足りないのでよろしく!
逃がしてしまったので、子供達の所に戻る。
袋から取り出した子供達は、気を失っているが二人とも怪我はなさそうだ。
「う、う~ん……」
そんな声と共に一番早く目覚めたのは、マグマだ。
あれだけ弱いと気絶し慣れてるのか、流石に復帰が早い。
「マグマ大丈夫?」
「ああ、平気だ……それよりも、あいつ等は?」
「逃げられちゃった。でも、ちゃんと子供達は救えたよ」
私が示した子供達を見て、マグマは目を丸くする。
「あれ、誘拐犯だったのかよ。せいぜい引ったくり程度かと思ってたぜ」
そう言えば、説明してる時間はなかったので、捕まえてほしい理由は伝えていなかった。
それでも咄嗟に動いてくれるなんて、マグマは優しいな。
「それよりも、ドーナツごめんね」
「ん?……ああ。仕方ないさ」
私が指し示す先にあるのは誘拐犯に踏まれたクリームドーナツ。
ぐちゃぐちゃで汚いし、もう食べられそうにない。
「それよりも、あいつ等は結構な手練れだと感じたんだが、お前一人で追い払ったのか?」
「そうだよ。凄いでしょ!」
「お前は強いんだなぁ……
あんなに強ぇ親に鍛えられたんなら当然か」
マグマの言う「親」とはクラウスの事だろう。
このまま親と誤解させておいても良いが、クラウスにバレたら怒られそうだがら一応訂正しておこう。
「一応あれは相方兼、兄ね」
「なんで兄と相方を兼任してるんだよ。漫才でもするのか?」
「それも一回提案したんだけど断られちゃった」
「提案はしたのかよ……」
あれは会心の出来だったのに、披露する機会がなくて残念だ。
「何にせよ、それだけの実力を持ってるのは凄い事だ。
俺なんて先輩冒険者なのに、まだまださ」
「確かに弱いもんね」
「ぐっ……」
弱い事を意外と気にしてるらしいが、それでもマグマにはマグマの強みがある。
「私もまだまだだよ。血が苦手で、魔物の血を見ると力抜けちゃうし。
それに、冒険者って言うのは弱いから劣ってるって訳じゃないんだよ。それぞれのランクに…………なんだっけ?」
「いや、俺に聞くなよ!
誰かの受け売りかよ!
しかも、うろ覚えかよ!」
格好良く決めようと思ったのに、実に惜しかった。
でも、まぁ大体は伝えたい事も伝わっただろう。
「とにかく、お互い頑張っていこうねって話!」
「ああ、そうだな」
――――――
そうこうしている内に、子供の一人も目を覚ました。
「あれ?私は……」
「大丈夫か?」
「ひいぃ!」
起きて直ぐにマグマの強面が覗き込んできたら、誰だって悲鳴をあげる。
「このマグマおじさんは顔怖いけど、優しくて弱いから安心してね。
私と一緒に、拐われた貴女を救うのを手伝ってくれたの」
「弱いは余計だろ!」
私の説明で状況を理解したのか、目覚めた女の子は慌てて頭を下げる。
「あの、助けて頂いて、ありがとうございます!」
見た目からしてまだ六、七歳くらいだろうに、丁寧な態度だ。
「どういたしまして。お名前は?」
「ユウカです」
ユウカちゃんは幼い事もそうだが、かなり目立つ容姿をしている。
頭から生えた灰色のケモミミ、間違いなく獣人だ。
「丸い耳……熊かな?」
「いえ、あの……少し違くて――」
「耳から生えてる白い毛が見えないの?
常識的に考えてコアラでしょ」
ユウカちゃんの答えを掻っ攫っていったのは、気絶していた筈のもう一人の女の子だ。
「えっと……貴女は――」
「メロディよ。私は、只のメロディ」
そう答えるメロディは、ユウカちゃんよりも三つ四つ年上に見える。
綺麗な銀髪に可愛らしい耳。此方は見るからに猫獣人だ。
その偉そうな態度は、子供だからだろうか。それとも猫だからだろうか。
「それで貴方達、助けてくれたのは感謝しているけれど、この後どうするつもり?」
メロディの問いに、私とマグマは顔を見合わせる。
「こう言う時って、親御さんの元まで送り届けたりするの?」
「いや、衛兵とか領兵に連絡したりするんじゃ……」
当然、誘拐犯から子供を救うなんて経験は、私もマグマも初めてだ。
この後どうすれば良いのかなんてさっぱり分からない。
どうしようかと議論していると――
ぐぎゅる~
可愛らしいお腹の音が鳴り響く。
ユウカちゃんが顔を真っ赤にしているので、そう言う事だろう。
「じゃあ皆でご飯食べに行こっか」
「でも、私お金持ってなくて……」
「当然、私もよ」
子供達はお金の事を気にしているが、小さな子供に払わせる程、私もケチじゃない。
「安心して。勿論、奢りだよ――マグマの!」
「俺かよ!」
私も他人の分まで払える程のお金は渡されていない。
足りないのだから致し方あるまい。
「よろしくね、先輩☆」