第3話 ショーの始まり
「本当に全員コスプレしてる...」
2週間くらいの間なんかあっという間で、もう当日の朝である。凜華との買い物以来、ろくに自分用の準備をしていない。というのも、凜華から俺の分も作るからなにもしなくていいと言われているからだ。
昨日連絡を入れてみても、『明日持っていくまで秘密です』としか返って来なかった。みんなコスプレしてる中、自分だけしないという度胸はないので心配になっている現状だ。
学校側もこのイベントに積極的で、本日31日は土曜日でありながら校舎を解放している。楓と零先輩が頑張ったのだろう。
「おはようございます、翔くん」
振り替えると、魔女とかした凜華がたっていた。体育館にすべての学年が集合しているので、隅のほうで彼女を探していたのだが先に見つかるとは思わなかった。制服で目立ったのかもしれない。
「凜華さん、衣装ってお持ちになっているそれではないですよね?」
「もちろんこれですよ」
全身黒の魔女凜華が差し出したのは、全身赤の魔女衣装だった。しまった、彼女にこういう狙いがあったのを忘れていた。
「俺はこの2週間、他人の衣装作りに全力を注いできた。並み以上の裁縫スキルがついたと自負している。ということでいまから作ってくる、じゃあな」
「あっ待ってください、すみませんふざけ過ぎました」
彼女は畳んでいた魔女衣装のなかから、これまた赤いマントを取り出した。
「これがありますから」
それは贖罪になるのだろうか。
「お願いします、これに着替えてください」
真面目に頼まれ始める。このままという訳にもいかないので、それを受け取り更衣室に向かった。
更衣室で受け取った服をよくみると、細かい刺繍がところどころあり、背中は大きく空いていて露出するようになっている。
着てみると、だいたいのサイズしか伝えていなかったのに凄くからだにあった。着心地もよくつくりもしっかりしている。
「これはあれだな。実力があがればあがるほど、上位者との差がわかってくるってやつだ」
マントを羽織り、凜華に言われていたスカートの中の紐を使って、下半身部分を調整すると魔女ではなく普通の魔法つかいらしくなった。
「やはりお似合いです!」
更衣室を出ると、前のめりになった凜華が待機していた。彼女の黒魔女衣装は、彼女自身の妖艶さをより引き出しており、それでいて仕草によってはとてもかわいく見える。
「俺のより露出少ないじゃないか」
「なにか?」
「いや、なんも」
絶対聞こえてたな。答えたくないのは答えないってずるくないか。そのまま二人で本会場である体育館に戻った。
「やぁ橘君、清水さん。二人とも似合ってるね」
入り口付近で、骸骨が散りばめられたドレスを着ている楓に声をかけられた。
「いや邪魔はしないよ。もうすぐ挨拶の時間だから、体育館の中にいるようにお願いできるかな?」
「それは全然構わないんだけど、危険人物さんがやらかさないか心配でさ」
俺が言う危険人物とは、この状況下だとだいたい一人だ。
「一番危ないのは橘君自身だと思うけど、安心してくれ彼女はボクの監視網に入っている」
楓は言いながらステージに視線を向ける。ステージ上ではドラキュラっぽい人が手をあげていた。
遠目で見た感じ多分中村だな。
「そろそろ開幕セレモニーだ。お暇させてもらうよ」
彼女は優雅な足取りでステージ方向に歩いていった。なにかしら教育でも受けていそうだ。
「翔くん、これからどうします?」
「正直、知ってる人のコスプレ見るくらいしかやることない」
「ですよね...」
とりあえず、神野と零先輩は一度見ておきたい。
「みんな集まってくれてありがとう。これから開幕セレモニーを始める。盛り上がってくれ」
楓の放送が入った。現在は10時くらいだろう、体育館は込み合ってて時計が見えない。
「まずは実行委員代表からだ」
放送とともに一人の全身包帯が登壇する。
「私は実行委員会の新沼零だ。こんなに集まってくれるとは思わなかった。感謝をのべたい」
本当に零先輩だよな?真面目すぎはしないか。
「なにか凄く嫌な予感がします」
「俺もだ」
ひと呼吸おく音が入る。
「午前の一大イベント。ミイラの解体ショーの開始を宣言する!」
そういい終えると同時に、楓が零先輩のもとにかけより包帯をはがし始めた。勢いよく零先輩をぐるぐる回すようにだ。
「ちなみに私は中になにも着ていない」
マイクが最後に拾った音に、俺と凜華は顔を見合わせた。
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