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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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上手く怒れない

 飲食店が立ち並ぶ通りに、一際注目を集める四人組が居る。勿論、私達の事だ。


「……なぁ、なんか視線を感じるんだが」


「そりゃそうでしょ。だってマグマ怪しいし」


「怪しくねぇよ!いったい俺の何処が怪しいって言うんだ」


 女の子を三人も連れた強面の大男。うん、間違いなく不審者だ。

 だが、それを説明して拗ねられても困るので、適当に誤魔化しておこう。


「まぁ、マグマは背が高いから普通にしてても目立つよ」


「そんなもんか……いや、でも――」


「そんな事はどうでも良いわ。

 私もお腹が減ったので、早く決めましょ」


「どうでも良いって……」


 メロディが一蹴する事で、マグマはあえなく撃沈した。

 マグマには悪いが、正直面倒くさかったのでメロディのナイスアシストだ。


「まぁ、いいか……それで、お前らは何が食べたいんだ?」


 答えが決まっていた私達は、マグマの質問に一斉に返す。



「「「ジ酸オク湯ースよ!」」」



「待て待て!同時に言われても、さっぱりわからない!」


 まぁ、今のは聞き取れなくても仕方がない。

 私だって、他の二人が何て言ったのか全くわからない程だ。


「一人ずつ順番に聞いていくぞ。

 まず、お前は何て言ったんだ?」


 最初に聞かれた私は元気良く答える。


「酸辣湯麺だよ!」


「スー……何?」


「だから、酸辣湯麺(スーラータンメン)

 酸っぱ辛くて美味しい中華料理なんだけど、この街の中華料理屋さんは何処も作ってないらしくて――」


「街に無ぇ物を挙げるなよ!昼飯の為に何処まで行く気だ。

 はい、次の奴!」


 次に指名されたメロディは髪を掻き揚げて、自慢げに答える。


「ジャンクフードよ」


「ハンバーガーとか、ホットドッグとかか……もう少し詳しい希望はあるか?」


 確かにジャンクフードと言う指定では幅が広く、店を決めるに当たっては弱い。

 更なる要望を聞かれたメロディは、より一層自慢げに語る。


「油っこくて下品なほど良いわ」


「種類を(せば)めろよ!店による油っこさの違いなんか知らねぇよ!範囲広いままじゃねぇかよ!

 ……と言うか、それ本当に食べたいのか!?

 驚くほどに食欲の湧かない説明だったぞ?」


「ああ勿論、味が濃すぎるのは駄目よ」


「何が勿論なんだよ!それこそ知るかよ!

 食の専門家でも雇えよ!はい、次の奴!」


 勢い良く指名さたユウカちゃんは遠慮がちに自分の意見を伝える。


「あの……私はオムライスが食べたいなぁ……なんて」


「……おぉ。真面(まとも)な意見だ。

 つい身構えてツッコミ所を探してた自分を恥じるばかりだぜ」


 私だって真面目(まじめ)に答えたのに、全く失礼なものだ。

 でも、確かにユウカちゃんの意見に文句はない。


「オムライスかぁ……良いね、美味しそう」


「別に私も構わないわ」


「それじゃあ決まりだな」



 ――――――



 マグマの案内で、オムライスが美味しいと評判のカフェにやって来た。

 テーブル席が空いておらずテラス席に座る事になり、やはり通行人からの視線を感じる。強面のマグマが店先に陣取るだけで、若干の営業妨害になる気もするが、マグマに悪気はないし長居するつもりもないので目を瞑ってもらおう。


 甘くてフワフワなオムライスを堪能しつつ、雑談にも花を咲かせる。


「さらっとこの店に案内してくれたけどさ、マグマって意外と食通だったりするの?」


 正直、強面のマグマからこんな素敵なお店を紹介されるのは意外だ。


「いや、俺は甘いものが好きでな。

 その類いの事にしか詳しくはない」


 そう言えば、さっき遭遇した時もドーナツを幸せそうに食べていた。

 冷静に考えれば納得の答えだ。


「そんなに甘いものが好きならば、踏まれたと言うドーナツも買い直したら如何(いかが)?」


 確かにメロディの言う通りだ。あんなに幸せそうに食べる程に美味しいのなら買い直すべきだ。

 決して、ついでに一口貰おうなんて考えている訳ではない。


 だが、マグマは首を横に振り答える。



「今から行っても、もう無いさ。

 なにせ、朝から並んで買った一日十個だけの限定品だからな」



「「「えええぇぇ!?」」」


 女子三人の声が木霊し、突然の事に驚くマグマ。


「そんな大事なものを台無しにされて、平気そうな態度取ってたの!?

 それは怒って良いよ。いや、寧ろ怒るべきだよ!」


「同感ね。お金を出しても手に入らない物は何よりも貴重よ」


「苺クリームスペシャルドーナツは流石に……」


「ユウカまで!?」


 その苺クリームスペシャルドーナツは知らないが、個数限定の人気商品を台無しにされたら、誰だって怒るのが当たり前だ。

 甘いもの好きと言っていたが、スイーツにかける情熱は足りていない様だ。


「でも、俺は上手く怒れないからよ」


 ポリポリと頬を掻くマグマ。成る程、苦手分野と言う訳か。

 頻繁に怒る人よりは良いのかもしれないが、全く怒れないと言うのも問題だ。

 仕事を押し付けられたりと、良いように利用されかねない。


「よし、怒る練習をしてみよう」


「そうは言っても、どうやったら出来るのか……」


 マグマは自信なさげだが、全く素質がない訳ではない。


「ツッコミをする時のノリでやれば良いんだよ」


 マグマのツッコミは迫力がある。

 それに感情を少し乗せてやれば良いのだ。


 私の言葉を受けてマグマは少し考え込むと、大きく息を吸って一気に捲し立てる。


「あいつら許せねぇ!まだ一口しか食べてなかったのに踏みつけやがって!俺の二時間を返せよ!

 食べ物を粗末にしたら罰が当たるって知らねぇのか糞野郎共がぁ!」


 勢いに任せテーブルを叩くマグマ。

 力が弱い為、テーブルが壊れる様な事はない。


 だが、迫力は十分にあった。

 私でも少しビクッとなったくらいだ。


 しかし、そうなると当然、私より小さい子供には刺激が強すぎた様で――


「うぅ……ぐすっ……」


 ユウカちゃんが泣き出してしまった。

 私とマグマは必死に宥めるが、涙はポロポロと零れ落ちていく。


 それを見ていた通行人や他のお客さんもざわめき始め、遂に()()がやって来てしまう。



 さて、突然ですがここで問題です。

 強面の大男が小さい女の子を怒鳴って泣かせたらやって来るもの、な~んだ。


 答えは簡単。



「君、ちょっと良いかい?」



 そう、職務質問である。

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