか分からないんだ。怖い。
「俺に出場しろと」
返答など決まりきっているだろうが念のためだ。まだ断言されていない、一抹の希望がある。
「それ以外誰に...いえなんでもないです」
一瞬目を輝かせた神野をみての発言なのは明らかだった。おまけに凜華はため息もついていた。
「僕じゃだめなのか?」
その悲劇の男主人公みたいなセリフはなんだよ。
「それで俺と付き合うのになんの関係があったんだ?」
いわゆるミスコン的なのに出るのに誰かと付き合う必要があるのだろうか?それに凜華はわたしが出るみたいなことも言っていた。
「実はですね、先日の集会のときに咲愛さんがカップルでのコンテストをしようと言われまして」
咲愛とは俺、凜華と同じ2年5組の花崎 咲愛のことだろう。名前があまりにも花っぽいので覚えている。あと相当な美人だった記憶がある。
にしてもカップルコンテストとは非リアを挑発しているとしか思えない。キレそう。あれ、告白されたんだっけ?
「わたしはカップルに限定する必要なんてないと思ったのですが、一部の人達からどんどん盛り上がってしまい」
「で、自分も盛り上がっちゃったと?主催にいくまで?」
「...はい」
主催になってからやることが決まったという事ではないらしい。
少し俯き加減で凜華は俺の質問を肯定した。いままで優しさでノリに付き合ってると思っていたが、どうやら本質的にそういうのが好きみたいだ。
「そういうコンテストだったら、どうして女装につながるんだ?」
話を聞いている限りでは女装コンにはならなそうだった。女装含めて提案したのなら、最初のイメージが強すぎてそれほど盛り上がりずらそうだ。
「それは、わたし自身の歯止めが聞かなくなって」
さっきから塩らしいと思ったら、自分が言いだしたことのせいで追い込まれているかららしい。
乗りに乗って言ってしまったのだろう。そうして自分に彼氏がいないことに気付き、なんとかなりそうな俺に声をかけた。
自業自得な気もするが弱々しい彼女を見ていると強く出れないのも男の性だ。
「わかったよ、参加するのにそこまで抵抗ないし」
どうせ一瞬だけステージに上がって、少し話すか話さないかぐらいだろう。凜華も俺が女装することに期待してくれているので、それを理由に断りたくもなかった。
「ありがとうございます!では失礼しました」
凜華は俺の腕をとると教室を出ようとする。俺の返答を聞いてからの行動が早すぎないか。
「えっちょっと、ねぇ説めぃ─」
神野はなんか叫んでいたが、俺は凜華に連れられてそのまま教室を出ていくこととなった。
───
「どこにいくんだ?」
凜華に右腕を引っ張られたまま廊下を過ぎて行く。彼女の足取りは速く、行き先が決まっているのは確かだった。
「受付は今日までなんです。急ぎますよ翔くん」
彼女がみせた笑みは一層深くなっていて、これから彼氏になることを思い出したのはこの時だった。
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突然ですが凜華の苗字を清水に変更しました。(苗字名前ほぼ同じヒロインを見つけてしまった...作家さんすみません)