第3話 既視感
はやめに出すと言ってもやっぱり遅いですね
俺は部室である男をしめていた。
「なんで、お前は怒られないんだあ?神野さん」
「痛い痛い痛い痛い」
俺は神野の眼鏡を両わきから押し潰すように、こめかみを壊しにかかっている。
「僕は電気消しただけだ、怒られなくて当然」
「だったら俺の方が無罪だ」
俺は呼ばれたのでステージにあがり、結局痛め付けられただけだ。しかも、なんで主犯として扱われるの?零先輩はすぐ解放されたし、どうみても彼女が一番まずいだろ。
「考えてたら、ますます彼女の存在が怖くなった」
神野の顔色が青くなってきたので、このあたりにしてあげよう。
「彼女がどうかしたんですか?」
声のほうに目を向けると、凜華が部室のドアを開けていた。
「翔さん、彼女がどうかしたんですか?」
怖い。急にさん呼びに戻ってる...迅速な言い訳が必要だな。言い訳じゃなくて正当な理由だけど。
「いやさ、全校集会のとき変な格好した人がいたじゃん。その人のことだよ」
「しばらく彼女をほっといて、他の女の話ですか?」
質問しかしてこないじゃん。どうすんだこれ、凜華が正式な彼女ってわけでもないのに。
「冗談です。そんな辛い顔しないでください」
急に笑顔がでた。さっきまでの恐ろしい様子とは打って変わっている。彼女はノリが相当好きなのが原因か、演技がとても上手い。この立場だと役損じゃね?
「君たちは、なんでまだ付き合ってるんだ?」
神野が純粋にわからない顔を向けてきた。恐らく俺は怒っていい内容を含んでいるだろう。付き合ってる理由も聞かされてないので、答えられないのも神野にヘイトが溜まる要因だ。
「凜華、どうしてここに?」
神野を殴りたいのもやまやまだが、今は凜華の相手をしないと大変なことになる気がした。
「えっと、翔くんは今日暇ですか?」
俺達は5時半まで部室で待機し、それまでに依頼がなかったら下校という決まりにしていた。
さっき運動部のトレーニング用品運びを手伝ったが、今日はたいして依頼はなかった。といっても、ほぼここで神野と戦っているだけで毎日が終わるのが普通だ。
「そろそろ5時半だし、全然暇だな」
「では帰りましょうか」
凜華は俺の腕をとって教室をでようとする。
「ちょっとなんか既視感あるし、まだ30分になってないよ!?」
神野が急にほえる。当然っちゃ当然だろうが、こうやってるのが彼にはあっているのだろう。神野に友人が多かったら、より面白いやつになってそうなんだけどな。
「凜華はそういう流れが好きみたいだ。まぁ依頼に含まれそうだからいいだろ」
「含まれそうでいいの!?」
こういうツッコミは俺の担当だったのに、神野という人間は成長できる者らしい。俺は誇りに思う。
「神野、俺はお前を信じてる」
「ふん、もっと信頼すべきだ」
やっぱダメみたい。
「翔くん行きましょう」
「そうだな」
俺は凜華と一緒に部室をあとにした。
───
学校をでて5分ほど歩いた。凜華は帰る方向が同じと言ってはいるが、彼女を自分の家の方向で見たことはないので信用できない。
なにか用があるんだろうが、なかなか聞けない。
「いきなり連れ出してしまってすみません」
「全然いいよ、時間ばっかりはあるんだ」
彼女の悪ノリが少ないことから真面目な話だと感じた。静かに聞くべきだろう。
「翔くんは質問とかあまりしてこない方なので、甘えていました」
恐らく付き合っていることだろう。俺は美少女と一緒にいれるだけで嬉しいのだが、彼女はなんかしら訳があるはずだ。
「今月末のハロウィン、やってしまいました!」
なぜか既視感に襲われる未来が見えた。
第3話スタートです。ハロウィンがテーマ
次回更新は、明日19時から20時あたりを予定しています