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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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じっとして居られない

「そうして、白金姫は小人が掘り出した金銀財宝で一生幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


(やっっと終わった……)


 要約すると、ヒモの白金姫が魔女に毒を盛られるも小人が頑張って治して、姫はヒモとして幸せに暮らすと言う話だ。

 めちゃくちゃ教育に悪そうな童話だけど、ソプラ様はこれを読み聞かせて良かったのだろうか。


「面白かったね~」


「ね~」


 これを素直に受け入れている、幼い子供の適応力の高さたるや。

 私だって全然若いし柔軟だけれども、六歳と十六才の間にある壁は厚い。

 天才でも美少女でも、年の差は覆せない。


「さて、今日の読み聞かせ会はこれでお終いです。

 皆さん気を付けて帰って下さいね」


「「は~い」」


「ソプラ様、またね~」


「バイバ~イ」


 子供達は元気に帰って行くが、私の方は精神力を随分と使った気がする。


(もう帰って寝よう)


 まだ日も昇りきってないが、私の一日はこれで終了である。



 ――――――



 そう思ったのだが、そんな時に限って問題は起こるのである。



「貴方が浮気するから!」



 そんな言葉が聞こえてきて、私の体がビクリと反応する。

 それは一ヶ月以上経っても忘れない――忘れないあの日に()()が放った言葉。


(……いやいや、落ち着け。立島さん(私を殺した人)が此処に居る訳がない)


 冷静に聞いてみれば、声も全然違う。

 偶然の一致に体が過敏に反応してしまったようだ。

 結構ありきたりな台詞だから、いちいち気にしていたら身が持たない。


 それはそれとして、浮気なんて言葉が聞こえてくるこれは十分に揉め事である。

 であれば、明ちゃんが仲裁してあげなければなるまい。


 そんな風に一歩を踏み出した時に、クラウスの言葉を思い出す。


『特に痴話喧嘩の仲裁は絶対にやめとけよ』


 カップルはまだ揉めている様だが、ここからでは余り聞き取れない。もっと近くに行かなければ。

 それに、もし何か有った時に私が近くに居れば止められるかもしれない。なんてったって今の私には魔法があるのだから。

 だが、それではクラウスの言い付けを破る事になる。


「どうしたもんか……」


 迷った末に、私は『蜃気動』で姿を隠して『フライ』でカップルの近くの屋根まで飛んでいく。


 結局破ったのかって?違う違う。

 これは偶然屋根に上ったらカップルの声が聞こえて来るだけで、仲裁に入ろうか迷っているとかそんなのではないのだ!



 屋根に上った私は、()()聞こえてくるカップルの争い事に耳を傾ける。


「だって、私が居るのに他の子を見るなんて……そんなのもう浮気じゃない!」


「違うんだ!僕は確かに君じゃない女性の方を見ていた。

 でもそれは、その人の鎧に反射した君に見惚れていたんだ」


「なんだ~そうだったのね」


「君より美しいものなんて、この世にある訳ないじゃないか」



「阿呆らしい……」


 思わず声に出てしまう程、只々のろけを聞かされただけであった。

 と言うか、鎧に反射してる顔なんて大抵ぐにゃぐにゃだろう。それに見惚れたとか、お世辞どころか最早煽りだ。


 今すぐ飛び込んで「貴女は多分騙されてますよ」って言ってあげたい所だが、こう言う男に夢中になってる人は全然こっちの話を聞いてくれない。

 恋は猛毒……じゃなくて耄碌(もうろく)……でもなくて…………盲目だ!

 二人の空間に私一匹入り込む隙間はない。


(透明美少女は大人しく帰りますよ~)


 イチャイチャしてるカップルを視界に入れない様に、私はゆっくりと飛び去った。



 ――――――



 最短距離で宿まで飛んでいると、真下の路地裏から小さな悲鳴が聞こえる。


 下を見てみれば、ローブ姿の怪しい男が小さな女の子を袋に入れている所だった。


(これ……人攫いだ!)


 昨日、門番さんやフロンちゃんが言っていた。

 まさか現場に立ち会う事になるとは。


 女の子を袋に入れた男の横には、同じく何かが入った麻袋を持つローブの男がもう一人。

 丁度、子供が一人入ってそうな膨らみ方だ。


(やばい、二人も拐われてる)


 透明な私が上から見ているとも知らない男達は、左右を見渡すとそそくさと逃げ出した。

 今、近くに人通りは無い。この犯行に気付いているのは私だけだ。


 そんな時、またもクラウスの言葉が(よぎ)る。



『危ない事はするな』



 だが、過っただけだ。

 今回ばかりは私も迷わない。


(ごめんクラウス。

 私、じっとしては居られないみたい)


 心の中のクラウスが騒いでいるのは無視だ。

 私は、誘拐犯を追い掛けて飛んで行く。

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