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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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逃がす訳にはいかない

 走る男達の斜め後ろを飛びながら追い掛ける。


「おい、そっちのガキはリストに載ってなかっただろ」


「良いじゃねぇか。条件は満たしてるんだからよ」


(リスト?条件?

 子供を片っ端から拐ってる訳じゃないのかな?)


 例えば身代金目的だったらお金持ちの子が狙われたりする。

 だが、電話も車も普及してないこの世界で、身代金目的の誘拐は何かしっくり来ない。受け渡しの時にあっさり捕まりそうだ。


(他に誘拐の目的……)


 頑張れ、相方コレクション(刑事ドラマの再放送)を毎日見ていた私の脳みそ!


(う~ん…………あ!)



「人身売買!」



「「!?」」


 私の声に男達が振り返る。

 しまった。声に出てしまっていた。


「誰か居やがる……」


「不味い。撒くぞ!」


『蜃気動』で透明になっているので私の姿は見えていないが、私が居る事は流石にバレたのだろう。男達が全速力で走り出す。


 さっきの反応から見て、目的は人身売買で間違いない。

 だとしたら尚更ここで逃がす訳にはいかない。



 ――――――



 単純な速度なら大した事は無いのだが、見失わない様に追うのは大変だ。


『プロト』


「ちっ!またか」


 二手に別れようとするのを『プロト』を出して防ぐ。

 袋に入った子供に当たる可能性もある為、迂闊に攻撃は出来ないのがもどかしい。


 せめて、誰かが手伝ってくれれば良いのだが、そう上手くはいかない。


「退けぇ!」


「痛っ、何すんだ!」


 男は時々遭遇する通行人も押し退けて走り続ける。

 通行人は文句こそ言うが、それ以上は気にせずにまた歩きだしてしまう。

 子供が入っている麻袋が冒険者が使う物と同じなので、通行人には「ガラの悪い冒険者」程度にしか思われないのだ。


 カムフラージュが上手い。仮に今、私が「そいつら誘拐犯です!」って言っても、通り過ぎるまでに反応してくれる人なんて居ないだろう。

 それこそ、私の事を知っていて、正義感が強くて、頼りになる人でもなければ……


(そんな都合の良い人なんて…………居た!)


 目の前の狭い路地には、ドーナツを幸せそうに頬張っているのは、先輩冒険者のマグマだ。

 大男のマグマが持つとドーナツが異様に小さく見えるが、今はそんな事はどうでも良い。


「マグマ!そいつら捕まえて!」


 私は『蜃気動』を解いて大声でマグマに叫ぶ。


「!?……任せろ!」


 突然現れた空飛ぶ私に驚いた様子だが、走ってくる男達を認識すると、ドーナツを置いて直ぐに構えてくれた。

 道を塞ぐ大きな図体は、長年冒険者としてやってきた風格を纏っている。

 これなら捕まえられ――


「この新人潰しのマグマ様が――」


「邪魔だ!」


「ぶごぁ!」


 鳩尾(みぞおち)を殴られたマグマは一瞬で気絶させられた。

 そうだ。マグマは頼りにはなるけど、めっちゃ弱いんだった。



 だが今回は弱くても気絶してても、その巨体が役に立った。


「くそっ!」


 マグマの横を通り抜けられず、男達の足が少しの間止まる。

 そんなチャンスを逃す明ちゃんではない。


『この声よ届け』『クラップ!』


「「ぐあっ!」」


 男達が思わず耳を抑えるが、咄嗟に動くには子供入りの袋は重すぎた。

 思わず手を離してしまい、子供達が入った袋は地面に落下する。


 このまま落ちたら怪我をしてしまう。

 私は咄嗟に、上昇気流を作り衝撃を緩和する魔法を組み立てる。


『エアクッション!』


 そう名付けた魔法が、子供達を安全に地面まで届ける。

 作りは簡単な魔法である為、土壇場で魔法を作り上げるのもなんとか成功した。


『クラップ』の耳鳴りから復帰した誘拐犯が再び袋を持とうとするが、そんな事は絶対に許さない。


『プロト!』


 空気の壁が袋と奴等を隔てる。

 これで奴等は子供達に指一本触れられない。


「くそっ、ガキ如きに……」


「これ以上は不味い。一旦退くぞ」


 マグマを踏み越えて向こうへと逃げていく誘拐犯達。


「待て!」


 私も直ぐに追い掛けるが、角を曲がって抜けた先は人通りが多い大通りだった。

 左右を見渡してもローブ姿の人影は無い。大通りに出る瞬間に脱いだのだろう。

 そうなると顔も見ていない私には、これ以上追うのは無理だ。


 捕まえられはしなかったが、子供は二人とも無事に救出出来た。

 今はそれで良しとしよう。

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