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空気が読めない空気魔法使い  作者: 西獅子氏
第三章 セイヴィア男爵領編
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安心して構わない

「いいか、危ない事はするな。

 面倒事には関わるなよ」


「わかってるって、おとん」


「誰がおとんだ!」


 いつも通りのこの調子である。

 クラウスは心配し過ぎなんだから。


「でも、遅くても夜には帰ってこれるんでしょ?

 それくらい大人しく出来るって」


 クラウスが向かう場所も、街からそんなに離れていない。

 そんな短時間で面倒事なんて、起こそうとしたって起きやしない。


「特に痴話喧嘩の仲裁は絶対にやめとけよ」


 それは私が元の世界で殺された原因。

 正確には痴話喧嘩自体が悪い訳ではないけれど、少なくとも縁起は悪い。


「わかってるって。

 ほら、行ってらっしゃい!」


「……行ってくる」


 明ちゃんだって少しは吹っ切れたし、クラウスも安心して良いのに。


 クラウスを見送って、私は宿の部屋に戻った。



 ベッドに腰掛け、今日の予定を考える。

 久し振りに昼寝をするのも良いが、せっかく街に来てるのにそれは勿体無い。


「う~ん…………ZZzzz……」




 ……はっ!いかんいかん、危うく寝てしまう所だった。

 このままベッドに居ても寝ちゃうから、取り敢えず外に出て散策しながら考えるか。



 ――――――



 外に出て当てもなくブラついていると、広場に辿り着いた。

 そこには多くの子供達と、領主夫人のソプラ様とお付きの騎士が居た。


 ソプラ様は本を持って椅子に腰掛けている。

 これが以前にアキナさんが言っていた読み聞かせ会だろうか。


「さぁ皆さん、そろそろ始めますよ。

 今日は、(わたくし)の一番のお気に入りの本を持ってきました!」


 ソプラ様がそう言うと子供達は目を輝かせてワイワイと(はしゃ)ぎだした。


「そんなに面白いのかなぁ……」


「すんごく面白いよ!」


 無邪気な笑顔で伝えてくれる一人の子供。


 私だってオタクの端くれ。面白いものは大好きだ。

 子供達がそれだけ盛り上がれる話がどんなものか気になる。


「どうせ暇だし、一緒に聞いていこうかな」


 私も子供達に混ざって体育座りで、ソプラ様の声に耳を傾ける。



「白金姫、始まり始まり。

 ある所に、魔法の鏡を持つ恐ろしい魔女がおりました」


 おっと、この話は何だか知っている気がするぞ?

 ……そうだ、白雪姫だ。

 成る程、白雪姫ならば絵本の代表的なタイトルだからね。

 子供達が気に入るのも頷けると言うもの。



「その魔女の何が恐ろしいって、強大な自尊心です」



 …………ん?


「『鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰だい?』

 ほら、これです。無機物を相手に己の承認欲求を満たそうとは、何とも醜い。さながら白鳥の子。いえ、成長したにも関わらず此の有り様とは……鳥類以下ですね」


「ストップストップ!」


「何かおかしな点でも有りましたか?」


 さっぱりわからないと言う様に首を傾げるソプラ様。

 お付きの騎士なんて剣の柄に手を掛けているが、それでも流石にツッコまずには居られない。


「いや、おかしいでしょ!

 難しい言葉を使いすぎだし、当たりが強いのなんの。

 私びっくりしちゃった。鳥類以下とか言われてる魔女なんて他に居ないよ。もう途中から読み手の感想だよ、読書感想文だよ!」


「ですが、(わたくし)は本に書いてある事を読んだだけですし……」


 いやいや、そんなまさか。

 子供向けの本にそんな言葉が書いてある訳が――


「本当だ……」


 衝撃。明ちゃん史上最大の衝撃。

 絵はファンシーでイメージ通りなのに、文章がこれだ。そのギャップは凄まじい。


(……でも、別にそんな絵本を作るだけならば不可能じゃない。

 問題は、これを子供達が楽しめるかと言う事で――)


「あたしね、このお話知ってるよ!

 この後、魔女が――」


「しーっ。駄目ですよ、初めて聞く子も居ますからね」


「あ!はーい」



「読み聞かせをするとよくある奴っ!」


 ボランティアで幼稚園の読み聞かせに行くと、やたらとネタバレしたがる子供が一人は居て困る。読み聞かせあるあるだ。

 そして、それは白金姫が子供達にとっては普通の絵本と言う証。


「あれ?これ私がおかしいのか……?」


「もう続きを読んでも構いませんか?」


「あっ、どうぞ」


 いけない。あくまでも主役はソプラ様と子供達だ。

 私の個人的な感情でツッコんで、読み聞かせの邪魔をしては駄目だ。



「……鳥類以下ですね。

 そして魔法の鏡の返答も実に単調なもの。

『それは………勿論、ね………魔女様っす。当たり前じゃないっすか!』

 鏡の得意なおべんちゃらです。鏡とは実に脆い物体である為、魔法の鏡は魔女に逆らう事はしませんでした。

 自己保身ですね。浅ましいです」


(ツッコんじゃ駄目だ。ツッコんじゃ駄目だ)


 私は、とんでもない戦場へと足を踏み入れてしまった様だ。

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