第3話 恐怖
10月31日を今年の曜日に当てはめていますが、コロナウィルスがない世界線ですので悪しからず
「会長さんチラチラこっち見てませんか?」
「気のせいだ。今回のはノータッチだからな、全く関係なんてない」
と言いつつも、楓と何回も目があっている。こっちの視線は壇上に釘付けなので、否応なしに目線はそっちにいくが、楓がこちらを見てきていている理由なんて分からない。
彼女の視力のよさは知らないので、俺のあたりで誰かさんを探しているのかもしれない。
「でもさっきわざわざ声かけて来ましたし」
「他意はなかったはずだ。ないほうが有難い」
「むしろそっちが本意というか...」
最初は高速で包帯剥がしをしていた楓だが、だんだんと遅くなり、逆にこちらを見てくる間隔が増えている。
目に見えて『ミイラ先輩』の装備が薄くなっている。今いる位置からの距離はまぁまぁあるので、大分減ってきたみたいだ。
「会長とやらの視線を追ってきたらやっぱりいたな、橘」
前方から神野が顔をだした。
その顔は見たことのある仮面で隠されているが。
「使い回しかよ...」
自分も衣装を作っていないので、なんとも強く言いがたい。
「いや、人の全裸が見られると思って急いで一番前に行ったんだが、生徒会に君をつれてこいと言われてね。橘と話しているところを見られてたらしいな、そうじゃなきゃ今頃ウキウキしてあそこにいれたんだけど。そこでは同志達と厚い友情が結ばれようと...」
「そこまでだ。それ以上言うと俺の隣のお方にヤられるぞ」
凜華が顔面を青白くさせて神野を見ていた。衣装とあわせて本当の魔女みたいな形相になっている。
「神野、伝言があるならそれだけ話せ」
「会長のところに行け」
「それでいいんだ」
とりあえず凜華の雰囲気は少しましになった。神野のとばっちりで俺も疎まれたら結構ショックだから避けたいところだった。
怒ったときは静かになるんだな。覚えておこう。
「にしても、結局そうなるのか」
「翔くんひとりだけで行かせる訳にもいきません。わたしも付いていきます」
凜華は付いてくると言っているが、神野の存在も大きいのではないだろうか。はっきりと言葉に表せないが。
ともすれば早く楓の助けに行ったほうがいいだろう。
「わかった。早く行ったほうがよさそうだ」
「そうですね。"速く"向かいましょう」
凜華は駆け足でステージに向かったので、俺も追うようにその場を離れた。
「橘君、遅すぎるよ。さっき合図しただろう?」
楓が近くにきた俺達に小声で話しかけてきた。やっぱりあれが合図だったのか。
「謝ればいいのかよ。これからどうするつもりだ?」
前にきたのはいいが、それから何をさせようとしているのだろうか。
「ボクも分からないよ。この人が君を呼べばいいって言ったからさ」
零先輩、なに言ってくれてるんですか。同じ展開にするつもりですか?
幸いなことに、体育館に先生方の目はない。当然、後でちくられて怒られるはめになるだろうが。
「零先輩、どうしてくれるんですか?」
「分かったか翔、これが真の恐怖だ!」
「確かに怖すぎますね!」
もう下着同然の彼女から目をそらし、楓のほうを見る。いったい目線をどこに置くのが正解なんだ。
楓はゆっくりを極めし者といった感じに包帯をひいている。顔は青くなっており、俺と同じ心境だろう。
「おい、はやくしろ!」
「最後で焦らすな!」
ステージ下では過激派が声をあげていた。いつの間にか見慣れたマスク野郎もいた。
お前たち、回りの目なんてお構いなしだな。
「───最低」
その時、極寒に冷めた声が近くで聞こえた。
視線を向けると、凜華が蔑んだ目で彼らを見ながら立っている。
俺は真の恐怖を知ったのだった。
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